みんなでタコパ
今回の事件で岩倉さんが亡くなった。
石化して砕けた彼は、英雄の霊薬の効果でも蘇生できない。死んだ人間は生き返らない。
俺たちは手を合わせ、その砕けた欠片を回収した。
地上に戻った後、西条さんは拘束された。
彼は操られていただけだと伝えたが、どうなるのかはわからない。
ただ、政府関係者が見守る中、明らかに警察官とは違う人たちに連行されるとき、彼は俺を見て「解放してくれてありがとう」と感謝を述べた。
尚、今回の事件についてはほとんど報道されないそうだ。
騒ぎになっている梅田ダンジョンに現れた魔物については、捕獲玉でテイムした魔物が指示を聞き間違えて一階層に移動したということに落ち着いた。
一般人が誰も襲われなかったことからお騒がせな事件として収束させるようだ。
そういう事件の揉み消しみたいな話は正直好きではないのだが、なんでもトゥーナが誘拐されたことが明らかになったら、日本政府にトゥーナを預けておくのは危険だから彼女の安全を確保するためにも自国で保護をしたい――とか横槍を入れてくる国があるだろうからだそうだ。
そうなると俺にとってもトゥーナにとっても不都合な流れとなるため、その話を受け入れることになった。
ただし、今後のトゥーナの仕事は大幅に減らされ、リモートによるクエスト発行業務も俺の家の近くに専用の作業スペースを建築し、そこで行われることになった。
我が家のお隣さんが、ほくほくの笑顔で引っ越しの挨拶に訪れた三日後には急ピッチでの取り壊し工事が始まっている。
俺たちについてもいろいろと譲歩が行われた。
まず、どうやって梅田ダンジョンに入ったかについては黙秘を許された。
完全封鎖されているはずのダンジョンに、しかも他の探索者よりも先に23階層に辿り着いた方法について説明しなくていいのは助かった。
それと、政府が管理するダンジョンの入場許可も得た。
あとは姫と明石さんが政府相手の取引をいくつか進めていたが、それについては俺のみノータッチとさせてもらった。
「しかし、なんとか無事に解決したな」
と俺は自分の部屋で千枚通しを片手に言う。
「本当ね――泰良、もう焼けてるんじゃない?」
姫が指摘するが、俺は首を横に振った。
「いいや、まだだ。俺の料理技能がまだだと告げている」
そして、その時を俺は見逃さない。
ちょうどいい具合になったところで、千枚通しを使って、たこ焼きプレートの中のたこ焼きをひっくり返しながら丸く整える。
「そういえば、ダンジョン高校ができるってニュース見た?」
ミルクがソースや鰹節の準備をしながら思い出したように言った。
初耳だ。
「若いうちからダンジョンに入って専用の訓練を受けるための高校らしいよ。学校の敷地内にダンジョンがあって、学校のカリキュラムとしてダンジョンに潜るの。全国に三カ所、東京、大阪、名古屋にできるみたい」
「いや、若いうちからって、高校生でも18歳になるまではダンジョンに入れないだろ?」
「それが、そのダンジョンの管理者はダンプルみたいで、年齢制限も15歳まで大幅に引き下げられてるみたいなの」
「は?」
俺は耳を疑った。
ダンプルが管理するダンジョン?
危険すぎるだろ。
そういえば、ダンプルが総理と会談するって言っていたけれど、その会談の内容ってそれについての話し合いだったのか?
