同居する聖獣
「うむ、うまい! このいなり寿司は絶品じゃのう!」
「……絶品。さすが泰良様のお母様。泰良様のクエスト達成を確認した」
「あら、嬉しいわ。おかわりまだまだあるから遠慮なく食べてね」
「いやぁ、にぎやかでいいな。家族が増えたみたいじゃないか」
ミコトがパクパクと、トゥーナが味わうようにいなり寿司を食べて、母さんが喜んで追加のいなり寿司を持ってきて、父さんがビールの入ったグラスを片手に笑顔でそれを見ている。
今更ながら、うちの両親の懐の深さは凄いと思う。
エルフっ子とキツネ娘が突然異文化交流を求めてきたらもっと戸惑うものだろう。それとも、実は俺の方がおかしくて、この二人が普通なのだろうか?
あと、母さんが用意した料理なのに、なぜか俺のクエストが達成された。
いいのか、それで。
「……形と色が違う?」
トゥーナは、母さんが追加で持ってきたいなり寿司をフォークで突きさして言う。
「うむ、エルフ娘よ、いいところに気付いたのぉ。これまで妾たちが食べておったこの薄い色で三角形のいなり寿司は関西風の、そして濃い色で四角いのは関東風のいなり寿司じゃ」
そう言ってミコトは関東風のいなり寿司を食べる。
「関東は濃口醤油で味付けをし中身の具材は少ない。関西では淡口醤油を使い、様々な具が入っておる」
「ミコトちゃんは詳しいわね。うちはいつもは関西風なんだけど、せっかくなんだし日本の文化を知ってもらおうって両方作ってみたの」
母さんってときどきこういう謎のこだわりを見せるよな。
「……どっちも美味しい」
「じゃな。どちらも美味じゃ。じゃが、妾としてはやはり関西風の方がいい。ほれ、妾の耳に似ておるじゃろ?」
とミコトはいなり寿司を頭上に掲げる。
三角形のミコトの耳とそっくりな形だった。
「ていうか、いい加減に話してくれないか? なんでミコトがいるんだよ。お前、京都ダンジョンから出られないんじゃなかったのか?」
「うむ。単刀直入に言うと、妾は分体じゃ。本体のミコトは京都ダンジョンに残っている。ほれ、お主はさっきまでてんしばダンジョンにいたじゃろ? そして、てんしばダンジョンの近くには磐船稲荷大明神が建立されておるから、接触は容易じゃった」
「てんしばダンジョンからついてきたのか?」
「うむ。本来、分体であろうとも妾はダンジョンの外に出ることはできん。テイムに成功した魔物がダンジョンの外に出られないのと同じようにの。じゃが、活路を見出すことができた。あのアヤメとかいう娘が腰巾着スキルを使って結界をすり抜けたじゃろ? それと同じことをしたわけじゃ。おかげでダンジョンから外に出ることができた」
アヤメが腰巾着を使って本来は入れないはずのPDの中に入ってきたように、ミコトは腰巾着を使い、本来は出られないはずのダンジョンから脱出に成功したということか。
「仮にも神様が人間の腰巾着になっていいのかよ」
「おや、お主は知らないのか? 狐は腰巾着が得意なのじゃよ? 虎の威を借る狐という諺もあるじゃろうに」
悪い意味で使われている諺だと思うのだが、それでいいのか?
というか、どうやってダンジョンからここまで来たのかはどうでもいいんだよ。
なんでミコトがここに来たのかが問題なんだ。
「うむ。まずは礼じゃ。妾が頼んだダンジョンの破壊の依頼、よくぞ達成してくれた。感謝する」
ミコトはそう言っていなり寿司をパクリと食べる。
そしてしっかり咀嚼して呑み込んだあと、お茶を一口啜った。
「そして、そこのトゥーナというエルフ娘の調査に参った。妾はこの世界を守る聖獣じゃからな」
ミコトがドヤ顔で言うと、話を半分くらいしか聞いていなかった母さんがある提案をする。
「ミコトちゃん、トゥーナちゃん、最後にきつねうどん食べるかしら?」
「なんと! 是非頂くとしよう! 妾、この家の娘になってもいいかのう?」
「……トゥーナはお腹いっぱい。ご馳走様です」
母さん、少し空気を読んでくれ。
そして俺には聞かないのかよ。
「俺も――」
「はいはい、泰良の分も用意してるわよ。貴方は――必要ないわね」
父さんはよっぽど楽しかったのか、お気に入りの焼酎を開けていて、椅子の上で舟を漕いでいた。
こんなところで寝たら持病の腰痛が悪化しかねないので、ソファに運ぼうとすると――
「うむ、妾が運ぼう」
とミコトがダンポン並みの念動力を使って父さんを持ち上げてソファの上に寝かせてくれた。
便利だな、念動力。
「それで、調査って何をするんだ?」
「もう終わったわい。この世界に仇成す存在ではない。この妾が保証する。とはいえ、監視は必要じゃからな。暫くはエルフ娘の背に寄生して生活をさせてもらう」
腰巾着による監視か。
確かに監視をするにはもってこいの力だが、それは同時にトゥーナのプライバシーが無くなるということになる。
風呂やトイレも一緒なのは落ち着かないだろう。
「いや、風呂に入る時は別じゃぞ? 背中に張り付いたまま風呂に入られたら妾は窒息死してしまうわい」
……そういう弱点があったのか。
ともかく、トゥーナのプライバシーが無くなるという点は変わらない。
トゥーナにそれでいいのかと聞いたら、むしろ彼女はそれを歓迎しているようだった。
聖獣様に守ってもらえるのならこれほどまでに心強いことはないと。
「泰良よ、もしもこのエルフ娘とふしだらなことをするのなら先に言うのじゃぞ? 妾とて空気は読める女じゃからな、その時は席を外させてもらう」
「しねぇよ!」
俺には既に三人も妻がいるんだ。
「なんなら妾も相手してやってもよいがのぉ。若い男の精を搾り取るのも悪くなかろうて」
「勘弁してくれ」
「そう邪険にされると余計に燃えて来るものがあるのぉ……わひぃっ!」
とミコトが手をわなわなさせて近付いてくると、トゥーナが彼女の背後から脳天にチョップを食らわせる。
「……泰良様への不埒な行いは、聖獣様であっても許さない」
「冗談じゃ。そう怒るな」
自分の頭を摩りながら自分の席に戻り、母さんが持ってきたきつねうどんを食べると、宣言通りトゥーナの背に張り付くように消えていった。
『泰良よ、不穏な空気が漂っておる。強くなるのじゃ』
最後に不吉な言葉を言い残して。
※ ※ ※
尚、翌日の朝ご飯の席にもミコトは姿を現し、
「母君よ、みそ汁のおかわりを所望する! 温めで頼む!」
と一緒に朝食を食べていた。




