ちゃんと言っておかないとね
とりあえず、不良A~Dたちの命に別状はないようだ。
「さっきのって魔物なのかな?」
「魔物じゃないと思う。魔石もDコインも落とさないし」
富士山からあふれ出た魔物を倒したときは魔石がいっぱい落ちていた。
それがないってことは、ダンジョンの魔物ではない。
暫く待っているとトゥーナがやってきた。
念話で助けを呼んだのだ。
ミコトに調べてもらうつもりだ。
彼女が来れば、ついでに彼女を護衛している公安の人間も来てくれるから警察を呼ぶ手間が省けて一石二鳥である。
「トゥーナ、来てくれてありがとう」
「……泰良様の頼みならば」
「いきなりだけど、ミコトを召喚してくれるか?」
「……ん、わかった」
トゥーナが魔法を唱えるフリをする。
『壱野くん、これって何してるの?』
『公安の人たちには、ミコトはトゥーナの召喚獣って伝えているんだ』
『そうなんだ。まぁ、神様が居候しているって知られたら確かにちょっとした騒ぎかもね』
水野さんと念話で話していると、ミコトが現れた。
そして、ミコトは俺が何か言う前に、クロを見る。
「む、クロ。お主呪われておるぞ?」
「わふ」
「問題ない。軽い呪いじゃ――ほれ、これで問題ないじゃろ」
ミコトがクロの頭を撫でる。
特に何かしたって感じはしないのだが、しかし呪いは祓われたらしい。
って、それはマズイ。
クロが呪われたタイミングはあの時蛇に噛まれた時だ。
ということは――
「ミコト、俺も呪われていないかっ!? さっきトゥーナに伝えた蛇に噛まれたんだが――」
「うむ……なんもなっとらんぞ?」
「本当に? よく見てくれ」
俺は蛇に噛まれた傷口――いや、傷は塞がっているため、穴が開いた服の部分を見せる。
「うむ……むっ、これは!?」
ミコトが目を見開いて言った。
「やっぱり呪われてるのか?」
直ぐに祓ってもらわなければ。
しかし、クロよりもいっぱいの蛇に噛まれてしまった。
「いや、むしろ呪いを取り込んで自分の力にしておる。泰良、お主いったい、何をした?」
「なにって、エナジードレインで蛇の体力を吸収したんだが」
「そのお陰じゃな。呪いには掛かっておらん。むしろ呪いに対して軽い耐性ができておる」
「そうなのか? よかった」
「……泰良様、無茶したことには変わりない。反省して」
「ごめんなさい」
トゥーナに怒られて反省する。
斬っても増える敵を倒すにはあれがベストだと思ったんだが、やっぱり無茶だったようだ。
「それで、あの蛇ってなんだったんだ?」
「蛇自体も呪いの一種じゃな。と言っても、先程も言ったように呪いそのものは大した力もない。せいぜい、本能を刺激して僅かに操る程度じゃ。奴らは操られておったようじゃが、普段の行いが悪過ぎて自分たちが操られていたことにも気付いておらんじゃろ」
「ということは、ダンジョンに行って魔物に呪われたのか?」
「いいや、あれは魔物の仕業ではない。古より日本に存在する呪術の類じゃ」
呪術――と言われて、アヤメの蛇の呪い、そして若草山ダンジョンで出会った呪禁師らしき男のことを思い出す。
「ミコト殿はトゥーナ殿の召喚獣なのに、日本の歴史にお詳しいのですか?」
公安の一人が探りを入れるように尋ねた。
「……ん、ミコトはこの世界の地脈の力を使って呼び出した召喚獣。この土地の記憶に紐づいているから日本の歴史に詳しい」
「なるほど」
「そういうことじゃ。お主たち公安も陰陽師の存在については知っていて黙っておるのじゃろ? それより、そっちの方はどうなのじゃ?」
ミコトは、奥で電話をしている公安の護衛職員を見る。
彼は電話を終えるとミコトを見て言った。
「バイクのナンバーから照会したところ、逮捕歴がありました。隣町を拠点に恐喝やひったくりなどを行っていたそうです」
「半グレってやつかの?」
「そこまでは。反社とのつながりもありませんし、地元の不良グループという感じです」
「そうか。まぁ、こやつらに尋ねたところで何の情報も得られんじゃろうが、まぁ捜査はそなたらに任せる。妾は疲れたから休ませてもらおう」
「かしこまりました」
ミコトは消えた。
暫くして警察官の姿をした職員が十人ほど現れ、彼らを担架に乗せて連行していった。
トゥーナも車に乗って帰っていく。
俺たちも車で送ろうかと言われたが、断った。
水野さんの家はここから近いし俺が送っていく。
「でも、あの人たちの狙いってなんだったんだろ? お金?」
「俺も水野さんも金持ちだもんな……護衛とか雇った方がいいのかな?」
「一応、護身用のアイテムは持ってるけどね。今回は使う暇もなかったけど」
「そんなの持ってるんだ」
麻痺石とかだろうか?
相手にぶつけたらいいだけのアイテムなので、確かに自衛のためのアイテムとしては便利だ。
俺も護身アイテム持った方がいいだろうか?
ミルクたちにも注意喚起をしておかないといけないな。
「そうだ、壱野くんにちゃんと言っておかないとね」
「どうしたの?」
「助けてくれてありがとう。さっきの壱野くん、とってもカッコよかったよ」
そう言って水野さんが微笑む。
真っすぐ向けられた彼女の礼の言葉に、俺も思わず微笑み返していた。




