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脳を熱暴走によって茹だらせながら、トリガーハッピーと化してから暫しの後。
俺の周囲には、最早無事に立っているモノは存在していなかった。
魔物型は、皆どこかしらに大穴を開けていた。
襲い掛かって来た個体は真正面から心臓を、そうではなく逃げ出そうとした個体は背中から銃弾を浴びせかけ、物理的にも機能的にも完全に死に体へと変貌させていた。
人型に関しては、コレは両極端な結果、と言えるだろうか?
片や感染度の低い者に関しては、こちらはラストの方に任せておいたので、大概は一条、そうでなかったとしても、多くても三条程度の切り傷が付く程度。
まぁ、後程の治療は必須と言えるかも知れないが。
しかし、感染度が高くなった個体。
特に、生き残りを賭けて、統率個体と同様に共喰いを行った輩や、既に強化個体へと至ってしまっていたモノに関しては、残念ながらこっちで『処理』してしまっている。
何故なら、奴らを人に戻す術は無いから、だ。
まだ感染してから日が浅く、定着度が低ければ銀を使えば寄生している本体を引き剥がせるので助けられる可能性は在る。
が、感染してから時間が経ち、より深く肉体へと定着してしまっている個体に関しては、不可能だ。
特に、他の人間を襲って感染者を増やすに至ってしまっている個体や、さらなる力を求めて共喰いを行った様な個体は、最早身体ごと殺すしか無い。
と言うよりも、既に銀コーティングした刃や、ミスリル銀製の刃と言ったモノで斬りつけても、反応こそすれども致命に至る事は無く、結果的に動き続けるからなのだが。
事そこに至ってしまっては、流石にどうにも出来はしない。
心臓ごと破壊したり、頭を丸ごと吹き飛ばしたりすればいい加減死に至る様だが、そうでもしないと活動を停止させられないし、それも結果論に過ぎない。
まぁ、四肢を拘束して身体を開き、各所に銀を打ち込みながら紫外線を内臓へと直接照射する、みたいな事をすれば流石にある程度の改善は見込めるだろうが、そんな事をすれば被験者は物理的にショック死するだろうから、あんまりやる意味は無さそうだしね。
因みに、俺が賢者の石を提供したり、命の水を使ってやれば、とかのお上品な意見は御免被る。
友人知人相手なら兎も角、見ず知らずの相手にそこまで協力してやらなくてはならない義理も理由も無いし、何ならそこまでしなくてはならない立場でも役職でも無いのだから、寧ろ聞きたい。
何故、そこまでしなくてはならないのか?と。
縁も恩も義理も無い、本当に赤の他人に対してそこまでしなくてはならない理由が何か在るのか?
自身の秘密が白日の元に暴露されるリスクを冒してまで、助けなければならない命なのか?
まぁ、当の本人からすれば、良いから助けろ!とでも言いたくなるのだろうが、先に述べたのが俺の正直な感想だ。
寧ろ、そうやってむざむざ死にかけるヤツの方こそが悪い、まで在る。
…………なんて、半ばサイコパスじみた事を考える余裕が在るのも、やはり先に述べた通りに、俺の周囲にはもう立っているモノが存在しないから、だ。
つまり、例の統率個体も同様に、と言う訳だ。
散々、脚を吹き飛ばしたり、胴体に風穴を開けてやったり、としてやったお陰か、今は大人しくなっている。
とは言え、それも生存と勝利を諦めた、と言う訳では無いのだろう。
ヤツは脚の修復や触手による攻撃、を途中から控え、いや完全に放棄し、胴体の装甲を固める事を集中し始めたのだ。
その強度はかつての繭の時のソレに匹敵するか、もしくは上回っており、現に俺が銃弾を放って見せても、金属質な甲高い音と共に明後日の方向へと弾丸が弾かれてしまい、装甲には軽く跡と傷が残る程度、となってしまっていた。
流石に、同じ箇所に打ち込み続ければ、破壊出来なくは無い、とは思う。
が、流石にソレをするには用意していた分では弾が足りないし、少しずつではあるが装甲自体も再生し、かつ強度まで増している様にも思える。
