無詠唱でなろう主の夢を見るのか?
PDでのスキルの実証も終わり、姫たちも帰った。
俺も一度戻ろうかというところでダンポンが部屋の奥から出てきた。
口の周りに生クリームと粉砂糖をつけていることから、奥のプライベートルームで何をしていたのかは一目瞭然だ。
「ダンポン、ひとつ聞きたいことが――」
「堂島ロールならもう残っていないのです」
「いや、とらねぇから」
絶対残ってるだろ。
ちゃんと自分の分は買って家族でシェアして食べたから、ダンポンの分を取ろうとは思わない。
「だったら何なのです?」
「明日、石切ダンジョンに行くんだが」
「石切ダンジョン?」
「日下遊園地跡に作ったダンジョンだよ。一緒にダンジョンを設置する場所を選んだだろ?」
「そういう名前になったのですね」
「ああ。それでな。廃世界――その記憶を元に世界を再現することができるだろ? お前の協力があれば、石切ダンジョンでエルフの村の記憶の世界を再現できるんじゃないかって思ってな」
「200万Dが必要なのです」
「高っ!?」
そんなに高いのか。
200万Dって1億円ってことか。
いま、換金せずにとっているDコインは30万Dくらいしかない。四人合わせて100万Dくらいしかない。
あと100万Dか。
「それで、どのくらいの時間世界を再現できるんだ?」
「1秒なのです」
「1秒1億円っ!? 1時間で3600億円分のDコインが必要なのか」
前、ダンプルが夜の民の世界を再現してくれたのって、かなりの大奮発だったんだな。
「なんとかまけてくれないのか?」
「まけるまけない以前の問題で、それだけのエネルギーが必要なのです。そこからさらに手数料を払ってもらうのですよ」
さらに値上げもあるのか。
くそっ、一つの世界を再現しようっていうんだからある程度の代償は覚悟していたが、しかし高すぎる。
最低でも30分は調査をしたいから、
6000万Dポイント……これは無理か。
いや、エネルギーが必要なら、アレが使えるんじゃないか?
俺はインベントリから、その缶詰を取り出した。
Dエネルギー缶。
激レア缶から出たダンジョン管理人専用のエネルギー缶だ。
「Dエネルギー缶なのですっ!? 凄いのです。普通の分体では手に入らないエネルギーが詰まっているのです!」
「これなら記憶の世界を再現できるか?」
「できるのです。あ、でも33階層でお願いするのです」
「33階層で?」
「そうなのです。33階層は最初から別の世界を再現するために作られた場所なのですよ」
そうなのか?
23階層は異世界からの物を手に入れる場所、33階層は異世界に物を送る場所かもしれないって予想だったが外れたか。
「世界の記憶を再現できる泰良だから教える内容なのです。一緒に33階層に行く人には伝えてもいいのですが、他の人には言わないで欲しいのです。配信で言うのも厳禁なのですよ」
「言わねぇよ」
どうせ記憶の世界は配信できないんだから言っても信じて貰えそうにない。
あぁ、閑さんは研究の成果を学会とかに発表するのかな? だったらそっちの口止めはしっかりしておかないと。
※ ※ ※
翌日の放課後。
俺たちいつもの天下無双メンバーと、そして今日はトゥーナも一緒に夕方四時に石切ダンジョンに集合した。
新しいダンジョンだけど大阪の中心部から離れているため、客は梅田ダンジョン程は多くない。
ただ、前までは静かな場所だったのに、露店が多く立ち並ぶようになっている。
更衣室で着替えを済ませ、早速入場。
行列を無視して、EPO法人特典でさっさと入場し、迷宮転移を使って11階層に移動する。
ここから配信開始。
「チーム救世主の配信開始よ。今日は初配信した日下遊園地跡のダンジョン――現在は石切ダンジョンって名前が変わったけど、そこのリベンジ企画です。前回は11階層でリタイアしたけど、今日は30階層目指します。長丁場になると思うけど最後までよろしくね!
