探せ! 黄金の寿司折
二十五階層は、普通のダンジョンより宝箱の数が多いが、中身は全て寿司折で、しかも中身は助六寿司。
そして、その助六寿司にもランクがあり、俺たちは黄金の寿司折を、その中に入っている黄金のいなり寿司を手に入れなくてはいけない。
「黄金の寿司折の発見報告は三回。二十五階層なんて一流の探索者しか来ることができないけど」
姫の分身が早速宝箱を見つけた。
早速俺が開けてみることにする。
宝箱を開けるときってドキドキするよな。
きっとリスナーも同じ気持ちなのだろうと思ってコメントを見たら、
[どうせベータさんが開けたら一発で黄金のいなり寿司が出ると思う]
[さすベタ待機]
[わくわくすらしない]
リスナーがなんか慣れてきてる。
いやいや、いくら俺の運が高いといっても――
「泰良、さっさと黄金のいなり寿司を手に入れて次に行こうよ」
「配信終了までに激辛スパイスを手に入れたいしね」
「分身が二十六階層に続く階段見つけたわよ」
……女性陣も慣れている。
宝箱を開ける。
中にはもちろん寿司折が入っていた。
そして、その色は――
[銀の寿司折?]
[普通に考えたらレアなんだけど、なんか拍子抜け]
[銀? なんか違う気がするが]
俺は手にした寿司折を鑑定する。
【白金の寿司折:神々が求めたという伝説の寿司折】
鑑定結果を見て、軽く眩暈がした。
またこのパターンか。
浜名湖のダンジョンでも、サファイアウナギを釣りたかったのに海賊の宝箱ばっかり出た時を思い出す。
「泰良、どうしたの?」
「これ、銀じゃなくて、白金の寿司折みたい」
俺がそう言うと、みんな呆れた表情。
「どうする? これで依頼達成になるのかな? 上位互換だと思うんだが」
「サポート、ダンジョン局に連絡を取って、白金の寿司折でも依頼の品として納品していいか聞いてみて?」
姫が明石さんに頼んでダンジョン局に連絡を取ってもらう。
明石さんからの返事を待つ間、リスナーからのコメントを眺めている。
[さすベタって言っていいのか?]
[レアアイテム期待したら未発見の激レアアイテムとか草も生えん]
[次はレインボウ寿司折とか出るんじゃないか?]
[虹色の寿司ってどんなの?]
[SSR寿司?]
[アカエイじゃない?]
[虹の虫辺を魚辺に変えたらアカエイを意味する漢字になるなんて誰がわかるんだよ]
[オーロラサーモンじゃない?]
[オーロラと虹は配色が違うぞ]
[虹といったらオーロラサーモンより、トラウトサーモンだろ]
[その心は?]
[トラウトサーモン=ニジマス]
うまいこと言うなぁ。
座布団を送ってあげたい。
と考えていたら、明石さんから連絡が来た。
白金の寿司折はその効果を確かめるためにも納品してほしいが、黄金の寿司折も同じように納品してほしいそうだ。
「泰良の運頼りだったんだけど、どうする?」
「全員で手あたり次第に開けるのはどうですか? 私や押野さんの幸運値も決して低くはありませんし、壱野さんの運がどれだけよくてもたまにはハズレを引くこともあると思います」
「そうしようか。宝箱はいっぱいあるし、私たち四人なら魔物に襲われても平気でしょう」
確かに姫は平気だろう。
アヤメにはゼンがついているから平気か。
「クロ、一応ミルクと一緒にいてやってくれ」
後衛のアヤメでもゼンがいるなら便利だろう。
影の中にいるクロを呼んで、ミルクと一緒にいてもらうことにした。
ということで、四人バラバラにダンジョン中の宝箱を開けることに。
せっかくなので、念話で報告はせずに、時間になったら集合し、みんなで成果を報告しあうことに。
三十分後、集合する。
アヤメの寿司折は八箱で、うち一箱が銅、七箱が紫色。
姫の寿司は十五箱で、うち二箱が銅、十三箱が紫色。
そして、俺は九箱で……全部白金。
この結果にはリスナーたちも呆れている。
「いくらなんでもおかしくない? 泰良の運がいいって言ってもそこまで偏る?」
「たぶんだが、トレジャーアップの効果じゃないかなって思うんだ」
トレジャーアップのスキルは、宝箱の中身がワンランクアップする。
その結果が反映されていて、通常の宝箱は紫から金色までの寿司折が出るのに対し、ワンランクアップした宝箱からは白金の寿司折しか出ないのだろう。
「ということは、泰良の場合いくつ宝箱を開けても白金の寿司折しか出ないってこと?」
「かもしれない」
トレジャーアップスキルはパッシブスキル、意識してオンオフの切り替えはできない。
そして、姫やアヤメが開けても銀色の寿司折すら出なかったとすると、こりゃ厄介な依頼だ。
天下無双の初めての依頼失敗かもしれない。
[ベータさんが使えないとなると、アルファさんとガンマさんの二人で金色の寿司折を探さないといけないのか]
[乱数の女神は物欲センサーに過敏だからな……たぶん今日中には見つからない]
リスナーも諦めムードだ。
と、その時だった。
「みんな、お待たせ」
ミルクが合流した。
「ミルク、あと一時間探しましょう」
「そうだな。制限時間を決めておかないと延々と探すことになるからな」
「あの、まだ私の結果を見せてないんだけど?」
「「「…………」」」
姫もアヤメも優しい目でミルクを見た。
きっと俺も同じ目で見ていることだろう。
わかってるんだ。
ミルクが当たりを引けるはずがないってことを。
「ちゃんと見つけて来たよ! 黄金の寿司折!」
「「「え?」」」
嘘だろ!?
だが、ミルクの手には確かに黄金に光る箱に入った寿司折が。
[え? 明日、槍でも降ってくるの?]
[よし、防災グッズ確認するか]
[株を売って金を買おうかな]
リスナーたちも混乱しているが、俺たちの混乱はそれ以上だ。
どういうことだ?
まさか、このミルクは偽物!?
真実の鏡を出すか?
しかし、配信中にあの鏡は使えない。
一度配信を止めて――
「みんな、その目はやめてよ! 確かに私の運は悪いよ! これ以外全部ミミックだったし。だから――」
「わふ!」
クロが自慢気に鳴いた。
つまり――
「ミルクちゃん……クロちゃんに宝箱を開けてもらったの?」
「…………うん」
アヤメの問いにミルクが悲し気に頷いて、俺たちもリスナーのみんなも納得したのだった。




