服従するエルフ
「何してるのよ、トゥーナ!」
姫が驚いて叫ぶ。
エルフの少女から突然、お腹に顔を埋められた俺も当然驚いた。
一体何をしているんだ、これは。
「……これは服従の証」
「服従の証?」
姫が怪訝そうに尋ねる。
「……そう。口と口、対等の証。貴方と共に歩くという親愛の証。足の先に口づけ、隷属の証。相手の所有物となる屈辱の証。お腹に口づけ、服従の証。あなたに付き従うという意志の証」
「それはトゥーナさんたちエルフの風習ですか?」
ミルクが尋ねる。
唇同士のキスが親愛の証っていうのは理解できるんだが、他は理解できない。
異世界ならではの風習なのだろうか?
「足の甲にキスが隷属を意味するのは私たちの世界でもそうですね」
アヤメが言った。
どうやら俺が無知なだけだったようだ。
ちなみに、アヤメから聞いた話だが、この世界におけるお腹へのキスは、「あなたに甘えたい」って意味なんだそうだ。
よくそんなことを知っているな――って思ったら、「いつか壱野さんのお腹にキスしたかったので――」とのことらしい。
甘えたいのならいつでも甘えてくれていいのに。
ただ、俺も甘えたいときはアヤメのお腹にキスをさせてもらおうとひそかに思った。
「トゥーナ、私に服従するって言ったときはそんなことしなかったじゃない。どうして泰良にだけお腹にキスするのよ」
姫が尋ねる。
ていうか、姫も服従されていたのか。
「……ん。姫様に服従するのは、姫様と泰良様が同じパーティだから。真に服従するのは泰良様。ルシャトゥーナはトゥーナとして泰良様に服従し、泰良様のために働く」
彼女はそう続けた。
「……服従の証として、名の一部をあなたに捧げる。これもエルフの証。だからいまからルシャトゥーナはトゥーナと名乗る。だから泰良様たちはトゥーナと呼んでいい。それとも隷属の方がいい? 泰良様が望むならそれでもかまわない。隷属は名の全てを捧げる。泰良様の好きに呼んでいただいて――」
「いやいや、そんなのしなくていいです」
自分より遥か年下に見える少女に対して足へのキスを要求する趣味は俺にはない。
奴隷とかそんなのが許されるのは異世界に転生した勇者だけだ。
現代の日本において許されることではないし、正直、服従ですら荷が重いと思う。
上松大臣が敬っていたエルフの女王様が俺に服従……ってどんな力関係だよ。
あと、無口キャラだと思っていたが、声が小さいだけでよくしゃべるな。
「あの、封印を解いたのは偶然で、そこまで感謝されることではないんです」
「……違う。泰良様、あなたに封印を解かれるのは運命」
彼女は立ち上がると虚空に手を伸ばす。
「何をしているんですか?」
アヤメが尋ねる。
「……アイテムボックス……トゥーナのスキル……あった」
彼女が出したのは水晶玉だった。
つい最近、どこかで見た気がする。
「これは導きの水晶玉。我々エルフの秘宝であり、これを持つのが王の証。この水晶玉には時折、必要なものが映し出される」
やっぱり導きの水晶玉だった。
ていうか、エルフの王の証、俺持っちゃってるんだけど。
「……トゥーナたちエルフはこの水晶玉ともう一つ、預言の書と呼ばれる千年先の未来を見通す書物の二つによって繁栄した。そして、預言の書はある時、未来を書き示した。終末の獣が現れ、世界を滅ぼすと。トゥーナたちエルフはそれに抵抗する道を選んだ。終末の獣を倒すために、預言を覆すためにダンポンとダンプルの協力を得て、レベルを上げて強くなった」
「ダンプルの?」
「……ん。ダンプルはかつてはエルフの敵だった。大勢のエルフがダンプルのせいで死んだ。でも、ダンプルにとって戦いは遊び。終末の獣と戦う意志を示したエルフに対し、協力を惜しむことはなかった。感謝している」
これは少し意外な話だった。
てっきり、あいつは世界を滅ぼす側の存在だと思っていた。
なんなら、エルフの世界を滅ぼしたのはダンプルという可能性も考えていた。
「そして――」
その結末は想像ができる。
世界は滅びたのか。
「トゥーナたちエルフは獣に勝利し、預言を覆した」
「勝ったのですか!?」
アヤメが驚いた。
うん、俺も驚いた。
そこで滅ぶとばかり思っていたからだ。
「……ん。終末の獣は強かった。エルフの戦士の半数が犠牲となり、星に還っていった。母もその時に死に、トゥーナが女王になった」
「それで、どうなったんですか?」
「……どうにもならなかった。終末の獣は一体ではなかった。終末の獣が死んだ直後、預言の書は次の終末の獣の出現を書き示した。そして、その預言は決して覆らないとも書かれていた。この場合預言は絶対。世界は滅ぶことが確定した」
トゥーナは辛そうに首を横に振る。
「……だけど、終末の獣が再度現れる数日前、預言の書が新たな文字を刻んだ。遥か未来、トゥーナが救世主に出会うと。それと同時に導きの水晶玉がある人物を映し出した。黒い髪に黒い瞳のエルフではない者。それが泰良様――あなただった」
導きの水晶玉に俺の姿が?
確かに、導きの水晶玉の説明には使用者に必要なものが映し出されると書いてあった。
「物」ではなく「もの」。
者もありってことか。
そして、トゥーナはその未来に賭けたらしい。
あとはダンポンから聞いた通りだった。
ダンジョンの中に仲間のスキルでシェルターを作り、世界が滅んだ時にその力の奔流に乗って彷徨い、俺の持っている妖精の輪のスキルにより目を覚ました。
彼女が俺のことを救世主と呼んだのは、俺たち四人を指すチーム救世主のことではなかったのか。
「俺はこの世界ではただの探索者です。力もありませんし、ましてや滅んだ世界を元に戻すことなんてできませんし、エルフが総出で戦って勝てなかった終末の獣とやらを倒す力もありません」
「……ん、理解してる。だけど、トゥーナには力がある。泰良様を強くするためのスキルが」
彼女はそう言うと、手を前にかざした。
「発行!」
彼女がそう言うと、俺たち四人の前にそれぞれ三枚の紙が現れた。
わら半紙のような、薄茶色の紙を手に取る。
日本語で書かれていた。
ただし、何故かミルクたち三人の紙には何も書かれていない。
それでも彼女たちはまるで何かを読むかのように紙を見詰めている。
もしかして、この紙は持ち主にしか読むことができない紙なのだろうか?
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ウサギの涙:ウサギ系の魔物を150匹倒す
ランク:G
報酬:1ポイント
報酬:経験値500ポイント
発行者:トゥーナ
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エルフの賄い飯:頑張って働くトゥーナに満足する食事を用意する
ランク:G
報酬:1ポイント
報酬:技能『料理』
発行者:トゥーナ
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せめて命だけは:リザードマンの尻尾30本納品する
ランク:G
報酬:1ポイント
報酬:経験値800ポイント
発行者:トゥーナ
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これってもしかして――
「……トゥーナの持つスキルはクエスト発行。泰良様たちはこの依頼を受けることでさらに強くなれる」
やっぱりクエストか。
普段からD缶の開封というクエストに挑んでいる俺にとっては、なんか今更って感じがする。
報酬としてもらえる経験値は大したことはないが、技能っていうのが少し気になるな。
スキルとは違うのだろうか?




