ダンジョン学園(23~29階層)
11月1日。
今日は平日だが、学校を休んでダンジョン学園のダンジョンに来ている。
姫以外の三人は学校側に3日の国民栄誉賞授与のための準備で休むと嘘をついての欠席である。閑さんには少し疑われたが、なんとか休めた。
そして朝の六時。ダンジョン学園の始業前に集合し中に入る。
受付のスタッフはまだ来ていなかったが、予め連絡をしてあったため、警備の人に中に通してもらった。
EPO法人の力は本当に便利だ。
一度、ダンジョン学園のプレオープン時に全員で潜ったことがあるので、まずはロビーの横を通り抜けて転移陣を使用し、一気に21階層に移動。
雪山に入る。
「暖気の風」
アヤメの魔法を使う。
おぉ、暖かい。
スパイスドリンクは身体の中から暖かくなるという感じで寒い中でも平気って感じなのだが、魔法の方は暖気のカーテンに覆われているという感じだ。
スパイスドリンクよりこっちの方がいい。
「微魔法。名前は微妙っぽいのに、凄い便利だな」
「はい、とっても便利で助かります。ダンジョンの外で使えないのが残念ですね」
「なんとかダンジョンの外でも使える裏技みたいなのを見つけたいな」
トゥーナはダンジョンの外でも魔法を使える。
仕組みを聞いてみたが、彼女が言うにはむしろダンジョンの外で魔法を使えない理由の方がわからないらしい。
何か方法があるかもしれない。
この前、呪われた蛇に襲われた時にダンジョンの外で戦う手段がもっとあればいいのにと思っていたし、この件が片付いたら、その方法を模索してもいいかもしれないな。
「22階層に転移するぞ」
迷宮転移の魔法で22階層に。
23階層への階段は以前来たときに見つけていたので、そのまま移動。
23階層は他のダンジョンと同じく祭壇になっていた。
「あれ? 飾っている絵が違うぞ」
以前に見た絵画は森や空、水中、砂漠などの絵画だったが、これらの絵は文明の息吹を感じる。
「これ、てんしばダンジョンに似ているな」
ベルトコンベアや機械の感じがてんしばダンジョンの21階層以降の風景に似ている気がする。
他にも大きな畑や海上都市など、どれも文明の力を感じられる。
これも異世界なのだろうか?
そして、その絵画の中でも一際異彩を放つ絵があった。
黒塗りの絵だ。
「黒のダンジョンだから黒いイラストなのか?」
「んー、他の絵と違って、上から黒いインクで塗りつぶしている気するよ」
ミルクが絵を見て言う。
彼女の言う通り、絵の表面がインクのせいで油絵みたいにでこぼこになっていた。
まさか、環境活動家が来て絵画にペンキをぶちまけたとかじゃないよな?
「見られたくないものが描かれてるのかしら?」
アイテムじゃないから詳細鑑定でもわからない。
ナイフを使ってインクを削ぎ落したいが、下手にすればペンキの下も削れてしまいそうだし、あとで怒られるのは困る。
「アヤメ、絵の撮影を頼む」
「はい」
アヤメがスマホを取り出して写真を撮る。
ダンジョンの中にはスマホ等の機械類は持ち込めないが、腰巾着を使うことで持って入ることができる。ダンポンには注意されて二度としない約束をしたが、ここはダンポンのダンジョンではないし、怒るダンプルも不在。
万が一、俺たちで倒せない魔物がいた場合は牛蔵さんに手を貸してもらうつもりでいたが、同時に全く原因がわからない現象があれば閑さんの協力が必要になる。
アヤメの普段使いのスマホではなく、新品未使用のスマホだ。
プロ仕様のスマホなので、画質はいい。
高かったけれど、俺たちの収入を考えると余裕で買えた。
「専用の機材を持ち込めばインクの向こうも撮影できそうなんだけど」
姫は気になるようだ。
「X線とかでか?」
「X線のような専用機材のような大きな荷物は腰巾着を使って持ち込めませんね。せいぜい鞄の中に入るくらいのものしか無理です」
「……姫が気になってるのはキングさんのことか?」
俺が尋ねる。
キングさんは異世界の人間である可能性が高い。
そして、それが人間の住んでいた異世界だというのなら、文明のあるこの工場や海上都市である可能性もある。だが、それ以上に黒塗りにされたこの世界。
隠しているというのならこの向こうにあるのがキングさんのいた世界の可能性もある。
彼女が気になるのは仕方のないことだ。
キングさんがいた世界というのなら、それは姫のルーツでもあるのだから。
俺の問いに姫はため息を吐いて答える。
「わかってるわよ。考えたところで答えが出ないことくらい。急ぎましょう」
あぁ、急ごう。
目指す先は三十五階層。
まだまだ先は長い。
※ ※ ※
「出たぞ、ホワイトビッグベアだ! 姫、油断するなよっ!」
見た目は狂暴なシロクマで、とにかくデカく、そしてパワフル、そして頭がいい。
一撃で巨大な岩を粉々に砕く威力だ。
「わかってるわよ!」
さっき姫は一撃大きいのを食らった。
不屈がなければ一撃で消えていたレベルのダメージだ。
姫が油断していたのも確かだが、思ったよりホワイトビッグベアの知能が高かった。
普段はのんびり動いてパワフルと見せかけて、ここぞと言う時に素早い攻撃を仕掛けてきた。こちらが相手の速度に慣れて油断するのを待っていたのだ。
人間の探索者相手だったらわかるのだが、まさか魔物――しかも29階層とまだ30階層に達していない階層の熊にこんなフェイントを使った攻撃を受けるとは思っていなかった。
40階層まで行けるようになったから油断していた。
しかし、姫も同じ轍は踏まない。
それ以降はホワイトベアの攻撃を無傷で躱し、生じた隙をつくかたちで俺の剣が熊を沈めた。
「お疲れ様。体力を回復させるね」
ミルクが俺の肩に手を当てた。
体力薬銃。
体力を回復させるポーションを薬魔法で放った。
うん、疲れが取れる。
「皆さん、30階層への階段が見つかりました。行きましょう」
30階層。
やっとボス部屋だな。




