梅田ダンジョン30階層(その2)
ボスロボットゴリラを倒した先に広い部屋があり、その先に大きな扉があった。
ボス部屋の前の安全地帯のようだ。
「姫、ここのボスの情報ってあるか?」
「ええ。ボスの情報ならあるわよ」
「え? 本当に?」
21階層以降の各階の魔物の情報とか無かったから、てっきりボス部屋の情報もないと思っていた。
「高レベル探索者の死亡事故で一番多いのはボス部屋だからね。全てのダンジョンのボスの情報は40階層まで揃ってるの。ダンジョン局のデータベースに入ってるわよ」
「ほら、日下遊園地跡ダンジョン――えっと、石切ダンジョンに名前が変わったっけ……そこも竹内のおじ様が攻略してたでしょ? 竹内のおじ様は日本中のダンジョンに挑戦しているから」
うわ、アグレッシブだ。
さすがに日本換金ランキング第一位にして、貢献値ランキング第一位のEPO法人の理事長だな。
「で、ここのボスの名前は?」
「神造猿神8号よ」
「マジか?」
「本当と書いてマジよ」
姫は表情を変えずに言う。
本気と書いてマジみたいな言い方だ。
神に造られた神って、なに、その循環は。
「いちご――」
「1号から7号は別のダンジョンでボスやってるらしいわ」
先に言われた。
てか、いるんだ、1号から7号。
もしかして、ロボットゴリラも1から12号も別のダンジョンにいるのかもしれない。
なんだろ? 機械化具合が違うのだろうか?
「基本は猿神と一緒。周囲に炎を展開している。ただ、相手は獣じゃなくて機械の魔物だから、養蚕守護は効果がないはずよ」
「じゃあ、ミルクの金属溶解で」
「ダメ。相手の身体は特殊金属らしくて、金属溶解液も効果がないみたいなの。正攻法で倒すしかないわね」
正攻法ね。
まぁ、これまで楽をし過ぎたってのもある。
たまにはそういう勝負もいいだろう。
しっかり作戦を練り、補助魔法をかけ直した。
俺もヒートアップを使う
影獣化は使わない。
いざという時にアイテムが使えないのは未知の敵に対してデメリットが大きい。
影獣化の一番の武器は闇の地獄の業火だ。
アヤメの魔力タンクのお陰で、魔力が空っぽになったときのデメリットが緩和されたが、それでもいざというときに即座に迷宮転移で脱出できるという一番のメリットを捨てることになる。
四人でボス部屋の中に入った。
中にいた魔物――身長三メートルはある猿。身体の半分が機械になっていて、目の部分がレーダーになっている。
その周囲には炎が二つ浮かんでいた。
「解放:火薬精製、解放:火薬精製、解放:点火」
開幕と同時に、ミルクの魔法が発動。
バズーカ砲から炸裂弾が放たれる。
神造猿神8号のうち機械化していない部分から血しぶきが吹き上がるが、すぐに傷が塞がっていく。
再生力が高い。
「解放:雷神竜巻」
神には神で――とアヤメが現時点で使える最強の魔法を放つ。
機械なら雷に弱いだろう――と考えもあったが、効果は高くない。
それでもダメージは与えているだろう。
初撃が終わったところで、姫が分身とともに前に出た。
合計十人の姫が神造猿神を取り囲んだ。
そして――
『朧突き!』
さらにそれぞれ二体の残像を作り、合計三十人となって神造猿神へと迫る。
が神造猿神は迷うことなく、前に出た。
己の機械の身体の部分を盾に、姫のクナイの攻撃を正面から受け止めつつ、側面を漂う炎で守り、そして姫――それも本体に狙いを定めて突撃した。
攻撃を躱した姫だったが、周囲の炎が動きを変えて、姫に迫った。
分身がすかさずカバーに入ると爆発を起こした。
体力が本体の四十五分の一しかない分身は一撃で消えた。
「姫っ」
現在、肩代わりスキルは分身には使っていない。
敵が範囲攻撃を仕掛けたとき、十人分の姫のダメージ全てを受ける可能性があるから、本体にしか使っていなかった。
分身消失による痛みは肩代わりでは引き受けることはできない。
「大丈夫。ほとんどダメージはないわ」
姫はそう言って回復薬を飲む。
俺は姫たちと合流した。
神造猿神の拳と俺の剣が激突する。
硬い。
巨大なハンマーと打ち合ってる気分だ。
だが、これなら押し返せる。
そう思った時、両サイドから火の球が飛んでくる。
あれは魔法ではないから魔法反射で跳ね返せない。
一度引いて避けるかどうか一瞬思考を巡らせたその時、別の火の球が飛んできて炎同士が激突した。
あの炎はアヤメがラーニングで猿神の技を取得して生み出した炎、猿焔だ。
威力は互角か。
神造猿神はまた炎を生み出そうとするが、銃声とともに銃弾がその機械化してレンズとなっている目玉へと吸い込まれていく。
目のレンズが割れる音とともに神造猿神の力が弱くなった。
いまだ!
