勇者の結末
「彼はこの世界を救った勇者だよ」
勇者――勇者のロケットに描かれていたのはあの人なのか。
見れば見る程キングさんに似ている。
死んでいるのだろうか?
まるで彫刻のように動かない。
「勇者っていうことは、別の世界の人間なの?」
「ああ。彼は三十年前、この世界にパートナーの女性とともに現れた」
「パートナーの女性って――」
「ああ。壱野くんが持っていたロケットに描かれていた女性だ」
姫に似た女性。
彼女もこっちの世界に来ていたのか。
いや、俺もアヤメが持っている腰巾着のスキルを使って仲間をエルフの世界に連れていこうとしているし、実際クロを連れていくことには成功していた。
勇者以外の人が同伴してこちらの世界に来ていても不思議ではないか。
「十年前に現れたのはダンジョンではなく、終末の獣であり、それによって世界は滅ぼされる。それが本来の歴史のはずだった。それを阻止するために彼らが現れたのだ」
既に滅んでいた地球か。
その世界では俺やミルク、アヤメ、姫、父さんや母さん、兄貴、青木たちも全員死んでいたのだろうか。
ダンジョンの魔物が地球の兵器で対処できないことは、富士山から溢れた魔物と自衛隊との戦いで見ている。
近代兵器では地上に現れた終末の獣を相手に戦うこともできないだろう。
ダンジョンがないのだから、現在みたいに霊珠を銃弾に加工することすらできない。
控え目に言って地獄だな。
そして、廃世界となった地球をあの勇者が救ってくれたのか。
「彼には不思議な力があった。ダンジョンを生み出す力だ。もっとも、ダンジョンの中に入れるのは本人と、そしてそのパートナーだけだった」
ダンジョンを生み出す力!?
入れるのは本人とパートナーのみ!?
それって、PD生成のことか!?
「我々は世界中を回り、協力してくれるパートナーを見つけ、そしてそのダンジョンの奥深くに潜りレベルを上げ、世界の奥深くに眠り目覚めの刻を待つ終末の獣を弱らせていった。そして、弱り切った終末の獣を自らの身体を礎として封印したというわけだ」
「だいたいわかったんだけど……でも、もう終末の獣は封印されているんだよね? だったら、ダディはなんでダンジョンの最奥を目指してるの?」
「終末の獣との最後の戦いで、彼のパートナーだった女性が終末の獣に呑み込まれた。終末の獣の首は世界中に点在しているが、その胴体はどこにあるかはわからない。それはダンポンくんやダンプルくんにもわからない」
管理人なのに?
ダンプルとダンポンを見ると、二人とも頷いた。
「わからないね。僕たちが管理している範囲は人類が到達している範囲まで。それ以上先はわからないんだ」
「それに、僕たちは横のつながりはないのです。他のダンジョンの中は把握していないのですよ」
キングさんが最下層を目指す理由はわかった。
「壱野くん。君はエルフの世界を救おうとしている。彼らは自らの身体を犠牲にしてこの世界を救った。だが、それは彼らの方法であり、それが必ずしも全てではない。少なくとも私は他に方法があったのではないかと思っている。だから君は自分のやり方で世界を救うんだ」
「……わかりました」
「私が君たちに話したいことは以上だ。さて、君たちからの質問を受け付けよう」
フリー質問タイムのようだ。
気になることがいっぱいある。
何故、キングさんは世界中に愛人と子どもを作り、ダンプルは何故世界中に作った黒のダンジョンにキングさんの子どもを潜らせたのか?
そして、キングさんと勇者が、勇者のパートナーの女性と姫が似ている理由もわからない。
「歓談中のところ悪いが、キング。用事ができた。至急ニューデリーのダンジョンに向かってくれ。あっちの瘴気が濃くなっている。このままだと対処できなくなる」
「時間は――」
「十二秒後、転移の準備ができる」
「そうか……すまない。君達。しばらくダンジョンに潜ることになる」
そう言ってキングは姫のことを抱きしめ、英語で何か語り合ってる。
耳を澄まして意識を集中すれば、もしかしたら和訳できたかもしれないが、しかし言葉がなくても二人の気持ちはわかった。
そして、転移陣が現れ、キングさんとダンプルはそれに乗って去っていく。
この転移陣に乗れば俺もインドに行けるのだろうか?
そうしたら不法入国になりそうだが、キングさんは法律で認められているのかな?
「ではお客様。外まで案内するのです」
残ったダンポンが俺たちを出口に連れていってくれる。
さっき降りた階段をまた登るのは億劫だが、ここでは迷宮転移も使えないらしい。
「キングさんと話して、色々と謎は解けたけど、まだわからないこともいっぱいあるな」
「本当だよね。もうちょっとすっきりするかと思ったけど」
「仕方ないわよ。ダディも忙しいし――また連絡してくれるって言ってたから」
俺としては中途半端な結果だったが、姫はだいぶスッキリした顔をしている。
とにかく、俺たちが今やる事は強くなること。
「お客様――これでお別れなのです。じゃあ僕は戻るのですよ」
階段を上り切る直前にダンポンが天井の蓋を開けて言う。
「戻る……そっか。ダンポンはもう死んでるんだもんね」
「でも、また会えますよね?」
ミルクとアヤメが名残惜しそうに言う。
そんな空気になると、なんかここから出たくなくなってきた。
また時間いっぱいみんなで宴会をするか?
「え? 普通にお宝ダンジョンに移動するのですよ? お客様が世界の流れに戻してくれたから、引き続き新しいお宝ダンジョンの管理人になるのです。またのお越しを待っているのですよ」
「え?」
あ、そういえば新しいお宝ダンジョンの地図を手に入れたっけ。
そっか。
またこいつが管理人をしてくれるのか。
「ドラ○エ9やってるから、できるだけゆっくり来てほしいのです。お土産はどら焼きがいいのです」
「じゃあ、行かない方がいいの? ダンポンが死ぬこともないし」
「それは困るのです。僕たちダンポンはダンジョンを管理するために生まれたのですから、お客様が誰も来ないと寂しくて死んじゃうのですよ」
ウサギかよ。
「わかった。じゃあ、12月に行くよ」
「待ってるのです」
ダンポンと別れ、浅草ダンジョンの23階層に戻った。
「どうする? もうちょっとダンジョン探索続けるか?」
「浅草ダンジョンはごめんかな。ここは疲れるし」
確かに、この分かれ道って疲れるもんな。
一応、24階層まで行ってPDで再現できる準備だけしてから地上に帰るか。
前回300話だったこと、感想欄で気付きました。
ありがとうございます。




