緑の翼獅子
「西条さん、強い魔物が出たのかもしれない。多分、レッサーレイクサーペントよりも強い魔物が」
俺は周囲を警戒しながら西条さんに警戒を促す。
「レッサーレイクサーペントよりも……この階層にそのような魔物は現れないと思うが。変異種とも違うんだね?」
「はい。これは――」
俺が予想を述べようとした時だった。
『泰良、さっきダンプルから連絡が来たよ。青木経由で』
ミルクから念話が届いた。
『ダンプルから? どうした?』
『せっかく俺が琵琶湖ダンジョンにいるのならって、四十九階層の魔物を泰良のところに送ったみたい。自分の強さを把握するにはちょうどいいだろうって』
『なんてありがた迷惑な』
『私たちもそっちに行こうか? 琴瑟相和を使ったら楽に倒せるし――受付も誰もいないなら、PDの二十一階層からそっちに行けば一瞬で移動できるでしょ?』
普段は受付で入場記録を残さないといけないから使えない裏技だが、PD経由でダンジョンに入ることで一瞬で深階層に行くことができる。
だが――
『いや、必要ないよ。敵が一体だけっていうなら戦いにも集中できるしな』
『わかった。でも、危ないって思ったら逃げてね。地獄の業火使うのも禁止!』
地獄の業火を使ったら迷宮転移で逃げることができないとミルクは言ったのだろう。
『勝つにせよ逃げるにせよ、全部終わったら念話を送るよ』
『うん、待ってる』
念話終了。
西条さんに事情を説明する。
「どうやら、四十九階層の魔物が来るみたいです。西条さん、戦えますか?」
「四十九階層か……さすがに僕ではきついかな?」
「だったら俺が戦います。四十階層のボスくらいならソロで撃破できるんで――多分戦えると思います」
四十階層のボスは四十五階層の雑魚モンスターと同レベルだと言われている。
そこから四階層も上の敵だけど、まぁなんとかなるだろう。
「わかった。少し離れた場所で見ているよ。解放:光の加護」
俺の身体を白い光が包み込む。
「この魔法は?」
「闇属性以外の魔法の耐性を上げる補助魔法だよ。どんな敵かわからないけど念のためにね」
「ありがとうございます」
光魔法はミルクが覚えている魔法だけど、そこまで熟練度を上げていないのでこの魔法は使えないんだよな。
あいつは薬魔法や火石魔法の方が使い慣れているからな。
無魔法とか光魔法も使っていけば便利な魔法を使えそうだ。
俺も水魔法をちゃんと使えるようにならないとな。
と思っていたら敵の気配が近付いてくる。
これは――
「上かっ!?」
見上げると、獅子の身体に緑の羽根の鷲の頭と翼を持った魔物が近付いてくる。
「グリフィン!?」
「上位種のグリーングリフィンだ! 空から風魔法を使うから気を付けて」
空の敵か。
と思ったら空から風の刃が飛んできて、俺のお気に入りの火鼠の外套に傷をつける。
「いたっ!」
「壱野くん!?」
「大丈夫です。二度目はありません」
外套がズタズタに切り裂かれる――あとでダンポンに頼んで修理してもらわないと――が、俺の身体が傷つくことはない。西条さんの魔法の補助に加え、対応力により風属性に対して耐性ができているから。
姫の天翔や仲間の遠距離攻撃がないと辛いな。
とすると、空から引きずり落とす。
俺は湖に手を当て、
「解放:水の束縛」
魔法を唱えると、水の触手が空に向かって伸びていく。
そして、空に浮かぶグリーングリフィンに襲い掛かった。
グリーングリフィンは風の魔法を何度も放ち、水の触手を切り裂いていく。
だが、その風の魔法がピタリとやんだ。
やっぱりだ。
アレは魔法だ。
魔法は連続使用することができない。
グリーングリフィンにとってあの風の刃に似た魔法は五回連続放つのが限度だったのだろう。
俺の水の束縛がグリーングリフィンにまとわりついた。
だが、完全に動きを封じることはできない。グリーングリフィンが暴れるとその触手は千切れそうになっていく。
それでも、動きを停めたグリーングリフィンはゆっくりと降下してくる。
水の触手が完全に千切れたときには、翼の動きを封じられたせいだろう。
チャンスだ。
しかし、翼が自由になったいま、
俺は剣を抜く。
まだ距離があるが――
「二刀流応用剣術、双剣竜巻切り」
風を巻き起こし、降下してきたグリーングリフィンに剣戟を放った。
これなら――って全然効いてないっ!?
「壱野くん! グリーングリフィンは風耐性を持っているから風属性の攻撃はダメだ!」
しまった。
少し考えたらわかることなのに、空に逃げられる焦りで選択を誤った。
「だったら――短距離転移」
俺は転移の魔法でグリーングリフィンの背中の上に転移した。
ギリギリ届く範囲で助かった。
「ここならっ!」
俺は剣をグリーングリフィンの身体に突き刺した。
グリーングリフィンは暴れて俺を振り落とそうとするが、剣をしっかり握って俺は耐えた。
「ここからは根気の勝負だ。何しろ俺は耐えれば勝てるんだからな」
風魔法が俺の身体を切り裂く。
俺の服がボロボロになる。
至近距離だからかかなり痛い。
姫がいたら空を飛ぶ敵のヘイトも集めてくれるし、ミルクとアヤメがいたらこんなことしなくても普通に攻撃してくれる。
一人しかいない俺の泥臭い勝負の結果がこれだ!
グリーングリフィンが徐々に降下していき、そして地面に着地するとそのまま光の粒子に変わって消えた。
ダンジョン羽毛布団が残った――羽毛布団っ!?
いや、まぁ収納しておくか。
「壱野くんっ! 大丈夫かい!? かなり怪我をしていたよう……あれ? 怪我は?」
「全部治りましたよ。グリーングリフィンからエナジードレインを続けたので」
エナジードレインは触れている相手から体力を奪うスキルだ。
お陰で至近距離の魔法で削られた体力や怪我もすっかり回復してなかったことになっている。
むしろ、体力が有り余ってるくらいだな。
「いやぁ……恐れ入った。強くなったと思っていたけど、四十九階層の、それも相性の悪そうな敵を倒せるなんて」
「泥臭い戦い方でしたけどね。俺、やっぱり仲間がいないとまだまだみたいです」
なんかみんなのところに早く戻りたくなってきたな。
そう思いながら、俺は地上で待ってる仲間たちに念話を送るのだった。
次回、PDレベルアップっ!?




