花蓮とキサイチくん(その3)
「へぇ、この子が鏡さんの言ってたキサイチくんか。もぐもぐ。かわいいね。もぐもぐ」
朝ダンを終えてきた桃っちが、キサイチくんの頭を撫でながらご飯を食べる。
「桃っち、食べるか喋るかどっちかにした方がいいっすよ」
「もぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐごくんぱくもぐもぐもぐもぐ」
食べる方に集中することに決めたらしい。
まぁ、早く食べないと朝ご飯が冷めちゃうから。
「ごくん――あ、キサイチくん。お茶ありがとう。それで、キサイチくんのことだけど――」
「桃っち、そろそろ出ないと遅刻しちゃうっすよ? いくら学校の横の寮だからってのんびりし過ぎっす」
「え!? あ、本当だ!? 休み時間に行くからその時に教えてね!」
桃っちはそう言ってあたしより先に寮を出た。
あたしも行くことにする。
キサイチくんには部屋で待機するように伝えた。
結果、何も問題はなく、そして放課後になった。
寮の部屋に行き、そこでジャージに着替えてキサイチくんと一緒にダンジョンに行く。
「じゃあ、キサイチくん。早速ダンジョンに潜るっすよ!」
「――!」
「おぉ、やる気っすね! キサイチくんの武器は何がいいっすか? 一応、あたしの部屋には特殊警棒、短剣、大剣、槍、ブーメラン、弓矢があるっすけど」
あたしが尋ねると、キサイチくんが選んだのは短剣だった。
まぁ、大剣とかだとバランスが悪いっすから、仕方ない。
水野さんから貰ったアタッチメントを短剣の柄に装着する。
そうすることで、キサイチくんの手でも持つことができるようになる。持つというより接続か。
生産科ではこういう武器の制作も行う。
鍛冶スキルがないとダンジョン素材からアイテムを生み出すことができない。そして、鍛冶スキルは水野先輩のような鍛冶師の覚醒者しか持っていない。
ただ、あたしも本城さんもまだ十八歳になっていないから覚醒する可能性がある。
水野先輩も鍛冶師になったのは十七歳の頃だって言っていた。
そして、普段からそういう作業をしている人の方が鍛冶師として覚醒しやすい。
そのため、授業で武器を作ることになる。
ただし、鍛冶師ではない人間が武器を作ると、見た目はまともでもマイナス補正がいっぱいはいる。
あたしが作った短剣も、模造スキルのお陰で見た目はまともだけど、性能はかなりマイナスでかなり弱い。
そんな短剣の持ち主となると、キサイチくんには役不足な感じがするっすが、素手で戦うよりはいいっすね。
「じゃあ、六階層に行くっすよ。今日は採掘作業っす!」
あたしとキサイチくんは歩いて六階層に向かった。
六階層には採掘ポイントと言われる場所があって、そこでピッケルを使って様々なものを掘る事ができる。
他のダンジョンにもこういう場所はあるにはあるのだけど、基本は魔物を倒した方が効率がいいのでみんな無視しているし、あまり使われない。
しかし、生産科の人間にとっては違う。
売る目的ではなく、自分で使う目的だ。
生産科の授業には鉱石から金属の精製の授業もある。
もちろん、購買部で鉱石を買って使うこともあるけれど、失敗することもあるので極力自分で採取したい。
「あたしは採掘するから、キサイチくんは魔物が来ないか見ていてほしいっす。魔物が来たら、短剣でこれの金具部分叩いて音を鳴らしてほしいっす」
あたしは小盾を置いてキサイチくんに見張りを頼んだ。
キサイチくんが頷く。
少し心配だけど、普段も一人で採掘をしている。
仮に魔物が来たとしても、あたしひとりで対処できる。
「えい!」
ピッケルで採掘ポイントを掘る。
壁は削れないが、ポロポロと鉱石が出てきた。
手に持って確認する。
これは使えない。
捨てる。
次は――
「お、これは魔銅の鉱石っすね。水野先輩のところに何トンと魔銅のインゴットがあるっすけどこれも使えるっす」
錫鉱石は前に採掘に来たときいっぱい手に入ったので、魔青銅が作れそうだ。
魔青銅は加工がしやすいので、マイナス補正たっぷりになる魔鉄の装備より、魔青銅の方が使いやすい。
ただし、魔銅の含有量が低い。
持って帰ることができる量には限度があるから、これはひとまず保留で。
次は――
――カン、カン、カン。
音が鳴った。
「魔物っすか? ひっ!?」
現れた敵は青い二本足で歩く蜥蜴――ブルーリザードマン、それも七体。
あたしが接敵した敵の数の中では一番多い。
一人で、いや、一人と一体で相手するのは面倒だ。
ここは、一度キサイチくんに軽く当たってもらって敵が怯んだところで、逃げる。
そう思ってキサイチくんに指示を出した。
出したのだが――
「軽く当たってって言っただけなのに」
ブルーリザードマンが軽く吹っ飛んでいた。
小さい身体なのにとんでもない力だ。
レベル80相当。
鏡さんが言っていた意味がよくわかった。
「キサイチくん。落ちてる魔石を拾っておいてほしいっす」
キサイチくんが落ちている魔石を拾い、さらにブルーリザードマンが落とした薙刀のような大刀を拾って、これはどうするかという目でこちらを見た。
「青蜥蜴刀っすか。一応レアアイテムっすよ。キサイチくん、装備するっすか?」
キサイチくんは首を横に振り、短剣を見せる。
自分にはこれがあるからいらないと言わんばかりに。
「あたしの短剣が気に入ってくれたっすか? ありがとうっすよ」
使いやすさの問題かもしれないけれど、キサイチくんがそう伝えてくれて嬉しかった。
とその時だ。
「おーほっほっほっほ! こちらにブルーリザードマンの群れが向かっていったのが見えましたが、やはりあなたでしたのね、胡桃里さん!」
「本城さん?」
クラスメートの金髪縦ロールお嬢様、本城絆さんが高笑いとともに現れた。
「あなたとわたくしはたった二人きりのライバルですが困っていたら助けるのは我がトヨハツの社訓でもあります。ここはライバルの垣根を越えて共闘を――あら? ブルーリザードマンはどこにいきましたの? なんです、このちんちくりんゴーレムは?」
あぁ、厄介な人にキサイチくんを見られてしまったっすね。




