万博公園ダンジョンのボス
万博公園ダンジョンの地図を確認しながら移動する。
そして、九階層に来たところで、何かに気付いた。
花が供えられていたのだ。
花の周囲は魔物が嫌う匂いを発する小瓶も一緒に置かれている。
「これって――」
「たぶん……」
イビルオーガに殺された探索者だろう。
仲のよかった探索者が供えたのだろうか?
殺された探索者が酒好きだったかはわからないが、来世では長生きできるようにと赤スライム酒をインベントリから取り出した花と一緒に供え、10階層の階段を降りて行った。
用意されていた地図は10階層まで。
11階層から先は自力で潜る必要がある。
ただし、アヤメには「風の道標」という周囲の地形を把握する魔法があるので迷うことはない。
だいたい、適当に進んだら下り階段に辿り着く。
13階層には因縁の相手であるイビルオーガが現れたが、
「解放、風強大弓!」
アヤメが難なく倒す。
レッドオーガを倒したときに完全にトラウマを克服したようだ。
「ナイス、アヤメ!」
「はい。でも、思ったより弱いですね。これならもっと威力を抑えた魔法で倒せそうです」
「魔力は大丈夫? 前、三連で使ったときに威力が落ちてたけど」
「大丈夫です。えっと、即死魔法の熟練度が上がって新しい魔法を覚えたときに魔力が大幅に上がったので」
「新しい魔法?」
スライムデスの新しい魔法?
即死以上の魔法ってなんだ?
「17階層にスライム系の魔物が出てくるみたいなんで、使ってみますね!」
彼女の言う通り、17階層にスライムが出てきた。
俺にとってはイビルオーガと同じく因縁の相手、
黄色いスライム、アシッドスライムだ。
まぁ、因縁の相手といってもあの時はその姿を直接見たわけではないので、これが初対面となる。
そのアシッドスライムが七匹もいる。
酸を吐くスライム。
普通のスライムよりも遥かに強く、それでいて体全体も酸で覆われているため剣で斬ったり殴ったりするのも躊躇われる。
俺の使っている布都斯魂剣だったら溶けることはないと思うが、酸臭いから近付きたくないんだよな
「アヤメ、魔法を使うのか?」
「はいっ! 解放:スライムデスサイズ」
彼女がそう言うと現れたのは、死神が使うような大鎌だった。
彼女はそれを投げると、高速回転して飛んでいく。
それが当たった瞬間、アジッドスライムたちは死んだ。
斬られたわけではない。
ただ、死んだのだ。
そして、大鎌はそのまま消えた。
「なるほど、命中判定はあるけれど複数を一度に倒せる大鎌か」
「はい。しかも魔力消費は通常のスライムデスと一緒なんです」
通常のスライムデスは必中の単体即死魔法。
スライムデスサイズは避けられる可能性もあるが、複数の即死魔法。
うん、使い分けはできる感じか。
スライムにしか効果がないのが難点だが、対スライム特化としてアヤメは成長しているな。
「お、宝箱の気配あり!」
気配を頼りに発見した宝箱を開けると、中にはD缶が入っていた。
【開封条件:20階層のボスを魔法で倒す】
どこでもいいのか。
だったら、このダンジョンで試してみるか。
そして、20階層のボス部屋に難なく到着。
懐中時計で時間を確認すると、昼の二時だ。
どうりで腹が減ったわけだ。
「どうします? ボスの前にお昼ご飯にします?」
「いや、昼はボスを倒してからにしようか」
「はい!」
ボス部屋に入る前に、風の速足を使って俊敏値を上げてもらう。
今日は姫がいないから、俺が彼女の代わりに回避タンクとなってアヤメを守る必要がある。
20階層のボスは――ミノタウロス?
二本足で立つ雄々しき牛の魔物が巨大な斧を持って立っていた。
「牛神ですね」
「牛神? また神様か」
「いえ、犬神や猿神と同じく、妖怪の類を神と呼んでるだけで、神様ってわけではないと思います。たぶん見た目的に牛頭を元にしているのではないでしょうか?」
ないでしょうかって言われても、その牛頭がよくわからないんだが。
「来ます!」
「おうっ!」
影獣化し、前に出る。
牛神が斧を振り下ろしてくるが、俺は前に跳ぶと、身体を捻りながら斧を横から蹴った。
ごぉぉぉんという大きな音とともに、巨大斧が吹っ飛ぶ。
とそこに、
「風強大弓!」
とアヤメの魔法が背後から牛神を襲った。牛神はそれを躱そうとするも躱しきれず、頭に生えた角が一本消し飛んだ。
すると、牛頭の目の色が変わった。
これは――
「BUOOOOOOOUっ!」
牛神が怒りの咆哮が――
「ワオォォォォォォォォンっ!」
アヤメがラーニングで覚えた咆哮によって相殺される。
犬神で何度も経験した咆哮同士のぶつかり合い。
そして、咆哮の後は一瞬の隙ができるのも犬神と同じだ。
俺は床を蹴り、無防備になった脇腹を蹴る。
牛神の身体が大きく横に動くが、四つん這いになって吹っ飛ばないように踏ん張る。
四本足で立つその姿は牛のお前にはお似合いだ。
そして、
「いまだっ!」
「はい! 風強大弓! 二連っ!」
一本の風の矢が牛神の腹を、そしてもう一本が頭を抉るように貫いた。
終わったな。
影獣化を解除。
「やりましたね」
「ああ、余裕だったな」
牛神が落としたのは、人間サイズになった斧と、そして桐の箱?
【牛神の斧:牛神が愛用している斧】
というシンプルな説明で、特殊効果もないようだ。
そして桐の箱は――と鑑定し、その中身を見る。
そこに入っていたのは――
「おぉっ!」
大きな肉の塊だ。
【神のWAGYU:最高品質のWAGYU。その味は神の舌をも唸らせる】
凄いな!
「神のWAGYUですかっ!? 見るの初めてです!」
「ああ、まるで宝石のようだ。でも、なんで和牛じゃなくてWAGYUなんだ?」
「えっと、最初は和牛だったんですけど、ダンジョンで手に入る肉を和牛と呼ぶのはやめてほしいと農林水産省から嘆願があったそうです。和牛は「黒毛和種」、「褐毛和種」、「日本短角種」、「無角和種」の4品種とその交雑種のみで、牛神の肉はそのどれでもないからと――オーストラリア産の和牛の交配した品種の肉をWAGYUと呼ぶのと同じですね」
「ブランドを守るためか。大事だよな、そういうのは」
と、どこかで聞きかじったようなことを言いながら、お待ちかねのD缶開封タイムだ。
さて、中身はなんだろうな?
「おっ、首飾りか」
「綺麗ですね」
銀色の金属細工の中心に大きな紫の宝石がついている首飾りだ。
「どれどれ……えっと、魔術師の首飾り」
鑑定すると魔術師の首飾りと出た。
魔力が上がる首飾りは生駒山上遊園地の攻略前に上松防衛大臣から貰っていたのだが、このパターンって、もしかして。
さらに意識を集中させ、詳細鑑定をしてみる。
【大魔術師の首飾り:魔力を大幅に上昇させ、さらに魔法を覚醒へと導く伝説の首飾り】
大魔術師シリーズ三つ目来たっ!?
これは俺の運がいいのか、それともアヤメの運がいいのか?
いや、俺の運が悪いんだ。
こんないい装飾品が手に入ったら、この後渡す予定だった俺の婚約指輪が霞んで見えるじゃねぇかっ!




