淡路島の海水浴
「うーみだーっ!」
淡路島二日目。
海水浴場に遊びに来たので、とりあえず叫んでみた。
ただし、多賀の浜ではなく、どこかのビーチを貸し切ったらしいので客は俺たちだけだ。というのも、多賀の浜海水浴場はペット同伴は可能だけど、ペットの遊泳が禁止だった。
クロが泳ぎたいって言うから、どうしたものかと思っていたら、明石さんが直ぐに手配してくれた。
そのクロは早速泳ぎに行っている。
あまり沖まで行くと危ないとは思うが、クロはあれで魔物だし、地上だと俺たちより遥かに体力があるから大丈夫だろう。
シロは大人しく俺の膝の上で待っていような。
女性陣はまだ着替え中でまだ来ていないが、トゥーナは昨日に引き続き、リモートでの参加だ。
子どもの頃に使っていたビニールプールを物置から引っ張り出して、その中に入っている。
「トゥーナ、その水着どうしたんだ?」
『……ん、ミコトが出してくれた』
「そ、そうか」
葉っぱが張り付いているだけに見える。
後ろがどうなっているか気になるが、絶対振り向かせてはいけない。
母さんも近くにいるはずだし大丈夫なはずだが――
「トゥーナ、そのまま背中からプールの中にダイブ」
俺がそう言うと、トゥーナは言われるがまま背中からビニールプールに飛び込んだ。
『…………』
「…………」
『…………』
「…………」
『………………ぷはぁぁぁぁぁあっ! はぁ、はぁ、殺す気かっ!』
背中に張り付いていたミコトが緊急脱出した。
濡れ鼠ならぬ濡れ狐状態のミコトがこちらを睨みつける。
聖獣でも酸素がなかったらやっぱり死ぬのか。
「ミコト、トゥーナには普通の水着に着替えさせてくれ」
『普通とはなんじゃ、普通とは! この水着は我らが人間の祖であるアダムとイブが初めて纏った衣装を元に作った水着じゃぞ?』
「お前は人間じゃないだろう。それと、纏えていないから文句を言ってるんだ」
それは纏っているじゃなくて張り付いているって言うんだ。
『やれやれ、仕方ないのぉ。じゃあここはスクール水着でいいかの?』
意地悪っぽい笑みを浮かべてミコトが言う。
それを聞いて俺がまたツッコミを入れると思っているんだろうが――
「それは白浜でアヤメがやったからネタ被りだぞ」
とため息を吐いて言った。
『お主、同級生になんという恰好をさせておるのじゃ!?』
ミコトが引いている。
水着を用意したのは姫だし、それを選んだのはアヤメだ。
俺が着せたわけじゃないよ。
「ほれ、これでいいじゃろ? 緑のワンピースの水着じゃ」
一瞬でトゥーナの葉っぱがちゃんとした水着に変わった。
たぶん、ダンポンがゲー〇ボーイとかを生み出す時に使う物質創造能力みたいな力なのだろう。
うん、ミコトにしてはいいセンスなんじゃないか? 緑ってのもなんかエルフっぽいし。
『なんだ、泰良も案外純情じゃのう。こういう水着がいいのか? じゃったら妾も――』
とミコトが白のワンピース水着に変わる。
後ろを向くと、尾てい骨のあたりから狐の尻尾が見えていた。
尻尾が出る穴が開いているのだろうか?
ミコトのことだから、水着の上から尻尾が生えていても驚かない。
「ミコト様!? いらっしゃったのですか!」
とアヤメがスクリーンの向こうにいるミコトを見て頭を下げた。
アヤメにとってミコトは自分の呪いを封印してくれた恩人――恩神だからな。
『うむ、アヤメよ。壮健であったか?』
「はい。おかげ様で」
『そうか。それはよかった。妾はいつでも見守っておるからのぉ、ではさらばじゃ』
ミコトは手を振って、消えた――っていうかトゥーナの背中に戻った。
前回はスクール水着だったアヤメだが、今日はフィットネス水着だな。
「よく似合ってるよ。うん、アヤメはスタイルがいいからな。そういう水着とかあとは競泳用水着とかも似合いそうだ」
俺が思ったことを言うと、アヤメが照れて「ありがとうございます」と言う。
「随分と手馴れてるね、壱野くん」
いつの間にか水野さんが水色のセパレートタイプの水着を着て横に立っていた。
彼女の胸の大きさはアヤメ以上ミルク未満ってところか……スタイルはかなりいい方なんだが――近い近い。
そして、眉間にしわをよせてめっちゃ睨んでくる。
「あの、水野さん。アヤメを褒め慣れているのは一緒にダンジョンに潜っていた時間が長いからってだけで――えっと、怒られるようなことはなにも――」
「え? 私怒ってないよ?」
「でも、顔を近づけて睨んで――」
「眼鏡をしていないから全然見えていないだけなの」
と水野さんが言う。
そんなに視力が悪いのか。
「ダメ……やっぱり眼鏡はかけさせてもらおうかな」
と水野さんが自分の鞄から(いつも使っているものは更衣室に預けているので)予備の眼鏡を取り出して装着。
いつもの水野さんの表情に戻った。
本当に近眼だっただけなのか。
とミルクが来た。
「泰良、あんまり水野さんの水着姿に見惚れてたらダメだよ」
ミルクの姿はビキニ姿だった。水着が牛柄なのは狙っているのだろうか?
白浜でビキニを着ていたのは姫だったが、今日はミルクなんだな。
姫が着るよりははるかに似合っているが、ここがプライベートビーチでよかったと思う。
「似合ってるけど、その水着は他の男には見せられないな」
「当たり前よ。泰良以外の男の人には絶対に見せないわ」
でも、ミルクがビキニってことは、姫は何を着て来るんだ?
まさか、さらに過激路線で紐水着なんてことはないよな?
さすがにそれは俺も――
「お待たせ」
姫がそう言ってやって来た。
一体その水着は――
水玉柄の子ども水着だった。
「……お前、そういうの着ないんじゃなかったのか?」
「本当はもっと大人っぽいのがいいんだけど、泰良は私にこういうの着てほしいんでしょ?」
「そんなこと一度も言ってないだろ」
「言われなくてもわかるわよ。だって、私たち――だもの」
夫婦だもの――って姫は言っているようだ。
そう言われてみればミルクの水着もアヤメの水着も俺好みな気がする。
「不満かしら?」
「……いや、カワイイよ」
俺はそう言って姫の頭に手を置いて頭を撫でた。
姫が恥ずかしそうにする。
「壱野くん、私たちも見てるんだけど」
水野さんが言う。
っと、いけないいけない。
俺たち四人だけじゃない、今日は水野さん以外にも明石さんも見ているんだし、ちょっとは自重しないと。
ってあれ?
「明石さんはまだ着替えてるのか?」
「明石ならそこに――」
と姫が海の方を見ると、ウェットスーツ姿で銛を持っていました。
「明石さん?」
「ご安心ください。漁をする許可は取っていますので密漁ではありません」
いや、そこは心配していませんよ。
明石さんはそう言い残し、ゴーグルをして海へと潜っていった。
そして――
「わう!」
クロが自分の顔よりも大きな鯛を咥えて戻ってきた。
……俺たちはとりあえず、無難にビーチバレーでもやってみるか。