〔来た待ってた!〕
〔最強鈴原との勝負見ました! リアルアルファちゃんも可愛かったです!〕
〔石切ダンジョンに名前変わったんだ〕
〔泣きじゃくる最強鈴原がネットミーム化してるよな〕
〔11階層から30階層なら最短で5時間くらい? 先に風呂入って来るわ〕
〔先に夏休みの宿題済ませてくる〕
〔↑9月なのにまだ終わってなかったのかよ〕
……冗談で言ってるんだろうけど、俺も九月に入ってようやく夏休みの宿題が終わったところなので全然笑えない。
さらに、姫はトゥーナを紹介する。
「特別ゲストに、エルフの女王、トゥーナも来ているわよ」
「……ピース」
トゥーナが無表情のままVサインをする。
〔やっぱりトゥーナ様だったのかっ!?〕
〔トゥーナ様、アバター姿でも神々しい〕
〔ハ〇スカレーのWEBCM見ました。テレビで流れるの楽しみにしてます〕
トゥーナって、みんなからトゥーナ様って呼ばれてるのか。
まぁ、女王陛下だから様付けもありか。
天皇陛下の家族を様付けで呼ぶのと同じだよな、きっと。
気を取り直してダンジョン攻略だ。
と思っていたら、早速オーガが現れた。
「誰から行く?」
「じゃあ私から行くね!」
とミルクが隕石落下を無詠唱で使って巨大な炎石を当ててオーガを一撃で沈める。
7月と比べてもう余裕だな。
〔いま、魔法を無詠唱で使ってなかったか?〕
〔音声ミュートにしてたってわけじゃないよね。口も動いてなかったし〕
〔無詠唱――デルタちゃん、そんなレアスキルいつの間に〕
〔デルタちゃん、ここは「え? 魔法を使うのに詠唱って必要なんですか?」って言って見て〕
似たようなコメントがいっぱい流れてくる。
無詠唱はユニークスキルじゃないんだけど、めっちゃわかりやすいスキルだからリスナーのコメントも大盛り上がりだな。
「え? 魔法を使うのに詠唱って必要なんですか?」
と言われたまま言うと、さらに盛り上がった。
〔なろう主だ! ギルドで魔力測定水晶破壊してください〕
〔上級探索者に絡まれて指先一つでダウンさせるんですね、わかります〕
〔「あれ? 私また何かやっちゃいました?」 って台詞も追加でお願いします、デルタ様!〕
なんか無詠唱とは関係のない台詞になってきたな。
「私、また何かやっちゃった?」
またもミルクがリクエスト通りに言う。
〔女の子に好きな台詞を言わせることができる会場はこちらですか?〕
〔だったら、ガンマちゃんに、「できるできないじゃない。やらなきゃならないことがある」って言って欲しい〕
〔トゥーナ様に「あなたは死なないわ、私が守るもの」って〕
〔ベータさん、「撃って良いのは、撃たれる覚悟のある奴だけだ」ってイケボでお願いします〕
なんか空気感がおかしい方向に流れてきた。
俺、アニメの台詞とかわからないし、イケボ指定とかマジ無理だから。
これ、どうしたらいいんだ?
って思ったらピタッとコメントが止まる。
〔卑猥なメッセージをお願いしたバカが8人BANされました〕
〔他の要望もスタッフが止めてるみたい〕
〔仕事してるなぁ、スタッフ〕
とリスナーから報告が。
配信クリスタルに表示されるコメントはダンジョン映像編集者である明石さんが目を通しているので、卑猥なメッセージをこっちに送れないってことくらい知っているはずなのにな。
これでコメントも落ち着くだろう――と思ったら、
〔アルファちゃん、語尾に「にゃん」って言って喋ってみて――ってこれも無理かな〕
……明石さん、なんでそれは通すんだっ!?
明石さんも姫に「にゃん」って語尾につけて喋って欲しいのか?
いや、俺もちょっと、いや、かなり聞いてみたい。
「なぁ、姫。リクエストが来てるんだが――」
「言うわけないでしょ! バカなことやってないで行くわよ。時間がないんだから」
と姫に怒られ、俺たちは30階層を目指して移動を開始した。




