真の裏ボス
マグマの海に向かって落ちていく中、
「泰良っ!」
姫が空中を走ってきた。
天翔――その力を使い、空中を走って駆け付けて来る。
彼女が手を伸ばす。
俺も手を伸ばす。
「泰良ぁぁぁぁっ!」
ただ、その手は届かない。
あぁ、これでレベル1からやり直しか。
ははっ、死なないのはラッキーかな。
そう思ったときだった。
姫よりも先に駆け付けてくる一人の影が。
信玄さんだ。
彼は竹刀を大きく振るうと、あろうことかマグマの海を叩き斬った。
そして俺よりも先にマグマの海の底にあった床に辿り着いた信玄さんは俺の肉体を受け止めると、大きく跳躍し、地上に戻った。
「泰良っ!」
床に横たわる俺をミルクが魔法で治療してくれる。
胸の痛みが徐々に消えていく。
「……信玄さん」
「力の差を弁えずに飛び込むからだ。しかし、私の一撃を受けてその程度で済んだことは驚嘆に値する」
「そうだ、ミレリーは!?」
俺は上半身を起こすが、ミレリーの姿は見えない。
まさか――
「逃げられたようだ」
呪禁師らしき男が言う。
そうか、ミレリーは死んだわけではないのか。
「いまはそれで充分だ。どのみち、倒しきれるとは思っていない」
「あの、信玄さん。事情を説明してくれませんか?」
「先ほども言ったが、君達を巻き込むことはできない」
巻き込むことはできない――って、一体、何が。
「いいじゃないか? 教えてやれば」
「不破! 彼らはまだ子どもだ」
「ここに来てる時点で子どもじゃない。それに彼は勇者だ。いつかは知らないといけない」
一羽のカラスが飛んできて、不破と呼ばれた呪禁師らしき男の肩に止まった。
そして、不破は踵を返し、おそらく36階層に続いているであろう階段を下りていく。
どうやら、不破と信玄さんは31階層から降りてきたのではなく、40階層からここまで上がってきたらしい。
「あっ!」
ミルクが何かに気付いて声をあげた。
「どうした?」
「あれ、石切神社で私からD缶を奪ったカラスだ!」
と視線を不破の去った方に向けるが、既に彼の姿もカラスの姿も見えなくなっていた。
「本当なのか?」
「うん、たぶん同じ」
なんでミルクのD缶を?
中身が気になるが、いまは彼を追いかけている余裕はない。
「信玄さん、教えてください」
「おじさま、お願いします」
俺とミルクが頼む。
とその時だった。
「おい、ちょっと話し込んでる場合じゃなくなってきたな」
キッケが声を上げた。
一体今度はどうした?
と思ったら、ドラゴンの骨が――こいつ、さっきの魔王か!?
「魔王ゾンビだ。このステージの裏ボスだ! どうやらさっきのエルフのエネルギー吸収が止まったせいで、魔物生産機能が復活したらしい!」
「このややこしい時になんて間の悪い敵なの!?」
「ゾンビじゃなくてスケルトンですよね?」
姫が悪態をついて、アヤメがどうでもいい疑問を投げかける。
魔王ゾンビは闇の炎を飛ばしてくる。
魔法反射を使って魔法を跳ね返すが、ダメージを与えられない。
「魔法を跳ね返してぶつけるな! 闇属性の攻撃は魔王ゾンビを回復させるぞ!」
「闇属性回復か――」
ってことは、影獣化は使えないな。
「ここは――」
信玄さんが一歩前に出るが――
「手っ取り早く倒すぞ! 琴瑟相和だ!」
「「「琴瑟相和!」」」
俺たち四人は琴瑟相和を使った。
ステータスが二倍に跳ね上がる。
ミルクの周りに四丁の銃が現れた。
念動力によって浮かして、並列思考によって同時に魔法を展開する。
名付けるとするのなら武装展開――って感じだ。
ガトリングガンのごとく連続で四方から放たれる銃弾の嵐に魔王の骨が砕けていく。
魔王ゾンビが闇属性の炎を吐き出したが――
「解放:竜巻――魔札乱舞」
アヤメが魔札を大量に投げて、それを竜巻に乗せる
彼女の魔札にはミルクの光属性の魔法が込められていて、竜巻によって破られた魔札が光の渦となって闇魔法を打ち消し、魔王ゾンビを呑み込んだ。
直後、魔王がノーモーションで雄叫びを上げた。
その雄叫びが咆哮となり、俺たちの動きを封じようとする。
しかし――
「私は止まらないわっ!」
スキル、ノーブレーキの効果により動きを封じる攻撃を無効化する姫の前には意味がなかった。
分身とともに四方八方に散り、ミルクとアヤメの攻撃により欠けていた骨目掛けてミスリルのクナイを投擲する。
そして――
二刀流応用剣術――
「月影双龍剣」
俺の攻撃が魔王ゾンビにトドメを差した。
魔王の骨が灰となって消滅し、巨大な銀色の魔石を残した。
ふぅ、四十階層のボス並みには強かったかな?




