超激レア缶の中身
信玄さんと入れ替わってダンプルが現れた。
「もう大丈夫なのか?」
「君のお陰でね。とはいえ、鉄になっていたせいで肩が凝って仕方ないよ」
この場にタイミングよく現れたということはつまり…
「お前が俺にここに来るように誘導した理由ってもしかしてミレリーの現状を俺に見せるためか?」
「そうだよ? 信玄くんもキングも君には時間を与えるつもりでいたようだが、僕はそんな気長にしていられない。女が苦しむ時間は一秒でも短い方がいい。僕はずっとそのために活動してきたんだ。彼女は――ミレリーは僕の数少ない友人だからね」
そうか、俺はずっとこいつに誘導されていたのか。
考えてみれば、エルフの世界に行ったキッカケもダンプルだった。
「怒ったかい?」
「お前にいいように踊らされているのは気に食わないが、怒ってはいない。正直、お前から友人って言葉が出るとは思わなかった」
ミレリーを救いたいって言う気持ちは俺も同じだったから。
そして、こいつがこの事態を俺に知らせた――と同時に俺たち以外には知られないようにした理由もわかった。
もしも上松防衛大臣――もしかしたら牛蔵さんや閑さんも――に知らせていたら、俺たちがここに来る前にミレリーは処理されていて俺が気付くようなことはなかった。
口で言われても信用しなかっただろう。
「なんでこんなことに」
「本当にね。でも、君のお陰で事態は良くも悪くもなっている」
「どういうことだ?」
「気付かなかったかい? 富士山で彼女が出現したとき、呪いは周囲に派生し、ダンジョンからも溢れた。僕は周囲の人間をその呪いの脅威から遠ざけるために魔物を一緒に溢れさせて対処に当たらざるを得なかった」
「あれって、そういう意味だったのか!? ただ、ダンジョンが怖い場所だって知らせたかったんじゃないのか?」
「そういう一面もあるね。実際、ダンジョンを舐めてダンジョン攻略に力を入れていない国々には魔物を溢れさせているし」
一瞬だけ見直したので余計に腹が立つ。
「でも、いまの彼女は違った。意図的に呪いを抑え込んでいる。おそらく……君がいるからだ。壱野泰良」
「俺?」
「君がエルフの世界の過去を変えたことで、ミレリー・ノ・ハンデルマスという個人の在り方も変わったのさ。些細な違いだが、それでも彼女はこの世界に君の気配を感じ取り、今回は君に迷惑を掛けないため呪いを自分の内に溜め込んだ。一体、どれだけの苦痛が彼女を襲っていたことだろう――まったく、健気な少女だよ」
「……ミレリー」
たった半日一緒に過ごしていただけなのに、俺のために?
「ダンプル、俺はミレリーに何ができる?」
「なにも? 大仰なことを言ったが、君の役目はこれまでと変わらない。そしてこれからも変わらない。ただ、エルフの世界を救うことにある」
「エルフの世界を……」
「ダンプル、質問! 泰良がミレリーにこの世界を傷つけたくないって感情――ううん、彼女が残滓だというのなら、そういう残滓の中に残った思い? みたいなのが宿ったことはわかったわ。でも、それならなんで富士山で呪いが溢れたってこの世界の事実は変わらないの?」
「そうだよね? 私はパパが呪われたことも覚えているし」
「でも、泰良さんが過去に行った結果、トゥーナさんの持っていた歴史書に変化はありましたよね?」
みんながそれぞれ尋ねた。
「あくまで、エルフの世界の歴史の変化はエルフの世界の中でしか反映されないからさ。エルフの女王や彼女が異世界から持ってきた品はこの世界のものじゃないから、歴史の変化に反映されるが、この世界で既に起きてしまった事象には影響がいかない。それによりタイムパラドックスを防ぐことができている」
もしも俺が過去に戻ってエルフの世界を救うことができたら、トゥーナがこの世界に来なくなる。
そうなったら、俺がエルフの世界に行く理由もなくなり、そうしたらエルフの世界が滅び、やっぱりトゥーナがこの世界に来る。
そういうタイムパラドックが起こらないため、俺が世界を救ってトゥーナの存在がこっちの世界から消えたとしても、彼女がいたという事実や、彼女に関する記憶は失われないってことか。
じゃあ、仮に過去の世界のトゥーナにこっちの物を持たせて、こっちに持って来させた場合はどうなるのか? とかSF好きがいたら丸一日話ができそうな内容だな。
「ミレリーは苦しんでいると言ったが、だったら俺がしたことは邪魔だったのか? あの時、信玄さんに殺されたら、少なくとも次に出現するまでは時間がかかった。その間は苦しまずに済んだと思うんだ」
