キングは勇者なのか?
俺たちの視線に気付いたのか、鈴原――いや、終末の獣は振り返り、そこにいたキングに気付くと横に飛びのく。
今までの鈴原にはない俊敏な動きだ。
「貴様は――キング・キャンベル――この世界のランキング一位の探索者か。何故ここにいる」
終末の獣が少し焦ったように言う。
だが、直ぐに薄い笑みを浮かべて続けた。
「貴様の強さは鈴原の記憶を通じて理解している。確かに貴様は強い。だが、いまの俺の敵ではない」
「鋼鉄肉体、そして右腕を前方に構えるそれは、守護者の右手か」
キングは興味なさげにそう呟いた。
鋼鉄肉体はともかく、守護者の右手まで構えだけでわかるのか。
「ほう、知識だけは大したものだ。ならば、背後から攻撃をすればいいと思ったのだろう。だが、この鈴原の肉体は器に過ぎん。体内で身体を操る本体である俺には正面や背後という概念は存在しない。つまり、全方向からの攻撃を受け流すことが可能となる」
自慢気に言うが、キングはそれを無視し、そして姫と――石化した姫の分身を見る。
「貴様の仕業か?」
「なるほど、石化ブレスの警戒か。さすがに世界一位も石化の状態異常は警戒対象というわけだな。だが、安心しろ。貴様には石化ブレスを使うまでもなく――」
と次の瞬間、鈴原が吹き飛び結界に激突していた。
結界がなければ地球の果てまで吹き飛ぶんじゃないかという速度で。かろうじて、パンチを繰り出す一瞬だけ見えたが、殴った場所が鈴原の右頬であることは、彼の変形した顔を見るまで気付かなかった。
「な……なへ」
顔を変形しながら疑問を口に出す。
「何故だと? たとえ分身であっても娘を石にされて殴られないと思ったのかね? 私は君と違ってそこまで聖人ではないのだよ――右頬を殴られたら左頬をも差し出せ、なるほど、期待に応えようではないか」
とキングは再度殴った。
瞬きもせずに注視して、その動きを一部始終見ることができたが、ヤバイな。
あれは見えても避けきれない。
姫より速いぞ。
「そうか。何故、守護者の右手が発動しないか聞きたかったのか。答えは簡単だ。そのスキルは一定以上のダメージを受け流すことはできない」
そう言って、キングは鈴原の右頬をさらに殴る。
「……かっ……ん」
「貫通スキルではない。今のお前の防御値が何千、何万だろうと、それ以上の攻撃値で打ち込めばダメージは通る」
「まっ……」
そう言って、キングは鈴原の身体を結界に押し当て、その胸に拳を叩きこむとその口から白い塊が出た。
「キングさん、それが終末の獣です!」
「わかってる」
『ま――』
終末の獣をキングは叩き潰した。
これで、終わった。
と、姫の分身の石化が解けた。
「戻った」
「え!? なんでダディがいるの!?」
姫の分身たちは気付けば目の前にキングがいるものだからとても驚いている。
だが、キングがここにいる理由が気になるのは俺たちも同じだった。
「ダンジョンから出てくるのを待つつもりでいたが、翔上から話を聞いた」
明石さんから?
どうやら、俺が念話を使って鈴原のことを伝えたあと、姫たちは配信クリスタルを使って明石さんに現状を報告していたらしい。
そこから彼に情報が行ったのだろう。
「……すまない。いま解析が終わった」
とさっきからずっと黙っていた閑さんが指をパチンと鳴らすと、周囲を囲っていた結界が消え去った。
どうやら、結界を消すための準備をしていたらしい。
「特殊解析と状態解除って魔物以外にも使えたんですね」
「むしろ助かりましたよ。結界が残っていたらここから出られないところでしたから」
アヤメとミルクが閑さんに感謝する。
俺も同感だが、この結界ならキングさんが本気で殴ったら消し飛びそうな気もするんだよな。
「姫。メールで見た例のペンダントを見せてくれるか?」
「う、うん。泰良、お願い」
俺は言われて二つの勇者のロケットを渡す。
キングは、大きな手でその小さなロケットを受け取ると中を見て頷いた。
一体、いま彼は何を考えているのだろう?
彼は蓋を閉じると――
「ありがとう」
「よかったらそれはキングさんが持っていてください。やっぱり大事なものなんですね」
「すまない、その申し出は君の厚意だとは思うが遠慮させていただきたい。これ以上これを見ているのは私には辛いようだ」
とキングが差し出したロケットを俺は受け取った。
そして、キングは気絶している鈴原を担ぎ上げ、「彼を引き渡す。以前の彼と違いこいつには償うべき罪があるようだ」と言った。おそらく西条虎のことを言っているのだろう。
「ダディっ! 教えて! あのロケットはなんなの? あれに映ってるのはダディ? ダディは異世界の勇者なの!?」
姫が悲痛な声で尋ねる。
「あれに描かれているのは私ではない。そして私は異世界の勇者ではない……」
そう言ってキングは振り向き、もう一度言った。
「勇者ではないんだ」
その表情は怒っているのか悲しんでいるのかわからない。
ただ一つわかるのは、その言葉に偽りはないと直感で思ったということだ。
「また時間を作る。その時、話をしよう――解放:空間転移」
キングはそう言って、鈴原とともに姿を消したのだった。




