世界再生の手がかりを求めて
第五章開始です
兄貴の部屋は模様替えを終え、見事に女の子の部屋へと生まれ変わっていた。
トゥーナの部屋とするためだ。
プロデュースは天下無双の女性陣。特にアヤメが張り切ってくれた。
ミルクが山ほどのぬいぐるみを持ってきたときは流石に度肝を抜かれたが、部屋に馴染んでいるのでよしとしている。
その部屋の中で、トゥーナはそれを見詰めていた。
廃世界。
ガラスのような素材の中にピンポン玉サイズの惑星が浮かんでいる。
大陸の配置が地球とは異なり、陸地の大半は緑に覆われている。
ここがトゥーナのいた世界――その残滓らしい。
俺はこれをトゥーナに見せるのを迷っていた。
自分の世界の滅んだ姿なんていうのは見ても気分がいいものではない。
「……これが……トゥーナのいた世界の残滓?」
「ああ、そうらしい。トゥーナと出会う少し前にD缶の中に入っていたんだ」
「……そんなわけがない」
トゥーナは真向から否定した。
まぁ、自分の世界がこんな状態になっているのを簡単に肯定はできないだろうな。
やっぱり、もっと遠回しに伝えるべきだったか。
俺が悔やんでいると――
「……ん……ちょっと待って」
トゥーナはそう言って、部屋を出ていくと、何かを持って戻ってきた。
黒マジックと広告だ。
その広告の裏にトゥーナは何かを書き始める。
子どもの落書きのような絵だったが――
「……ん、これがトゥーナのいた世界」
とそこにあったのは、平らな世界だった。
円形の世界で周囲は海に囲まれ、その海の先は滝になっている。
世界平面説?
もしかして、トゥーナは自分の世界が球体であることを知らないのか?
いや、待て――少し考えてみろ。
トゥーナがいた世界は物理法則とか無視する魔法が普通に使える異世界だ。
もしかしたら、本当にこういう世界だったとしても不思議ではない。
ダンポンはこれをエルフの世界の残滓だって言っていたが、他の世界にもエルフがいるかもしれないじゃないか。
「ちなみに、トゥーナは世界の端にある滝とか見たことあるのか?」
「……ん? ない。それが見えるまで近付いたら滝から落ちて死んでしまう」
「そ、そうか。ちなみに、トゥーナの世界で、自分の世界は球体なんだ! って言う人はいなかったか?」
「……いた。でも、それは異端発言だから、精霊教の人たちに連行されていた」
あぁ、うん、なんかいろいろと察したわ。
「トゥーナ、ちょっと見て欲しいんだ」
俺はそう言って、パソコンの画面を見せる。
「これは遥か上空から撮影したこの世界の姿だ。どうだ?」
「……驚き――」
「驚いただろ?」
「……泰良様の世界は中心から離れすぎると大地から滑り落ちてしまう」
「しまわねぇよっ!」
その後、俺のつたない物理知識を駆使して、この世界が球体であることを説明した。
学校の授業なんて将来社会に出て何の役に立つんだ?
探索者になったら絶対に意味がないだろう?
って思ってたが、違うわ。学校の授業、大切だ。
なんとかトゥーナには世界が球体であることを理解してもらい、これが正真正銘トゥーナのいた世界の姿であることも認識してもらうことができた。
「……そういえば、この陸地、トゥーナの知ってる地図によく似てる」
トゥーナは廃世界を凝視して言う。
彼女が何を考えているのかはわからない。
ただ、じっとその世界を見て言う。
「……ここからどう戻せばいいのかな?」
「それがわかったらいいんだけど、ダンポンにもわからないんだよな」
というか、そんな方法があるのかもわからない。
「……泰良、会いたい人がいる。連れて行ってほしい」
「誰だ?」
と言ったが、想像がつく。
トゥーナが知っているこの世界の人物の中で、色々と詳しそうなのは二人しか思いつかない。
そして、その二人は何故か同じ場所にいる。
キング・キャンベルとダンプルだ。
この二人はどういうわけか一緒に行動している。
ダンプルは総理と会談を果たし、若者のための修行の場であるダンジョンについて学ぶ教育機関の設立に協力することを宣言。政府はこれを受け入れたらしい。
世間は何故かそれに対して応援ムードになっている。
ダンプルのせいでこれまで何度も大きな被害が出ているというのに、この反応は俺も予想外の展開だった。
大きな情報統制でも行われているのだろうか?