「そうだとも言えるし、そうでないとも言える。たぶん、彼女は君に救われて嬉しかったはずだ。それに、彼女が苦しむことは気にする必要はない。君がエルフの世界を救えば、彼女の苦しみは全てなかったことになる」
「……全てなかったことになる」
そんなこと言われても割り切れねぇよ。
結果が良ければ全てがいいみたいな、ド〇ゴンボールがあれば全員生き返れるからハッピーエンドみたいなこと言えねぇよ。
「おーい、ダンプル。話し込むのはいいが、文化祭の準備そろそろしておけよ。明後日、文化祭の本番だぞ」
キッケがダンプルの頭の上に乗って言う。
「なんだってっ!? 鉄になっていて時間が経った感覚がないがそれは大変だ。壱野泰良、僕に見せるものがあるんだろ」
「なんのことだ?」
「泰良、超激レア缶のことよ」
姫が言って思い出した。
俺はD缶を――超激レア缶を取り出した。
思えば、これを開けるために躍起になっていたが、最後の最後にいろいろと在り過ぎて忘れていた。
「本当はもっと後で渡すつもりだったが、君達が本気で僕を救ってくれるか心配だったのでね。これは一つの保険として用意させてもらった。といっても、中身は本物だ。受け取ってくれ」
ダンプルがそう言うと、魔法の缶切りでも開けられなかったD缶が音をたてて開いた。
D缶の中にはいろいろな物が入っていた。一部のアイテムは中から飛び出したくらいだ。
まるで玩具の缶詰だな――同じ缶だけに。
なるほど、質より量で勝負のD缶か。
とりあえず一個一個確認していく。
俺の前にあったのは紙束?
コピー用紙のような白紙の紙が数百枚ある。
「魔法の契約書:その紙に書いた※文章に※サインをすると、絶対に従わなければいけなくなる※」
「※契約締結後、紙は消えてなくなるため、サインをする前にコピーしておくことを推奨」
恐ろしい紙だった。
紙が消えてなくなってしまうため、ファンタジー小説とかによくある隷属の首輪とかの契約より恐ろしい。
これは絶対に悪人の手に渡してはいけないものだ。
あと、もしかしたら似たようなものが世間に出回っているかもしれないので、今後うかつにサインはしないようにしよう。
幸いなことに、詳細鑑定Ⅱを使った結果、文章の部分に文字の大きさや使用する言語などについて細かい説明が山のように書かれていたし、サインの部分にも年齢や意識の有無、偽名を書いた場合や代筆について、口語による説明に義務など様々な注意事項が書かれていたので、だまし討ちで契約させることはかなり難しいらしい。
まぁ、悪用さえしなければ便利なアイテムだと思う。
「これはレジャーシート?」
姫が丸められた白いレジャーシートを見て、鑑別のモノクルを使う。
俺も鑑定する。
【聖域シート:広げて敷くとそのシートの上は魔物に襲われることのない絶対安全な場所になる。ただし、一度設置すると24時間動かすことはできなくなる】
へぇ、安全地帯を作る事ができるシートか。
「魔物に襲われないってだけで、人間には襲われるかもしれないから注意が必要ね」
姫が鑑定結果を見て言った。
そっちの心配があったか。
「これは黄金の竹です。またスキル一つをワンランクアップできますね!」
アヤメが黄金の竹に頬擦りをして言う。
そうだな。
一体何をランクアップさせるか楽しみだ。
「魔法の缶切りも三本も入っているし、これは宝の地図だよね! 今度はポケットティッシュ以外出すよ。これはきっとスキル玉だよね。四つもあるよ。泰良、詳細鑑定して」
ミルクが缶の底からスキル玉を取り出して俺に言った。
「わかった。四つ全部、エルフ語のスキル玉だな」
トゥーナに教えてもらおうと思っていたが、これなら苦労して覚える必要もなくなった。
しかもご丁寧なことに人数分入っている。
「まぁ、よかったよ。世界樹の種とか島を作り出す槍とか真実とともに相手の弱みや暴露されたくない秘密まで映し出す鏡とか、そんなぶっ壊れ性能アイテムじゃなくて」
そのうち二つは既にインベントリの肥やしになっているが。
「それも考えたんだけど、それだと感謝の気持ちじゃなくて嫌がらせになるだろ? それより、君たちもそろそろ帰った方がいいんじゃない?」
「「「「え?」」」」
「明日は東京に行って、明後日は授与式の本番だろ? 急いで帰って準備をしないとね」
あ、そうだった。
とっても長い時間、異世界風世界にいたせいで、そっちのことが疎かになっていた。
ヤバイ、前もって用意してもらったスピーチ用の原稿の内容、全部忘れてるぞ。




