再訪伏見稲荷の京都ダンジョン
やってきました、伏見稲荷。
しかも今回は正式に天下無双の仕事で来ているので、電車ではなくハイヤーで!
途中渋滞に巻き込まれて、「電車だったらもう着いてるだろうな」とか考えたけれど、両手に花状態の移動に文句はない(姫は前回同様、一度実家に帰ってそこからの移動)。
姫も渋滞に巻き込まれ、まだ着いていないと連絡があったので、前回行きそびれたち〇かわ専門店――ち〇かわもぐもぐ本舗にもいった。
俺はそういうのを使うのは少し気恥ずかしいが、姫と水野さんへのお土産に買っておくかな。
あと、青木にもいろいろと頼まれたのでそれも買う。あいつの趣味の幅は広すぎてわからん。
あとは――ダンポンにこのクレープ生八つ橋ってのを買う。
ミルクもアヤメも欲しいグッズが買えて満足そうだ。
「よかったな、二人とも」
「うん! 欲しいものがいっぱい買えたよ」
「はい! でも、少し混雑してたのでゆっくり見られませんでしたね」
アヤメがそう言って、ミルクも同意した。
え? 三十分くらいいたと思うけど、女性の買い物の時間の感覚って、男とは違うのかな。
でも――
「今日はまだマシだったんじゃないかな? 来週、オープン一周年イベントをするみたいだし、きっと凄い混雑だったと思うよ」
と俺が言うと、二人が何故かショックを受けた表情をして、来週だったらよかったのに――と言った。
え? いや、来週だったら混雑で無理だったよ?
記念グッズが欲しいのなら、フリマアプリで買おうか? と言ったら、そういうことじゃないって怒られた。
わからない。
その後、駐車場に戻り、ミルクにスマホを預けて誰も見ていない場所を探してPDを設置し、こっそり中に入る。
PDの中ではミコトがいた。
ただし、俺の家にいる分体ではなく、本体の方だ。
「久しぶり……でいいのか?」
「よいよい、本体と分体はダンポンと違い、意識も記憶も共有している。普段通りに話すがよいわ」
「それは助かるよ。普段のお前を見ていると、いまさら神様とか聖獣様扱いできないからな」
「そこは扱え! 普段から妾のありがたい恩恵を受けているのだから、普段から拝むのじゃ!」
「ほら、頼まれていたいなり寿司。参道で買ってきたぞ」
「ヒャッホー! 参道で売っているにもかかわらず、妾は口にすることができんからのぉ」
ヒャッホーって……俺が神様扱いしないのはそういうところだと思うのだが。
「それで、ここに呼んだのはなんでだ? まさか、本当に黄金のいなり寿司を食べたかっただけじゃないよな?」
「…………」
質問に答えず、一心不乱にいなり寿司を食べているミコトを見ると、本当にいなり寿司を食べたいだけなのかと思った。
俺の目線に気付いたのか、いなり寿司を食べる手を止め、ミコトは一度咳ばらいをする。
そして何か言いたそうに俺を見るが――、あ、うん。これは俺の質問を聞いていなかったが、質問されたってことだけは気付いているようだ。
さて、どうする?