ともかく、トゥーナが会いたいのは、キングとダンプルだろう。
会わせてやりたい――というか俺も会いたくて、上松防衛大臣や姫を通じて面会の申し出をしているのだが、既にキングはアメリカに帰ってしまった。
これからアメリカに行くのは流石にな……と思っていたら、トゥーナが告げたのは俺の予想していない名前だった。
「……西条虎」
※ ※ ※
大阪府内のとある病院らしき施設に、西条は監禁されていた。
そこに俺とトゥーナは政府の高級車で案内された。
病院らしき施設と言ったが、スマホの地図では製薬所になっている。
政府保有の秘密研究所みたいな場所なのだろうか?
などと邪推をしながら、三階に案内される。
ここは普段は治験用のアルバイトの人が生活をするために使っているスペースらしい。
その一室に案内され、職員が先に入ると、四十歳くらいの女性が中から出てきた。
職員って感じはしないし、もしかしたら西条さんの奥さんだろうか?
だとしたら年上好きなんだな――って思いながら、許可を貰って病室に入る。
「失礼しま……」
言葉が一瞬詰まった。
そこにいた、病院の入院着を着た男性は、俺の知っている西条さんと少し違った。
四十歳、いや、それ以上の年齢に見える。
「やぁ、壱野くんに、トゥーナさんだね。待っていたよ」
彼は少し疲れたような、だが、朗らかな笑みで俺たちを歓迎してくれた。
やっぱり西条さんなのか?
「あぁ、驚かせたね。ホワイトがいなくなってから徐々に体に変化がでてきてね。おかげでこのありさまだ。とはいえ、四十路一歩手前だから、これが本当の姿なのかもしれない」
「え? 三十手前じゃなかったんですか?」
「ホワイトは僕の身体を操っている間、最適な状態でいられるように老化を止めていたようなんだよ」
と言うと、彼はベッドの上に正座をした。
そして、頭を下げる。
「トゥーナさん。君を殺そうとしたこと申し訳なく思っている。すまない。それと壱野くん。私を地獄から救い出してくれたこと、心から感謝している。本当にありがとう」
「……ん、許す」
「俺も感謝されるようなことはありません。礼を言うなら、英雄の霊薬をくれたキングさんに言ってください」
「ああ。彼にはもちろん礼を伝えるつもりだ。だが、一番礼を言いたいのは君なんだ。おかげで妻にまた会うことができた。と言っても、元妻だけどね」
「離婚していたんですか?」
「ああ。ホワイトに身体を乗っ取られた直後にね。ホワイトの目的がわからない以上、妻に危険が及ぶかもしれない。身体がまだ自由のあるうちに離婚届にサインをして出ていってもらった」
「じゃあ、娘さんがいるっていうのは?」
「本当だよ。もう高校一年生になる。といっても長いこと会っていない。たまに送られてきた手紙を読んで近況は知っていた」
アルファのファンっていうのも手紙を読んで知っていたのか。
「ホワイトの行動は基本は僕そのものだからね。あぁ、彼にはほとんど恨みしかないが、娘の養育費を一回も欠かさずに払っていてくれたことだけは感謝してもいいかな?」
と西条さんはあっけらかんとした口調で笑っていった。
冗談だと思うが。
「妻には、僕が悪い魔物の呪いで精神を蝕まれていたと伝えてた。その呪いがようやく解けたとも」
「復縁なさるんですか?」
「男女の仲っていうのはそう簡単じゃないよ。娘にも暫くは会えないだろうね。一番デリケートな年ごろだし、随分と恨まれていると思う」
と西条さんは少し悲しそうな眼で言うと、気持ちを切り替えるように首を振って尋ねた。
「ところで、君達が来た理由を伺ってもいいだろうか?」
その質問に、トゥーナが一歩前に出る。
「……ん、あなたは十年間、終末の獣と一緒に行動をしていた。あなたなら、もしかしたら終末の獣から何かを教えて貰っているのではないか? そう思ってきた」
「そうだね、いろいろと聞いたよ。君たちエルフがいた世界についての話もね」
西条さんはそう言って、ホワイト――終末の獣から聞いたという話を語り始めた。