神造猿神の力が緩んだと同時に俺は一気に神造猿神の拳をはねのけると、
「解放:火付与」
俺は剣に火属性を付与し、
「斬絶華」
と最近使えるようになった龍牙貫天に次ぐ威力を放つ剣技を放った。
「やったっ!」
ミルクの声が聞こえた。
だが、神造猿神の気配は消えていない。
神造猿神は俺の剣を左手で掴んだ。
ぐっ、動かない。
神造猿神が右手で俺を潰そうと振り下ろす。
俺は咄嗟に剣の柄から手を放して後ろに飛びのいた。
そして、布都斯魂剣に代わり、布都御魂を取り出す。
神造猿神は自分の腹に刺さった剣を抜き、それを投げ捨てた。
傷はみるみる塞がっていくが、失われた血液と体力までは即座に回復していないようだ。
神造猿神は鋭い眼光でこちらを見ている。
すると、神造猿神が大きく息を吸い込んだ。
直後──咆哮が来る。
ただの咆哮じゃない。
この威力は――
影の中から飛び出したクロ。
ラーニングを使ったアヤメ。
二人がかりで神造猿神の咆哮を打ち消す。
そして、神造猿神の目の色が変わった。
めっちゃキレてる。
気配でわかる。
ステータスが大きく増えているな。
そして、周囲を飛んでいる炎も五つに増えている。
これはいい勝負ができそうだ。
そう思ったが――
「泰良、時間よ!」
姫の合図が掛かった。
え? もう五分経過したのかっ!?
最初から決めていた。
五分経過して倒しきれないとなったときは奥の手を使うと。
「姫、もう少しだけ!」
「最初に決めたでしょ。ほら、いくわよ!」
と言われ、俺は渋々琴瑟相和を使った。
その後は勝負ではなく、作業だった。
跳んでくる炎は全て分身の姫が叩き落とし、アヤメとゼンの風魔法、ミルクの銃が神造猿神に致命傷一歩手前の傷を与え、最後に俺が――
「必中剣」
かなり抑えた一撃で仕留めた。
危なげなんて全くない。
スキルの効果は3分続くのだが、元々体力を半分以上削っていたために1分足らずで戦いは終わってしまった。
神造猿神のいた場所には、大きな金属の塊と紫色の魔石が残った。
【ミスリル:聖銀とも言われる伝説の金属】
シンプルな説明だが、名前は良く知る金属だ。
詳細鑑定をすると、錆びない、溶けない、丈夫で軽いなどと情報が伝わって来る。
「あ、レベルも上がってるな」
レベル105になっている。
梅田ダンジョンに入ったときはレベル103だったから1日で2も上がっている計算になる。
やっぱり、自分よりレベルの高い相手だと経験値が大きいな。
姫はロボットゴリラを倒しまくっていたからレベル106に、アヤメとミルクは揃ってレベル102になっているようだ。
さっき神造猿神に投げられた布都斯魂剣を拾って鞘に戻し、布都御魂はミスリルや魔石とともにインベントリに収納。
31階層に続く階段を降りた。
31階層の最初に部屋には21階層と同様転移用の魔法陣があり、さらにその先には石造りの部屋が。
工場地帯はここまでで、31階層からはまたオーソドックスなダンジョンが始まるんだな。
「どうする? 見ていくか?」
「いいえ、帰りましょう。PDで五分以内に神造猿神を倒せるように特訓よ。今の動きを、今の戦いを身体が忘れないうちにね」
やっぱりそうなるよな。
でも、俺も少し戦い足りないと思っていたところだ。
是非楽しませてもらおう。
その後、俺たちは家に帰ってPDで神造猿神と戦いを続け、八回目にしてようやく神造猿神を五分以内、琴瑟相和無しでの撃破に成功した。
その時にはもうすっかり炎上騒ぎなんて過去のものとして忘れていた。
翌日、炎上騒ぎの犯人が判明し、責任者が謝罪をすると知ったその時までは。




