浅草ダンジョン
チーム救世主の一員として国民栄誉賞を受賞し、一躍時の人の仲間入りをしているのだと実感が湧いた。
テレビの中で台本通りの質疑応答をしている自分の姿を見るのは違和感しかなかった。
まず、鏡に映った自分を見慣れているせいで、左右反対――いや、この場合は左右が正しい自分の姿には違和感があるし、自分の声にも違和感がある。
まぁ、俺の声や姿はおまけみたいなもので、今回の式の主役は代表して表彰状を受け取った姫と、そしてミルクの頭の上に止まった鳩だった。
ニュースの映像も俺が映っている時間よりミルクと鳩が映っている時間の方が長い気がした。
というわけで、主役気分から一気に脇役のモブキャラへとなった俺だったが、しかし、ネットで自分の名前を検索したら何件もヒットするし、いつの間にか卒業した中学校や通っている高校までわかる状態になっていた。
「泰良、おじさんとおばさんは?」
「昨日一通り東京観光してからもう家に帰ったよ。父さんは仕事もあるしな。ミルクのママさんは?」
「私も同じだね。昨日いろいろと買い物をして帰ったよ。パパが来られなかったから買い物をして鬱憤を晴らすんだって。アヤメの両親も帰ったみたいだよ」
牛蔵さんは現在富士山のダンジョンに行っているからな。
しかし、姫の家ほどではないがお金持ちの奥様だからな。きっと鬱憤を晴らすための買い物ならかなり派手にお金を使っていそうだ。
「泰良お待たせ!」
「壱野さん、お待たせしました」
いつも通り、くノ一の衣装と大魔術師のローブ姿に着替えた二人が更衣室から出てきた。
「何を話してたの?」
「家族のことだよ。二人の親はどうしたんだ?」
「私の父と母は帰りました。妹が一人で留守番していますから」
アヤメの妹のスミレちゃんはダンジョン学園に通っていて、その学校行事のせいで休めなかったって聞いた。
「私のマムは妃のマムのところよ。久しぶりに姉妹でランチだって」
姫と妃は異母姉妹であり、二人の母親は妹と姉の関係であり、押野リゾートグループと押野ホテルズ&リゾーツという二大ホテルグループを経営している社長でもある。
「仲が悪いんじゃなかったのか?」
「恋敵ではあるわね。とくに妃のマムは自分こそが正妻に相応しいって思ってるから。でも、元々は仲がいい姉妹だし、お互い認め合っているわよ。本当に嫌っていたら、提携関係なんて結ばないでしょ?」
「姫と妃さんみたいな関係ってことか」
「どうしてそうなるのよ」
姫が文句を言うが、今回の授賞式のためにわざわざホテルの手配をしてくれて、授賞式の日にはお祝いにもかけつけてくれた妃さんは姫のことを大切に思っているし、姫だって妃さんのことを大切に思っていると思う。
というか、最近はその関係が顕著になってきている気がする。
「それより、急いで行くわよ。ダディが待っているかもしれないし」
「そうだな。浅草まで来て人形焼きも買わず、浅草寺にお参りもせずにダンジョンに来てるんだ。ここで時間をかけるのもよくないな」
俺たちは現在、浅草ダンジョンに来ていた。
ここの二十三階層で姫の父であり世界一の探索者であるキングさんが待っているからだ。
時間指定もないので、逆に急いで行く必要があった。
いつから待っているかわからない。
浅草ダンジョンっていうから雷門とか見るのを楽しみにしていたのだが、ダンジョンの入り口はつくばエクスプレスの浅草駅の前、国際通り沿いにあり、雷門まで行くことはなかった。
キングさんが待っているかもしれないため、ちょっと観光してから――という我儘も許されず皆でダンジョンに来たわけだ。
しかし、ここに来て驚いたが、ダンジョンの入場者数が多い。
だが――
「浅草ダンジョンの入場者数は多いって聞いていたが、大したことなかったな。あれなら梅田ダンジョンの列の方が多いくらいだ」
「泰良、あれはダンジョンに入るための列じゃなくてダンジョンの入場予約をするための行列よ? いまはアプリもあるからそれを使えば並ばなくてもいいんだけどね」
「今日の分の予約枠は既に完売だそうです」
え? 今日来ても入れないってこと?
浅草ダンジョンってそんなにすごいの?
「浅草ダンジョンの一日の入場者数は五万人よ。東京二十三区で誰でも入れるダンジョンは他にも品川と新宿にあるけど、新宿ダンジョンの一日の入場者数は世界記録にも認定されているの」
「あっちは今週分の予約が埋まっているみたいです」
「マジか……本当にEPO法人に所属しててよかった」
EPO法人の正会員は並ばずに中に入ることができる。
ちょっとズルい気がするがな。
ダンジョンの一階層から三階層までは係員の誘導により移動する。
一階層は全員スライム狩り、二階層は区分けしての狩りをしているからな。
途中、歩き青茸を追いかけていた同い年くらいの探索者グループが俺たちを見て――
「チーム救世主の人ですよねっ! 国民栄誉賞受賞おめでとうございます!」
と声を掛けてきて、全員と握手した。
やっぱり有名人になったな。
でも、ダンジョンに入るまでは声をかけられなかったので、単純に姫の衣装が目立っているだけかもしれない。
外国人探索者が「ニンジャ! サナダニングン! クノイチ! ナ〇ト!」って騒いでたし。
俺はナ〇トより忍〇ま乱太郎派だ。
そして、三階層に移動してからは、地図頼りのマラソンだ。
さすが東京のダンジョンだけあって、十階層より下に行っても探索者の数は多い。
二十階層に出てくる兎神――ウサギというけど、じっさいは兎耳の巨大ライオンみたいな化け物――を倒したところで、二十一階層に到着。
「見たところ普通のダンジョンだな」
これまで二十一階層より下は、工場だったり砂漠だったり森だったりと普通のダンジョンとは違うダンジョンだった。
二十一階層は普通にダンジョンの通路だった。
普段の俺なら戸惑うところだが、しかし、今日の俺はちゃんと下調べをしている。
「浅草の深い階層は分かれ道のダンジョンだったな。いくつも分岐がある。しかも、誰も入っていないときに中が変わったりするから地図とか情報もない。ただ、正直に進まないとひどい目に合うことがあるそうだ」
と説明をする。
ミルクとアヤメが頷いて聞いてくれたが、姫は「ダンジョンの説明をするのは私の役目なのに」という顔をしている。
たまにはいいだろ?
真っすぐ進む。
早速分かれ道を見つけた。
「男は右、女は左だって。いきなりパーティが分断されそうだが、どうする?」
「ここは従おうか。泰良なら一人でも平気だろうし、二十二階層に続く階段の前で集合でいいよね?」
俺は頷き、一人で右の道に進んだ。