そう言う意味では、コイツは賭けに勝った、と言う事なのだろう。
自らの固めた装甲が、俺の攻撃を防げるか、何時まで防げるか、と言う賭けに、コイツは勝ったと言える状態へと持ち込んだのだ。
後は、俺が諦めて帰るまでこのまま装甲を固めておけば良い。
そうしたら、状態を解除するなり、他に控えさせているのであろう動物型の連中に、食料となる人間やら魔物やらを集めさせて、再度力を付けてから復讐する事も可能となる、と言った所だろうか。
─────なんともまぁ、随分と都合の良い方に考えたモノだこと。
大方、自分で考え、そして賭けに勝ったのだ!と内心で愉悦に浸っている事だろう。
何せ、片方は潰してやってから、まだ再生していない瞳を、またしても半月に歪めているのだから、ソレが何よりの証拠だ、と言える。
が、それこそが俺の狙い通り。
コイツが、最早自分の意志ですらこの場から動けず、急速離脱される事の無い盤面、と言うモノを求めていた結果、と言う奴だ。
先程までのヤツと同様に、俺も口元を半月に歪めて見せる。
ソレを目の当たりにしたからか、ヤツが怯えた様な雰囲気を放ち始めるが、そんなモノ知った事では無い!とばかりに手を掲げ、遠方にまで動いているラストへと合図を送る。
─────シュンッ!!!
どうやって確認したのかは、正直俺も分かっていない。
が、何かしらの方法により、俺の合図を確認していたらしいラストは、姿を視認する事が出来無い程の遠距離から、俺の周囲に、ヤツごと囲う形で結界を展開して見せた。
オーダーの通りの仕事に、俺は満足の頷きを零す。
逆に、ヤツは唐突に展開された結界を、魔力を感知する能力によって察知したものの、俺ごと囲い込む形で張られていた為に、大方戸惑いを覚えている、と言った雰囲気を醸し出していた。
まぁ、それもそうだろう。
何せ、どうあっても火力が足りずに倒せないハズの相手と、同じ結界の中に閉じ込められている、と言う形になる。
ヤツとしては、俺が衰弱するのを待てば良い話であり、打開策の無い俺がこの状況に在ると言うことは、即ち仲間であるはずの存在から『死んでこい』と言われている様なモノだと言えるのだから。
ソレを理解出来るだけの知能が在る為に、混乱しているのだろう。
何故わざわざ、自分達に対抗出来る唯一にも近いであろう貴重な人材を、使い潰す様な真似事をするのか?と。
答えは簡単。
その人身御供が猛毒を携えた者であり、かつそうして供えられたモノを屠る手段を持ち得ているから、だ。
特に気負う事も無く、俺は空間収納へと右腕を突っ込む。
そして、何気無い雰囲気にて空間の歪みから腕を引き抜いた時には既に、ソコにはそれまで存在していなかったハズの物体、禍々しい異形が俺の右腕と共に在った。
ぱっと見た限りでは、目立つのは手首を中心に回転する腕輪と、ソレに追従する巨大な1本の杭、と言った処だろうか?
尤も、それらもよくよく見れば状態は異常。
何せ、俺の腕に直接装着されている訳でも無く、また何かしらの器具によって固定されている訳でも無く、自立して浮遊し、俺の右腕に追従する形で移動しているのだから、寧ろ不可思議と呼ぶ方が相応しいだろうか?
そんな不思議物体を手に?しながら、俺はヤツへと近付いて行く。
一度も使われた事も、目にした事も無いハズなのに、ヤツはその真円の瞳に怯えの色をハッキリと浮かべながら、自ら放棄したハズの行動に縋ろうと身を捩る。
そう、逃走、と言う、最も原始的にして、その選択肢を捨てた瞬間に無残な敗北が決定する、安全策に。
勿論、そんな手段に出られると困るのはコチラであり、当然ながら真っ先に潰させて貰っている。
ラストに頼んで、逃げられない様に、と結界まで張ったのだから、逃げ出してしまわれては元も子もないのだから。
そうして、俺はここまでして漸く使える様になる暴れん坊。
この世界では初のお披露目であり、向こうの世界でも数度しか使った事の無い対界式滅殺呪詛型1本パイル『羅刹』を振り被るのであった……。




