琵琶湖ダンジョンの一階層
道の駅のレストランを追い出された俺たちは、近くの店へ向かった。
食事を食べ損ねた妃さんや西条さんたちは料理を、既に夕食を食べ終えた俺たちは、飲み物を注文した。
西条さんの手前、格好つけてコーヒーを注文したが、やっぱりジュースにしたらよかったかな?
とメニューを持って思う。
「泰良、注文を終えたのになんでメニューを見てるのよ」
「大阪人は注文を終えたあとも料理が届くまで、メニューを見ているものなんだよ」
「そうなの?」
そうなんだ。
他にも定食屋だと、蓋が有って中が見えない小壺とかあったらとりあえず中を確認したりもする。
大阪と他の地域を比べる番組を見て初めて知った。
むしろ、他の地域の人たちが何もしないで大人しく待っていることに驚いたくらいだ。
スマホが無かった時代はどうしていたのだろう?
「しかし、暫く見ないうちに強くなったな。壱野くん、もうレベル200越えてるんじゃない?」
「まだ150越えたあたりですよ。でも、強くなったとかわかるんですか?」
気配探知があっても、敵の強弱はなんとなくしかわからない。
ダンジョンの外だったら猶更だ。
「強敵看破というスキルがあってね。自分より強い相手と会った時、どのくらい強いかわかるスキルなんだ。君の強さは前に会ったときより遥かに上がっている」
そんなスキルがあったのか。
だったら、俺と戦ったとき、なんで終末の獣は逃げなかったんだ?
いや、たとえ俺の方が強かったとしても終末の獣は石化ブレスを使って俺を倒せると読んでいたのだろう。
触れるだけでアウトなガスってチート過ぎる。
その頃に比べたら確かに俺も成長したな。
「どうだい? 壱野くん。よかったらこれから一緒にダンジョンに潜らないかい? 君と二人でダンジョンに潜ってみたいと思ってたんだ」
西条さんと二人でダンジョンに?
「いいんじゃない? 少しくらいの時間なら。荷物は部屋まで運んでおいてあげるわ」
「いいのか?」
「私たちは強いわ」
姫が突然、そんなことを言い切った。
いきなり自慢か?
「わたくしも強いですわよ!」
妃さんが同じように言った。
同年代の探索者に比べたら強いんだろうけれど、話がややこしくなるから黙っていて欲しい。
「ただ、私たち四人だけで戦っているせいで、他のメンバーと戦う経験が圧倒的に足りていないのよ。ちょうどいい機会じゃない。西条虎はベテランの探索者よ。一緒にダンジョンに潜れば学ぶこともあると思うわ」
姫が言った。
なるほど、理にかなってる。
「ついでに、深い階層まで行っておいてよ。そうしたら、迷宮転移の魔法で一気に移動できるわ」
「そっちが本音か」
感心して損した。
でも、四人で馬鹿正直に浅い階層を歩くより、今日中に行けるところまで行っておいて、明日四人で転移したほうがいいか。
「よろしくお願いします」
と俺が言ったところで、コーヒーが運ばれてきたので、ミルクを全部入れて砂糖を一杯いれて飲んだ。
そして、俺と西条さんは琵琶湖ダンジョンにやってきたのだが、なんと入り口が封鎖されていた。
「え?」
「黒のダンジョンの騒動が落ち着くまで琵琶湖ダンジョンは封鎖されているんだよ」
「封鎖っ!?」
そういえば、普通の道の駅の感覚でいたけれど、ダンジョンの近くのレストランであの客の数は少なすぎる。
さっき入った喫茶店も、ダンジョンができたために作られた新しい店のようだったが、やっぱり客が少なかった。
そうか、ダンジョンが封鎖されているから客が少なかったのか。
「でもそれって逆効果じゃないですか? 魔物をいっぱい倒さないといけないのにダンジョンを封鎖するなんて」
「入ればわかるよ」
「……?」
警備の人がいたけれど、俺たちは顔パスで中に入る事ができた。
受付は無人。
とりあえず、ダンジョンに入る。
といっても、一階層はどこのダンジョンもスライムしかいないんだけどね。
問題は二階層からかな――と思ったら――
「え?」
ダンジョンの中でコボルトがスライムを追いかけまわしていた。
どういうことだ?
なんで一階層にコボルトがいるんだ?
そして、なんで仲間割れしてるんだ?
「安心して。ここのコボルトはテイムしている魔物だから」
「テイム?」
「うん、捕獲玉を使ってね。二十階層までの各階層には僕がテイムした魔物を配置して、魔物を狩り続けてもらってるんだ。普段は十階層より下は人もいないこともあるけど、これなら効率よく魔物を狩り続けて貰えるからね。ちなみに、テイムしている魔物にはわかりやすく白いハチマキを着けているから、白いハチマキをしている魔物は攻撃しないでね」
「わかりました。でも、よくそんな数の魔物の管理できますね」
クロみたいな頭のいい魔物ばかりじゃないだろうに。
「いやぁ、終末の獣に身体を乗っ取られている間に魔物の扱い方覚えたみたいでね。獣に操られて魔物の操り方を覚えるとか、なんかもう…………色々複雑な気分だよ」
西条さんが落ち込んだ。
この人、大丈夫か?
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