ダンジョン局大阪支部長の憂鬱3#side相原
「スキル玉というのはご存知ですか?」
スキル玉? なんだそれは?
聞いたことがない。
園山の方を見る。
彼はダンジョン局の中でもダンジョン産の魔道具や薬に関する仕事を主にしているから、ダンジョン内のものには詳しい。彼が知らないとなると、ユニークアイテムかレアアイテムだろうか?
「どのようなアイテムなのでしょう?」
園山が尋ねた。
スキルに関するアイテムなのは間違いないが。
「使うとスキルを覚えられるアイテムです」
「スキルを……覚えられるっ!? まさか、そのようなアイテムを入手したのですかっ!?」
「こちらをどうぞ」
私の質問には答えず、壱野氏が出したのは一通の封書だった。
その封書には、月見里研究所の文字が印刷されている。
EPO法人の一つであり、この国でも一番のダンジョン研究機関でもある。
「中を見ても?」
「ええ」
一体何が書かれているのだろう?
私は中を見た。
「なっ」
そこに書かれていたのは、スキル玉というアイテムについての報告書だった。
スキルを覚えることができるアイテムというだけでも驚きだ。
だが、一番に驚いたのは、それが既に発見されているアイテムということだ。
インターネットのSNSや掲示板などに、同様のアイテムに関する情報が掲載されている。
『ダンジョンドロップを舐めたらスキルを覚えた』
というものだ。
だが、それは浸透することがなかった。
同じようにダンジョンドロップを舐めても、スキルを覚えられないと直ぐに報告が来たのだ。
結果、ダンジョンドロップを舐めたらスキルを覚えたというのは、ネット上にあるデマと言われていた。
だが、実はダンジョン局でもその噂は把握していた。
そして、その真偽を確かめるため、当時数百ものダンジョンドロップを鑑定したことがあった。
しかし、結果は全てがただの飴玉。
特別な効果はなかった。
しかし、月見里研究所の報告によると、スキル玉は鑑定結果が偽装されており、通常の鑑定では判別は不可能とのこと。
そして、ダンジョンドロップがスキル玉である確率は低いことがわかった。
まるで宝くじのような飴玉だと私は思った。
「この情報を一体どうやって――」
「……月見里閑さんは私の担任の先生なんですよ」
「…………そうか、エルフの件か」
エルフの女王が月新高校に編入したことは聞いている。
そして、エルフの情報を得るためにその担任に月見里研究所の理事長、月見里閑が担任になったことも。
しかし、妙に引っかかる。
ダンジョンドロップ――思い出した!
「先日の石切ダンジョンの配信。トレジャーボックスの中身がダンジョンドロップだったのって!」
園山が叫ぶ。
どうやら彼も思い出したらしい。
だが、壱野氏は微笑むだけで何も言わない。
確かに、それを聞いたところでどうにもならない。
「この情報は明日にはダンジョン局の本部に。本部の許可を貰えれば、来週……いえ、再来週には全世界に発表されます」
「そうか……猶予があるのは助かるな。準備ができる」
「ダンジョン局にダンジョンドロップの在庫ってあります?」
「いや、ない。一応買い取りはしているが、換金所の最低価格と同じで、買い取ったものは全て換金所に運ばれているはずだ」
「では、これから買い取り価格はどうなります?」
「…………わからない。値上げをするのは確実だろう。スキルを覚える確率がわかればいいが、それが分からない以上、オークションの動向を見て買い取り価格を上げることになるだろう」
「わかりました。では、こちらから要望を出します。スキル玉のことが発表されれば、こちらの支部でダンジョンドロップを一個10万円で、とりあえず1000個限定で買い取ってください。お金はこちらが支払います」
「ダンジョンドロップを一個10万円か……そして、それを君たちが全て買い取ると?」
「いえ、私が頂くのはそのうちの一割程度で結構です。とりあえず、ダンジョンドロップの買い取り価格が上がっているという実績が欲しいだけなので」
10万円か。それならば集まる可能性はある。
1億円払って、スキル玉かただの飴かわからないものを一割でいいだと?
いや、待て。
私はさっき、スキル玉のことを宝くじのようだと表現した。
たとえ1000個ダンジョンドロップがあっても、スキルを覚える条件が最後まで舐め切ることだと、一人で試せる数には限度がある。
1000個全てを舐め切るのにどれだけの時間が必要かわからない。
だから、彼は自分の運に賭けた。
幸運値はダンジョンの外であってもほんの僅かながら実生活に影響が出る。
幸運の尖端異常者の彼ならば、適当に選んだダンジョンドロップがスキル玉である確率は高いかもしれない。
自分で直接買い取らないのは、ダンジョンドロップの母数を増やして当たりの本数を増やすことと、表だって派手に買い取りをしたことが明らかになれば、自分たちがスキル玉を独占しているのではないかと要らぬ疑いを掛けられるからかもしれない。
「直ぐには難しい。ダンジョンドロップの買い取りを始めたあと、我々も検証をする必要がある。月見里研究所の情報を信じないわけではないが、自分たちでもダンジョンドロップによるスキル入手が可能か検証する必要がある」
「具体的には……あ、いえ、わかりました。では、ミスリルの納品量について契約をしましょうか…………正式な契約は、ダンジョンドロップの契約が済んでからになるので、いまのところ口約束になりますが」
と壱野氏は朗らかに笑って言った。
その後は表面上は和やかな雰囲気で仕事が終わった。
ミスリルの安定供給に、スキル玉。
今日の爆弾も特大だ。
しかも、毎回のように複数の爆弾を同時に持ってくるから困ったものだ。
謎の鞄? 私は自分から地雷を踏みに行くドMではない。
「しかし、恐れ入ったな」
「ええ……また凄い案件でしたね」
「それもあるが、私が言っているのは壱野氏のことだよ。今回の交渉は全て壱野氏が一人で行っていた。前までは全て押野氏が一人で行っていたから逆じゃないか」
「そういえば……」
「彼はまだ高校生だろ? 大人二人を前に、よくも堂々と自分の考えを述べることができるまで成長したものだ。そして、一切口を出さない押野氏もな。ある程度は事前に決めていただろうが、想定外のこともあったはずだ。なのに自分の意見を言わず部下を完全に信用する……私もああなりたい」
「支部長、それって、完全に天下無双案件の仕事を自分に丸投げして、横で座っているだけになりたいって言いたいんですか!? 無理ですよ、自分には荷が重いですって」
「私もああなりたい」
「だから無理ですよ!」
園山くんは心から叫ぶ。
さて、トヨハツ自動車、ヨツビシ工業を含む大手何社かに連絡を取り、ミスリルの安定供給が可能になるかもしれない旨を伝え、即戦力となる優秀なスタッフをこちらに出向させてもらえないか打診するとしよう。
ミスリルの安定供給という餌があれば、優秀なスタッフを寄越してくれるはずだ。
それまでは残業が続くだろうな。
後日、天下無双からドラセナという大きめの観葉植物が送られた。
私の部屋は殺風景だからちょうどいいのだが、何故観葉植物なのだろう?
「泰良、後半、言葉詰まり過ぎよ」
「仕方ないだろ、台本外のことばかりだったんだから」
「台本内のこともいくつか間違えてたでしょ」
「……反省してます……念話でのサポートありがとうございました」
「それにしても、支部長も随分と心労が溜まっているみたいね。大丈夫かしら」
「そういえば、水野さんがストレス解消には観葉植物を愛でるのがいいって言ってたぞ? 名前をつけて話しかけるとさらにいいんだってさ」
「……私は真衣の方が心配になってきたわ」




