強敵のゴブリン軍団
21階層で俺たちは現在、銅でできたブロンズゴブリンの群れに追われていた。
あいつらは弱い。
そりゃ、普通のゴブリンに比べれば遥かに強いんだが、しかし15階層程度の魔物だ。
問題はその数の多さ。
なんかもう200匹くらい倒した気がする。
量産型だからか、落ちているDコインの額も大したものではない。
経験値もそれほど入っていないだろう。
「チャージ完了! 行きます!」
アヤメが言った。
そして、
「解放:雷竜巻」
雷を纏った竜巻がブロンズゴブリンたちの中を吹き抜ける。
「やったかっ!?」
チャージという魔法の威力を高めるスキルに加え、魔法融合による風と雷の融合魔法だ。
ここの魔物は雷が弱点らしいからな。
効果は抜群だろう。
竜巻が吹き抜けた場所にはDコインや魔銅などのドロップアイテム以外何も残っていない。
これで――
魔物の気配が。
「奥からまた来たよっ!」
「泰良がお約束のフラグを立てるから!」
「俺のせいじゃないだろ!」
俺たちは逃げた。
「うぅ、ごめんね。ブロンズゴーレム相手だったら聖水の効果もあるんだけど、あれってゴーレムっていうよりロボットみたいなものだからほとんど効果がないの」
「いや、俺だって今回はきつい。薙ぎ払いでも先頭の数匹倒せるだけだしな」
俺一人だったら、無理やり突破することもできるんだが、ここの通路って幅が広いから一人で突っ込んでいってもミルクとアヤメはついてこられない。横からブロンズゴブリンが退路を塞いでしまうことだろう。
なるほど、これが21階層か。
少し舐めていた。
強いだけでは解決できないって理由もわかる。
「私がブロンズゴブリンを倒せるだけの火力があったらいいんだけど」
短剣は対個に特化した武器だ。
今の姫ならブロンズゴブリン一体に苦戦することはない。
五人に分身すれば五体同時にだって戦える。
だが21階層は敵が増える速度の方が早い。
「どうする? 逃げるか?」
「んー、でも22階層の階段はこの先にあるみたいなのよね……」
姫がマッピングした地図を見ながら言う。
21階層より先の地図がないから、いまは自分たちで地図を作っている。
てんしばダンジョンは押野グループが独占していて、押野グループが経営しているが、押野グループが管理しているというわけではない。管理しているのはあくまでダンポンだ。
20階層までは人を雇って地図を作らせたそうだが、21階層にはそれがない。
21階層より先は次元が違う。
地図作りといった雑用に雇われるような探索者は、そもそも深い層に潜ることができない。
だから、地図はない。
俺たちのように換金額国内1000位以内に入ったランカーであれば、ほぼ20階のボスに辿り着いている。
だが、20階層のボスを倒しても、そのうち何割かは21階層の異様さに攻略を諦め、20階層までの魔物狩りで生活をするようになる。
21階層以降で戦う探索者パーティは200組にも満たない。
その中で、自分たちで作った地図を皆に提供したり、配信したりするパーティは50組にも満たないだろう。
そして、そういう探索者の多くは自分の縄張りを持つ者が多い。
以前にも言ったように21階層より下は特殊な環境、特別な魔物が多く、特定のアイテムを必要とする。
何度も場所を変えてその攻略法を模索するより、特定の場所で攻略する方が効率がいいのだ。
てんしばダンジョンの21階層が工場のようなダンジョンだというのも入って初めて知ったくらいだ。
ある程度逃げるとブロンズゴブリンも追ってこなくなった。
さてここからどうするか?
リスナーたちからもコメントでいろいろと案は出ているが、現実的な方法はない。
「しかし、30階層相当の天狗を倒せて余裕だって思ってたのに、なんで21階層で苦労してるんだ、俺たち」
「言ったでしょ。21階層以降は対策が必要なのよ。ステータスが高いだけじゃ乗り越えられない。たとえば、見た感じブロンズゴブリンは一定数以上増えない感じがするから、殺すのではなく無力化――停止させたり凍らせたり、そういう方法で動きを封じれば楽に通過できるのよ」
対策か。
これまで通り力押しだけでは通じない敵ってわけだな。
〔サポーター:ブロンズゴブリンが湧く場所の奥に、マザーブロンズゴブリンがいます。それを倒せばブロンズゴブリンの大量発生が一時的に止まります〕
明石さんからコメントが来た。
てんしばダンジョンの21階層の情報はない。
だが、似たような工場ダンジョンは存在する。例えば、以前メタルスライムのときにリスナーが話していたデトロイトダンジョンみたいに。日本国内にもある。
そこから情報を持ってきたのだろう。
「ありがとう、助かるわ」
姫が地上にいる明石さんに礼を言った。
こういう情報の提供も明石さんの仕事なんだな。
「でも、どうするの? そもそも奥に行けないから困ってるんだよね?」
「私の魔法でもう一度吹き飛ばしますか? 魔力回復薬も飲んだので、20分ほど待てば魔力も回復します」
吹き飛ばしたところで、また魔物が湧く。
経験値やDコインの額がもっと高ければ、ここで延々とレベル上げをするのもいいのだが、いまのところ魔銅集め以外では効率がいいとは言えない。
「アヤメが魔法で蹴散らした後、俺と姫が二人で突っ切ってマザーブロンズゴブリンを倒す――ってのはどうだ?」
「それが一番ね。泰良、今回は分身への肩代わりはしないでちょうだい」
「お前、でも――」
「さすがに私の分身全員無傷で突破ってわけにはいかないしね。最悪、分身は全滅してもいいって思ってる。その方が突破できると思う」
姫は言っていた。
分身を犠牲にして、盾にして戦うのはやめてほしいと。
分身だって分身の意志がある。ダンポンやダンプルがそうだったように。
それでも、姫はその方が効率がいいと思った。
俺にダメージが行き過ぎて、その脚が鈍るのを恐れて。
その覚悟に俺は頷く。
布都斯魂剣を抜く。
鞘はインベントリに入れた。
おそらく剣を納める時間はない。
アヤメが補助魔法を使ってくれた。
「頑張ってください、壱野さん、押野さん」
「泰良、ちゃんと姫を守るのよ」
「わかってるよ」
ミルクに言われるまでもなく、本体の姫だけは必ず守る。
まさか、ロボットとはいえ、ゴブリン相手にここまで気合いを入れる羽目になるとはな。
リュックサック等の荷物は二人に預けた。
少しでも身軽にするために。
俺と姫、そしてその分身たちが並ぶ。
真ん中に俺。
姫の本体は俺の後方。
サイドは姫の分身たちが固める。
「行くぞ」
「ちょっと待った!」
姫の分身の一人が待ったをかけた。
そして、ミルクの方に行き、何やら耳打ちをする。
「えぇぇっ!? でも、姫、それって」
「ミルク、お願い」
「……うん、わかった」
分身の一人がミルクから何かを受け取った。
「姫、あれは何をしてるんだ?」
本体の姫に尋ねる。
「そうね、分身は生まれたときから独自の考えを持っているんだけど、私がもしも分身だったらって考えると――きっととても素敵なことを考えているわね」
彼女はそう言って、何故か苦虫を噛み潰したような顔をした。
自分自身に腹を立ててるのか? 一体何をしてるんだ?
~お知らせ~
26日から29日まで取材旅行に行くため執筆ができません
そのため、今日から29日まで【1日1話更新】になります。
ご了承ください




