トゥーナたちが見つけた依頼
明石さんから手紙とD缶、そしてお菓子が届けられた。
手紙には助けてくれた感謝の言葉と、焼き菓子、そしてD缶が届けられた。
D缶は浅草ダンジョンの21階層の宝箱の中に入っていたものらしい。
助けてもらったとき、宝箱の中身を渡そうと思ったそうだけど、彼ら葬送のタイタンは探索者支援会社と契約をしていて、手に入れたものを勝手に誰かに譲ることが許されない立場にあった。
改めて許可を取り、宝箱の中身を送ってきたそうだ。
「それで、開封条件は?」
「D缶を持って太陽の塔の中に入ればいいみたい」
東京で見つかったD缶なのに、開封条件は大阪にあるのか。
こんなの、詳細鑑定がなかったら一生開けられないだろ。
どこの誰がD缶を持って太陽の塔に入るんだよ。
まぁ、世の中にはD缶に命を懸けて、常にD缶を大量に持ち歩いている人もいるらしいが、その人が太陽の塔の中にわざわざ入るとは思わない。
今は前日までの予約制らしいし。
「んー、今度アヤメと二人で行ってみるかな」
「なんでアヤメと二人なのよ」
「え? 万博公園ならアヤメと二人かなって思ったんだが。ほら、ヘリで移動なら姫と二人って感じで」
「……私が乗り物扱いになってるわね。パイロットも一緒だけど。ちなみにミルクとは?」
「…………んー、近所の公園?」
パンケーキの店とか焼肉屋とか考えたけど、ミルクならあの場所が一番に思い浮かぶ。
俺がそう言うと、姫は大きくため息をついた。
「そうね。アヤメの思い出の場所に私やミルクが無理に介入するのもよくないわね……いいわよ。アヤメと二人で行ってきなさい。埋め合わせはしてもらうわよ。それと、今週末はダンジョン局からの依頼を受けるつもりだからダメよ」
「ダンジョン局からの依頼を?」
「ええ。また貢献値ランキングが出るんでしょ? やっぱり順位が気になるじゃない?」
同意を求められてもな。
貢献値第三位っていうのが過分な評価だと思っている。
ただ、ミスリルの納品だけでもかなり貢献していると思うので三位の座は安泰だと思っている。
「さすがに第二位のトヨハツに追いつくのは無理だけど差を縮めておきたいし、第四位のダンジョンシーカーギルドや第五位の月見里研究所に差を詰められたくないでしょ?」
「ダンジョンシーカーギルド? あそこは理事長が交代してボロボロになってるんじゃないのか?」
「逆よ。鈴原とその取り巻き連中が全員いなくなったことで、新しい体制に移行した結果、むしろ前より勢いがついてるわね。元々、下部組織を含めて数だけはEPO法人の中でも最大規模だもの。月見里研究所もトヨハツと共同開発している新装備でいろいろと貢献しているみたいだし」
ふぅん、みんな頑張ってるんだな。
指名依頼を受けるのは面倒だけど、数ある依頼の中から選んで達成する分にはいいよな。
しかし、数だけならば、数の多いダンジョンシーカーギルドが圧倒的に有利。
専門的な知識を要求される月見里研究所は唯一無二。
二十階層規模の敵なら、トヨハツ探索の組織力はもはや軍の動きとも言える。
そうなると、俺たちならではの仕事は――
「泰良の運が頼りよ!」
やっぱりそうなるよな。
「……ん、話は聞かせてもらった」
「聞かせてもらったのじゃ」
トゥーナとミコトが、部屋の外で話を聞いていて出番とばかりに現れた――みたいなことを言っているが、こいつらはずっとこの部屋にいた。
俺の部屋で、お土産の東京バナ奈カレーと、東京デパ地下のいなり寿司を食べていたから聞いていて当然だろ。
俺の部屋はダイニングじゃないんだが。
特にトゥーナは寝室がカレー臭くなるからやめてほしい。
「それで、どうしたの? トゥーナ、ミコト」
「……ん、ダンジョン局からの依頼は見ている」
「京都の伏見稲荷の京都ダンジョンに関する依頼がある。それを受けてはくれんかの?」
あそこは前に一度潜っただけで、その後は一度も行っていないな。
電車で行く分には乗り換えとかあって面倒だけど、車で行く分にはいいかもしれない。
前に、ミルクとあやめがち〇かわ専門店に行きたいと言ってたが、あの時は突然の依頼で生駒山に行くことになって結局行けなくなってしまった。
「あったわ。伏見稲荷ダンジョンの依頼品。激辛スパイスと黄金のいなり寿司。それぞれ納品だって。前に泰良が黄金のたまねぎを納品したことがあったでしょ? あれと同じで塩漬け依頼になってるから、貢献値は確かに高いわよ」
へぇ、そんなものがあるんだ。
人が美食に求める志に限度がない。
きっと、かなり政財界にコネのある人間が依頼しているのだろう。
一つのダンジョンに二つの塩漬け依頼、確かにそれはいいかもしれない。
「……激辛スパイス、カレーに使えるかも」
「黄金のいなり寿司……妾の本体がいるダンジョンなのに妾は食べたことがない。是非食べてみたいの」
その依頼主、神様と異世界の女王じゃないよな?