質問の内容を聞き返すか? それはいなり寿司に夢中で話を聞いていなかったというのを認めることになるが。
「う、うむ。いなり寿司の対価だったな! 妾は人の使う金は持ち合わせておらん。代わりに妾の身体で支払いを――」
「せんでいいわ。というか、お前、トゥーナから護衛料と称してお金を貰って、ネット通販でいろんなもの買ってるだろ」
トゥーナはクエスト発行で大金を稼いで、生活費をしっかり家に納めているというのに。
「何のために俺を呼んだんだって聞いたんだよ」
「おぉ、そんな質問だったのか。うむ――」
手に持っていたいなり寿司を食べると、ダンポンが来た。
「あ、泰良。来てたのですね」
「おう、邪魔してるよ。ほら、クレープ生八つ橋」
「……? クレープなのです? 生八つ橋なのです? そもそも、クレープは焼かないとできないから生じゃないのですよ?」
「それを言ったら、生八つ橋だって一度蒸す行程が入ってるから焼いていないが生じゃないよ」
たぶん、クレープ風の具材の入った生八つ橋だと思う。
「八つ橋生地の中に果物……そういえば、愛知にはいなり寿司の中に果物を入れたスイーツがあるって聞いたことがあるのです」
「なんじゃと! それはまことか! 妾もいなり寿司ときつねうどんの次にスイーツが好きなのじゃが、スイーツいなり寿司という発想はなかったのじゃ。泰良、そのいなりスイーツを!」
「俺を呼んだ用事を言え!」
強い口調で文句を言う。
俺はウー〇ーイーツでも出〇館でもないぞ。
文句を言うならお土産は二度と買わない。
「この京都ダンジョンには管理人がいないのは前に言ったじゃろ?」
「お前がいるからダンポンがいないんだよな?」
「管理人の仕事は、瘴気の安定化と浄化にある。基本は探索者が魔物を退治することで瘴気が浄化されるのじゃが、それが追い付かなければ、瘴気を調整し、たとえば低階層の魔物の数を増やすなどの処置をして退治される魔物の量を増やす必要がある」
ダンポンを見ると、頷いて返事をする。
へぇ、管理者ってそんな仕事もしてたのか。
甘い物食べてゲー〇ボーイしてるだけじゃないんだな。
「ってあれ? PDはどうなるんだ? あそこは俺たちしか入ってないから瘴気減らないんじゃないのか?」
「それについては問題ないのです。僕もようやくわかったのですが、そもそもPDには瘴気が湧かない原因があるのですよ」
「瘴気が湧かない原因?」
「泰良、この世界の瘴気はどこから生まれるか聞いたですよね?」
それは――地下深くに封印されている終末の獣。
封印されていても瘴気は発し続け、それを浄化するためにダンジョンが作られた。
深い階層ほど魔物が強くなるのは、深ければ深いほど瘴気の発生源に近付くから。
「PDはそもそも、最下層まで繋がっていないから瘴気が生まれないのですよ」
「あ、そっか。じゃあ、PDのスキルは?」
「そこじゃ! 泰良! お主のPDは他のダンジョンの瘴気を吸収して、それを元に魔物を生み出している! 実は、数カ月程ダンジョンの管理をサボっていたら、瘴気が大きくなり過ぎての……これは浅い階層の魔物を増やし過ぎても追いつかないくらいじゃから、PDに瘴気を貰ってもらおうと思ったのじゃ。それともう一つ――瘴気が強くなり過ぎて、35階層の魔物が暴走気味でな……いまはなんとか抑えているが、最近30階層より下に潜る探索者もいない。このままじゃと浅い階層に移動を開始するかもしれんから、お主に退治してもらいたいのじゃよ。妾一人でするにはちょっと手がかかりそうなのじゃ」
……つまり、仕事をサボって魔物が溢れてピンチだから助けてくれと?
それをあの場にいた姫やトゥーナに聞かれたくなかったから、仕事の依頼っていう体で俺に押し付けて来たと?
なんか腹が立ってきたので、お土産のいなり寿司を一つ摘まんで食べてやった。
ミコトも怒られていることがわかっているだけに、涙目で文句を言いたそうにしているが、口を噤んだのだった。
やれやれ、35階層の魔物が浅い階層に現れるようなことになったら、万博公園ダンジョンのイビルオーガの時以上の騒ぎになるだろうし、ここはやってやるか。
※注:本編に書かれているち〇かわもぐもぐ本舗OPEN1周年記念のイベントのグッズ配布は、12月7日に終了しました。今行っても記念グッズはもらえません。
また、本編では敢えて書いていませんが、この店はとても人気のため、混雑時は入場整理券が必要となる場合もあります。
「あの作品は日曜日に渋滞に巻き込まれて遅い時間に到着したのに、すんなり中に入る事ができた!」
って言われても困りますので、お早目の来店をお願いします。
この物語はあくまでフィクションです。




