箱の中身はなんだろな?
マザーブロンズゴブリンがいた場所には、巨大な魔銅と、なんか欠けた丸い銅が五つほど落ちていた。
この丸い銅は、マザーブロンズゴブリンの卵の殻らしい。
これで水野さんに捕獲玉を作ってもらえる。
これでテイムできる魔物は亜人種なのかそれとも機械種なのか?
「泰良! 凄い爆発の音がしたと思ったら、ブロンズゴブリンたちが逃げて行ったけど大丈夫だった?」
「壱野さん! 無事でよか……いつまで姫さんをおんぶしているんですか!?」
あ、そういえば姫を背負ったままだった。
影獣化を解除し、姫を降ろす。
「姫ちゃん……あの……」
「ありがとう。ミルクの炸裂弾のお陰で最低限の被害で敵を倒せたわ」
「うん……でも、やっぱりああいう使い方はやめてほしいかな。私としても、真衣ちゃんとしても……」
「ええ、できるだけ控えるようにするわ。私もちょっと痛いし」
と姫は言ったけれど、こいつは必要ならばまたやる目をしている。
くそっ、もっと強くならないとな。
そして全員で落ちているDコインを回収する。
インベントリに入りきらないほどの魔銅についてはどうしよう?
1階層と何回も往復して売るか?
とりあえず持てるだけ拾いながら、コメントを見る。
ほとんどは俺の最後の魔法についての問い合わせだった。
ここぞというときの必殺魔法ってことにしておく。
「このブロンズゴブリンが湧き出る機械って壊すことはできないか?」
魔力回復薬を飲みながら言う。
マザーブロンズゴブリンがどのくらいの時間を空けてリポップするかわからないが、ブロンズゴブリン軍団との戦いは正直コリゴリだ。
「んー、ダンジョンの備品を壊せるなんて聞いたことないけど……とっても硬そうね」
姫が回復薬を飲みながら、風魔のクナイで機械を叩く。
カンカンという音がした。
鑑定しても何も表示されないから、ダンジョンのアイテムとは認識されていないのだろう。
それにしても、これってどうやって動いてたんだ? 動力は電気か? それとも魔力か?
もしかしたらダンポンやダンプルたちが戦ってきた世界のどこかには、こんな風な機械の世界もあったのかもしれない。
姫の予想通り、22階層の階段はマザーブロンズゴブリンのいた部屋のさらにその奥にあった。
やれやれ、21階層でこれだと、この先が思いやられる。
そう思って階段を降りる。
22階層もやはり工場だった。
「どうする? 今日はもう引き返す?」
ミルクが尋ねた。
「21階層に戻ってマザーブロンズゴブリンが復活していたら大変ですしね」
「そうだな。その時はまた無茶しないといけなくなる」
魔力が完全に回復するまで何時間かかるだろうか?
以前は2時間程だったが、魔力回復薬を飲んで魔力回復速度が上がっているいまなら半分くらいの時間で回復できるかな?
帰ろう。
そう思った時だった。
俺は気配を感じた。
「待て、気配がする」
「魔物の気配? 一匹位倒してみる」
「いや、魔物の気配じゃない。人の気配だ」
俺の言葉に驚いたのは姫だった。
「待って、そんなはずはないわ! このダンジョンに21階層以降に潜れる探索者は入っていない」
「でも、確かに気配がするんだ」
「それは危ないわね……」
危ないってどういうことだ?
〔危ないってどういうこと?〕
〔正規の入場手続きをしていない探索者が潜んでいる場合、逃走中の犯罪者の可能性がある〕
コメントで答えが出た。
なるほど。
「じゃあどうする?」
「分身を先行させて様子を見るのが一番ね。クールタイムが過ぎるまで少し待ちましょう」
また姫の分身頼りか。
少しやるせない気分になる。
そして、姫の分身のクールタイムが終わり、分身を生み出して気配のする方に先行させる。
どうだ?
