花蓮とキサイチくん(その4)
仕方がないので、本城さんにキサイチくんの説明をする。
「なんですってっ!? あなた、まさかあの伝説の鍛冶師のところで仕事をしていますのっ!?」
「え? そこからっすか? ていうか、伝説ってなんっすか!?」
「あなた、知りませんの!? チーム救世主といえば生駒山上遊園地での活躍が有名ですが、実際のところ彼らの活躍の本質はそこではなく、ダンジョン局への貢献値にありますの。なにしろ、日本一位の讃岐造、父が経営するトヨハツ探索に続き日本第三位の貢献値を誇ります。起業して半年にも満たないというのにですわ! その中でも魔道具を開発しているのが伝説の鍛冶師と呼ばれていますの。捕獲玉、鑑別のモノクル、魔石融合機はどれも価値が高いものばかり。恐らく、その鍛冶師は日本で、いいえ、世界で五本の指に入る鍛冶師ですわ。それが、その助手があなただなんて」
本城さんが熱く語る。
水野先輩の凄さは知っていたつもりでいたが、プライドの高い本城さんがそこまで絶賛するとなると、そのすごさを再認識させられる。
「……意外っすね。てっきり、本城さんのことだから『あなたにそのような高性能なパペットは分不相応ですわ! わたくしによこしなさい、この平民風情が』とか言ってくると思ったっすよ」
「あなたがわたくしのことをどう見ているかよくわかりますわね……さすがにそのようなことは申しませんわ。ただ、少し触ってもよろしいかしら?」
「キサイチくん、触らせてもいいっすか?」
キサイチくんが頷いたので、許可を出す。
本城さんはキサイチくんの頭を撫で、持ち上げ、下から、上から、さらには関節部分に額をこすりつけて見る。
もう、触るとか見るとかではなく、解析しているレベルだった。
「原理はわかりませんわ」
「通常の方法とは違う作られ方をしているとはいえ、魔道具っすからね。大量生産できずに残念だったっすね」
「このようなパペットが実際に大量生産できたら、各地で従業員の大量解雇が起きて経済が混乱しますわよ。特に何十年も先の混乱は世界が滅ぶ可能性も――」
それもそうだとあたしも思った。
人間は単純労働をしなくてもいい世界ができあがってしまう。
それを望む人がいるかもしれない。
ただ、問題があるとすれば、パペットは水野先輩がいなければ動けない。
仮にこのパペットが大量生産され、その世界が出来上がった後、水野先輩が死んでしまったら、一斉にパペットは動かなくなる。残された社会がどうなるか。
でも、それって今も同じな気がする。
魔石に頼り始めたこの世界。もし何十年、何百年先に魔石が無くなればどうなるか。
ダンポンは、そしてダンプルは突然現れた。
彼らがこの先もずっとこの世界にいて、ずっとダンジョンを管理してくれているという保証はどこにある?
化石燃料に頼り切り、それが無くなることに怯えていた人類が新たに縋った先にあった魔石。
その魔石が失われたとき、人類は――
「それはあたしが考えることじゃないっすね」
「なんのことですの?」
「こっちの話っすよ。本城さんも採掘するっすか?」
「なんでそんなことしないといけませんの? 必要な鉱石があれば実家から送ってもらいますわ」
「あぁ、はいはい。じゃああたしは採掘するっすから、本城さんはどこかに――」
「仕方ありませんわね。私も付き合いますわ」
本城さんはそう言って折りたたみ式のピッケルを取り出した。
そんなものを持ってきている時点で、最初から採掘目当てだったのは明白だ。
いったい、なんでそんなことを言ったのか、あたしには皆目見当がつかなかった。
※ ※ ※
「さっきはああ言いましたが、やっぱりこのパペット、少しズルいですわ。わたくしも欲しいです」
「あげないっすよ。というか、あたしのじゃないからあげられないっす」
でも、本城さんが言うことはよくわかる。
鉱石は重い。
どれを持って、どれを棄てて帰るか考えていたら、キサイチくんが籠を背負った。
好きなだけ中に入れろといわんばかりに。
結果、いつもより大量に鉱石を持って帰ることができた。
パペットは凄い。
頑丈だし強いし、いくら働いても文句も言わないし、困ったときは励ましてくれる。
明日、水野先輩にお礼を言おう。
そう思っていたら――
「水野先輩、それ、なんっすか?」
「あ、お帰り。この子、イチ――ベータくんに預けていたミテジマくん……だったものだね。関節部分がボロボロ過ぎて、修理も大変だよ」
「うわぁ、ホントにボロボロっす……もしかして、強い魔物と戦ってやられたっすか?」
「そうじゃなくて……えっと、てんしばダンジョンの35階層に出るアイアングリドンっていう鉄の塊の恐竜みたいな魔物? を完全に動けない状態にして、ひたすらハンマーで殴らせたんだって。その方が経験値がいっぱい入って来るから……その反動で」
「その反動でそこまでなるもんっすか?」
「うん、まぁ一匹倒すのにミテジマくんの攻撃値だと二千回くらい連続で殴らないといけないからね。自分より硬い敵を殴るとなると、反動が大きいらしくて五匹倒したら関節部分がおかしくなったって言ってたよ」
「え? えっと、その子、キサイチくんより弱いっすか?」
「ううん、戦闘特化に調整してるからキサイチくんよりだいぶ強いかな?」
たった一撃でブルーリザードマンを沈めてた攻撃で二千回?
五匹だから合計一万回?
壊れないを売りにしている椅子ですら壊してしまうような使い方だ。
「お陰でレベルが上がったけど、もっと頑丈に調整しないとダメだね。あれ? 花蓮ちゃんどうしたの? キサイチくんをぎゅっと抱きしめて」
「い、いや、キサイチくんのことは大事にしないといけないなって思っただけっす」
その後、ミテジマくんは修理され、ベータ様のところに戻ったそうだが、それでも数週間に一度はやっぱり壊れて戻ってくるらしい
次回からはミルクが一人で異世界に召喚された(風の世界に行く)話です
すみません、次章に中々行かなくて
プロットは少しずつ纏まってきているので、来月初めには入れると思います。