「……ん、そのダンジョンならトゥーナの世界にもあった。基本はダンポンのダンジョンと変わらない。ダンプルの指示に従って戦えば若いうちから強くなれる」
「いや、それでも――」
「これは御褒美なのよ。私たちが生駒山上遊園地のダンジョンを踏破したことに対する……ね。私たちには聖女の霊薬が与えられたけど、国に対しては若い人材を適切に育てるためのダンジョンが与えられる。実際、ダンジョン学園は他の国でも建設が始まってるわ」
「あ、あの……実は私の妹も大阪のダンジョン学園への編入書類を貰ってきまして、昨日家族会議をしました。妹も昔から探索者には興味があって」
アヤメが小さく手を挙げていう。
そういや、アヤメの妹は高校生だったっけ。
俺は焼けたたこ焼きを千枚通しで皿に盛りつけながら考えた。
既に18歳になって自由にダンジョンに潜れる俺たちには直接関係のない話だが、ダンジョンを取り巻く環境の流れは変わっていくんだな。
「ところで、なんでたこ焼きを泰良の部屋でやってるの? こういうのって普通リビングでしない?」
ミルクが今更なことを俺に言った。
うん、本当に今更だ。
狭い部屋に女の子四人と男一人って、どういうハーレムだよ。
しかもこの後水野さんも来ることになってるし。
ただ、それは俺の願望を具現化させたわけじゃない。
「いや、姫がこういう狭い部屋でみんなでたこ焼きパーティをすることに子どもの頃から憧れがあったらしい。なんかのアニメの影響で」
「ええ。夢が叶って本当に嬉しいわ。それにしても大阪の人って本当にたこ焼き器を持っているのね」
姫が感心したように言う。
まぁ、友だちの部屋で集まってたこ焼きパーティをするアニメって確かにいろいろと見るけど、このままだとソースの匂いとかがベッドに残りそうで少し困るな。
寝る前に換気をしておかないと。
みんながソース、マヨネーズ、鰹節、青のりを使ってたこ焼きを食べ始めるが――
「トゥーナ、何してるんだ?」
「……ん、これは絶対にカレーに合う」
トゥーナはカレーを掛けようとしていた。
そりゃ合うだろうよ。
というか、世の中にカレーに合わないものは存在しない説すらある。
飲み物のラムネですらカレー味があるくらいだ。
まぁ、俺はたこ焼きの食べ方に作法を持ち込むほうじゃないので許すけど、外ではあまりするなよ?
さて、次を焼くか。次は牛スジを入れてラジオ焼きにしよう。
オタマを使ってたこ焼きの生地を流してから焼き上げ、自分用のタコ焼きを食べる。
うんうん、外はカリっと、中はトロっと、我ながら最高のたこ焼きじゃないか。
アヤメは初めての俺の部屋に少し緊張しているようだが、ミルクは昔よく遊びに来ていたので、かなり寛いでいるな。
「そういえば、泰良の部屋に入るのは久しぶりだけど、神棚なんてあったんだ」
「ああ、ホームセンターで買ってきた」
ミルクが目敏く壁に取り付けてる神棚に気付いた。
「それだけ幸運なのに神頼みとかしてるの?」
「そんなんじゃないよ。神棚に供えたら開くD缶があったから買っただけだ。とはいえ、神棚だから捨てたりもできなくて、壁に取り付けた。で、飾っておくものがないから導きの水晶玉を置いている」
と俺はそう言って、神棚の上の導きの水晶玉を降ろす。
一応毎日見ているのだが、最初にD缶が映ってからは何も映らない。
「それで、そのD缶の中身はなんだったの? 神棚に供えろっていうんだから、神聖なものだったんでしょ?」
「いや、それが――矛だったんだよ」
俺はインベントリからその矛を取り出した。
と天井に当たってしまった。危ない危ない。
二メートルはあるから、天井の低い部屋の中だと縦には持てないな。
こいつがD缶から出てきたときは焦ったな。
思わずその時舐めていたスキル玉を噛んでしまうところだった。
あの時スキル玉を噛んでいたら、獄炎魔法が覚えられないところだったよ。
「へぇ、強そうな武器ね。基礎槍術は習得してるんでしょ? 自分で使ったらどうなの?」
「いや、ゴブリン相手に試したんだが、武器としての威力は結構普通なんだよ。別の使い方がメインの魔道具の一種なんだ」
俺は鑑定結果を皆に伝える。
【天沼矛:沼の中に大地を生み出す神聖な矛のレプリカ。オリジナルと同様の性能を持つ】
沼の中に大地を作るって、使い道が限定され過ぎているんだよなぁ。
だから、魔道具としても使い道はいまいちだ。
と俺が言うと、
「へぇ、沼の中に大地を作る矛かぁ。そんな矛があるんだね」
とミルクが普段通りの口調で言う。
ただ、アヤメが普段と違った。
さっきまでの緊張がさらに酷くなった……というより、俺の矛を指差して震えている。
「い、壱野さん。その槍についてインターネットで調べなかったんですか?」
「もちろん調べたぞ。高く売れるかもしれないからな。だけど、ダンジョン局の武器データベースで調べても出てこなかった」
「出ませんよ! そうじゃなくて、普通の検索です!」
え? そんなに有名な矛なのか?