と思ったが、分身がなかなか帰ってこない。
何かあったのか? と思ったところ、かなり遅れて戻ってきた。
「どうだった?」
「それが、怪しい場所はあるんだけど、入り口が見つからなかったのよ」
「入り口?」
とりあえず、気配のした方にいってみる。
そして姫の分身が言っていた意味がわかった。
あったのは真っ白な立方体の箱だった。
人の気配はこの中からだった。
一辺が8メートルくらいの箱で、天井ギリギリのところに隙間が空いている。
周囲を回ってみても扉とかはない。
姫が天井に駆けあがってみたが、隙間から見た感じも空間などはない。
「なんなんだろこれ……スキルで中に入ってるのか?」
「シェルターを作るスキル? 聞いたことがないけど、絶対にないとは言い切れないわね」
スキルはぶっちゃけなんでもありだからな。
中の気配は全く動く様子はない。
壁を触ってみても冷たいだけなんだよな。
ひんやりして少し気持ちいい。
「た、泰良? なにしてるの?」
ミルクが俺の方を指差して震える声で言った。
ミルクだけじゃない、アヤメと姫もこっちを見ている。
「なにって、壁を触っているだけで――」
みんなだってさっき触ってたじゃん?
「手、光ってるよ」
え? 手?
見ると右手に変な光の輪っかが浮かび上がっていた。
なんだこれっ!?
手を振るが消えない。
「なんだこれっ!? 消えない」
「斬り落とす?」
「物騒なことを言うな!」
というが、最悪そうせざるを得ないかもしれない。
英雄の霊薬を使えば切った腕も元通りになるのだから。
「…………?」
あれ、いまこの光の使い方が頭をよぎった。
魔法スキルを覚えたとき、その魔法名と効果を理解したように。
俺は白い壁をじっと見る。
そして――
「ここかな?」
壁を触った。
すると、壁に穴が開いた。
人間が通れるくらいの大きな穴が。
「泰良、何をしたの?」
「開くかなって思ったら開いた」
「またいい加減な……」
これ、たぶんアレだ。
これまでずっと使い道のわからなかったスキル――妖精の輪の効果だと思う。
「ねぇ、あれって……」
ミルクが指さすのは白い箱の内部。
その中心部分が何か木の蔦というか根というかよくわからないもので覆われていた。
稼働中の工場とは似つかわしくない光景だ。
「泰良、あれって魔物じゃないよね?」
「気配は感じないな。罠って可能性はあるかもしれないが」
「だったら――」
と姫の分身が前に行く。
そして、根っこを攻撃する。
斬って、毟って、切って、引っこ抜いて。
なんかいろいろしてる。
そして、蔦の向こう側が見えてきた。
「いた! 小学生くらいの見た目の女の子が寝てる」
小学生? でもダンジョンには十八歳以上しか入れないはず――って、そうか。
姫も見た目小学生だけど実年齢は十八歳だもんな。
そういう少女がいてもおかしくはない――いや、おかしいってっ!
たとえ18歳であったとしても、ソロで22階層まで潜って来られるのか!?
俺たちがここまで来られたのはPDでの強引なレベル上げがあってこそだ。
「え?」
「今度はどうした? 実は少女と思ったら老婆だったって言ってくれたら安心するんだが――」
「老婆じゃない……と思う。たぶん。でも、老婆かもしれない」
どういうことだ?
姫の分身が蔦の中に入っていき、少女を連れて戻ってきた。
なんかファンタジー世界から飛び出してきたような姿だった。
姫と同じ金髪――いや、金色というよりは、白金色の髪の少女だった。姫の言う通り、見た目は小学生だ。
どう見ても老婆に見えない。
「どこが老婆なんだよ。どう見ても子どもじゃないか」
「それが……」
と姫はその謎の少女の髪を撫でる。
すると、隠れていた耳が露になった。
その耳は……上の部分が尖っていた。
これって……これってもしかして――
〔エルフきたぁぁぁぁぁっ!〕
〔エロフだ! 実在したのか!?〕
〔エルフっ子来たっ!〕
〔俺は感動しているエルフに会えるなんて〕
〔マジでどこのダンジョン? いまから出待ちする〕
コメントが大騒ぎだ。
やっぱり、この子ってエルフなのか?




