浅草ダンジョン(再現)のリターンマッチ
今日はみんな用事があるので、一人で浅草ダンジョンを再現したPDの二十一階層に来ていた。
浅草ダンジョンの二十一階層以降は、選択肢が与えられ、その選択肢を選んで奥に進むことができる。
誰かと一緒に行動すると、自分の深層心理が透けて見られるのであまり来たい場所ではないが、一人だったらゲーム感覚で楽しめるだろう。
ただ、嘘を吐いたら変な罠に引っかかったりするかもしれない。
念のためにミルクから借りた八尺瓊勾玉を装備しておく。
これで状態異常は防げるな。
万が一サキュバスが現れても、魅了される心配もない。
……いや、決してサキュバスと戦いたいってわけじゃないぞ。
魔物であっても女性を殴るのは趣味じゃない。
ただ、もし偶然出会ってしまうことがあったら、ちょっと遠くからどんな姿か拝見するかもしれない。
最初の選択肢。
どっちが好き?
左、海。右、山。
またなんともオーソドックスな質問だな。
深く考えずに左の道に進む。
別に水着の女の子を見たいというわけではない。ダンジョンの魔物にも期待していない。
まぁ、人魚には少し憧れはあるが――
「これは人魚じゃなくて魚人だよな」
手足を持つ魚の魔物、水辺の魔物でおなじみのサハギンさんの登場だ。
そのサハギンがこっち目掛けて走ってくる。
日下ダンジョンの川にいたサハギンとは違う種類のようだが、どこかで見たような気がするな。
頑張って思い出したいが、ずっと走ってるからゆっくり観察できない。
少しは止まれよ。
「解放:水の束縛!」
水魔法の一種、ドロドロとした水がサハギンの足にまとわりついた。
最近新しく使えるようになった魔法だが結構便利な魔法だ。
魚が水に捕らえられるっていうのもおかしな話だが、これでゆっくり観察して思い出すことが――ってあれ?
なんかサハギンが苦しそうにしている。
どうした? 水の束縛は別にダメージを与える魔法じゃないんだが――あ、死んだ。
残ったのはDコインと箱だった。
【ダンジョン上マグロセット:ダンジョン産の上マグロ詰め合わせ。大トロ、中トロ、赤身、中落ち、頬肉のセット】
ようやくわかった。
あのサハギン、何か見覚えがあると思ったら、マグロに似ていたのだ。
確か、サハギンの上位種にマグロのサハギン、マグロンって名前のやつがいると聞いたことがある。
そいつだったのか。
なるほど、マグロは泳ぎ続けないと死んでしまうというし、あのマグロンも走り続けなければ死ぬのだろう。
……あれ? でも、マグロが泳ぎ続けないと死ぬ理由はエラ呼吸の都合だろ? ここは海の中じゃなく陸地でサハギンもたぶん肺呼吸をしているはずなのに、なんで止まったら死ぬんだ?
謎だ。
マグロはありがたくいただいておこう。
さて、次に行くか。
好きなのはどっち? イヌなら右、ネコなら左。
どっちと戦うかってことか?
うーん、ネコならライオンとか虎とか出てきて、コボルトとかかな。
ネコ娘とかそういうのは……さすがにないか。
とりあえず、ネコに――
『…………』
影の中からクロの無言の圧力を感じる。
ご主人様、ネコを選ぶのか? 自分という従魔がいながら、ネコを選ぶのか?
まるでそう言っているかのような。
でも、お前、イヌじゃなくて狼じゃん。
え? 狼もイヌ科?
わかったよ。右に行くよ。
言われた通り右にいって――そこで待っていたのは――
「なぁ、クロ。これでよかったのか?」
五匹のダークネスウルフがいた。
そういえば、ダークネスウルフってレベル80の探索者相当の強さを持つ魔物だから、二十一階層にいても不思議じゃないんだよな。
「やっぱり戦わない方がいいか?」
クロも同族が倒されるのを見て楽しいわけがないだろう。
そう思ったら、クロは別に構わないと伝えてくる。
自分はあいつらとは違う。
俺が倒さないのなら自分が倒す。
そう言っている感じだ。
うん、そういうことなら遠慮なく戦わせてもらおう。
ちょうどおあつらえ向きに、さらに五匹、追加でダークネスウルフが現れる。
俺は半年前にクロが生まれ変わる前のダークネスウルフと戦って、マジで死にかけた。
地獄の業火、悪臭を放つ毒キノコを使って倒した。
満身創痍の死にかけの状態で。
今度はあの時のような無様な真似はしない。
せっかくのリターンマッチだ。
今度は完勝をさせてもらうぞ。