と、ヤバイヤバイ、ラジオ焼きが焦げてしまう。
俺は焦げる前にラジオ焼きを皿に盛った。
俺にとっては、こんな使いにくい矛よりも、この千枚通しの方が使いやすいんだけどな。
「……泰良、淡路島の恋人の聖地に関する神話を覚えてる?」
姫が突然言った。
急にどうしたんだ?
えっと、いざ……なんて名前だったっけ?
とにかく、夫婦神が海の中を矛でかき回して、日本を完成させたんだよな?
……矛で?
「もしかして、神話に出てくるその矛って――」
「ええ。それがその天沼矛よ」
と姫は天沼矛の検索結果を見せた。
天沼矛について詳しく書かれている。
「あぁ、えっと、これ本物と同様の力を持ってるって書いてるんだが――」
「泰良がこれを使って海をかき混ぜたら、新しい島ができるかもしれないわね」
「なんちゅうもんをD缶の中に用意してるんだ! あのダンポンはっ!」
俺は思わずそう叫ばずにはいられなかった。
封印だ封印!
海に陸地を作るって、こんなのが世間に公表されたら、大惨事になること間違いない。第三次世界大戦の引き金になるわ。
「海底の土を地上に隆起させる効果があるのなら、温室効果ガスによる海面上昇の歯止めに使えるかもしれないわね」
となんか真面目に考えているが、ミルクとアヤメは俺と同じように「そんな危ないものもう出さないで」って感じで忘れようとしているらしい。
ただ一人、トゥーナだけが「……さすが泰良様」とラジオ焼きにカレーをかけて食べていると、
「うわぁ、たこ焼きパーティなのにカレーの匂いが勝ってるよ」
水野さんが遅れてやってきた。
「悪い、先に始めてた。水野さん、ラジオ焼き焼けてるよ」
「あ、たこ焼きですらなかったのね。でもありがとう」
また次はたこ焼きを焼く。
水野さんはラジオ焼きを食べながら、鞄の中から何かを取り出す。
「はい、これ。頼まれてたもの。特殊な金属が使われてるらしくて大変だったんだから」
と水野さんが俺に箱を渡した。
「真衣、何それ?」
姫が正気に戻って尋ねる。
「壱野くんに開けるように頼まれてたロケットペンダントよ」
「あぁ、あれね。真衣に頼んでたんだ。中身は?」
と姫が尋ねるが、俺はロケットの蓋を開けた。
それは写真ではなくて絵のようだった。
「女の子?」
異世界の勇者の思い出っていうから、異世界人なのだろうが、見た目は人間と変わらない。
金色の髪の、俺たちと同い年くらいの女性だった。
「この子、どこか妃に似てるわね」
姫が自分の姉のことを思い出して言う。
確かにそう見えなくもない。
だが、俺は違う感想だった。
妃よりもむしろ姫に似ている――そう思ったのだ。
もしかして、異世界の勇者って――
第四章はこれで終わりです。
第五章のプロットは全くできていない&構想もないため、次回から短編で場を繋ぎます。ご了承ください。
四章のプロットより時間かかりそう。




