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「そう言えば、連中に矢鱈と執念深く狙われる羽目になってた訳なんだが、なんでだか分かるか?」
廃墟からの帰り道、その途上でラストに問い掛ける。
未だに日が高く、昼過ぎ程度であった為に、特に警戒する事も無く、揃って道を歩んで行く。
行路とは異なり、ラストは普段の通りの姿をしている。
一応、変身?して偽装した方が良いのでは?とは提案しておいたのだが、ソレをするには服を脱がなくてはならず、かと言って未だに動きを見せないとは言え、敵対する生物の間近で無防備な姿を晒すのは如何なモノか、と言う話になったのだ。
なれば、周囲を警戒する目の前で着替えれば!とダイナミック脱衣を敢行しようとしたラストだったが、またしても俺がビンタでツッコミを入れたお陰で、今は大人しく服を着て歩いている。
…………まぁ、一応コートは着ているとは言え、その下は半ば下着かな?と言う様な状態のボンテージだし、それに加えて首輪も装備したままになっているし、偶々ツッコんだ場所である尻を何時までも幸せそうに擦っているし、で不審者感丸出しではあるが、即座にもしもしポリスメン?される様な状態からは脱しているのだから、まだマシだと思って貰う他に無い。
そんな彼女が、コテリと首を傾げる。
形の良い頭と美しく整った顔、そして緩く波打ちながら腰まで長く伸ばされた豪奢な金髪が連動してシャラリと流れるが、本人は特に気にせず流れるがままにして、こちらからの呼び水に応える。
「なんで、と言うと?
さっきの説明でも話した通りに、連中は段階を踏んで獲物に求める魔力量を増やして行く。
その結果として、ご主人様と同等レベルにまで牙を届かせる事になった、と言うだけじゃないの?」
「にしては、ちょいとばかり違和感があってな。
段階を踏んで、って事なら、俺が狙われるにはまだ早いと思うんだよ」
「その心は?」
「いや、ある程度幅だとか、世界が違うから法則やら何やらも違う、とか言われればその通りなんだろうけど、まだ一般人が襲われる様な段階なんだ。
少なくとも、未だに一般人が襲われた、って話が出る程度には襲われているハズだ。
そして、俺は自分で言うのもアレだが、かなり魔力量は多い方で、それこそ上位の魔族並みに抱えている、とは自負している」
「つまり、まだご主人様が狙われる様な段階じゃないハズだ、と?」
「そう言う事。
因みに、俺よりも一段階魔力量が下がる連中とも、一応は繋がりが在るから話も入ってきているけど、そっちはまだ意図的に狙われて、って事は無いらしいぞ。
まぁ、任務中に遭遇だとか、襲われているのを助けに入って、だとかで交戦はしているみたいだけどな」
「ふーん、同じ様な属性で固まってる集団、って事?
で、魔力量も、一般人よりも多いけど、ご主人様程じゃ無い、って程度なのね」
「あぁ、魔法少女と改造人間」
「…………ま、魔法……?
かい、ぞう……?」
俺の口から零れ出たパワーワードに、ラストが機能停止する。
まるで、唐突に宇宙の真理を見せ付けられた猫の様に固まる彼女に、この話題は早かったか?と多少なりとも反省するが、どうせその内触れる事になる情報なのだから、とあまり気にしない方向で考える事にする。
「…………連中、どっちも対侵略組織だから、暴れる場所考えないと、問答無用で襲われる事になるぞ?
因みに、それぞれ1人ずつもう会ってはいるからな?」
「え、なっ、はぁ!?
ちょっ、もう会ってる、ってナニ!?
そんな理解不明な珍存在となんて、知り合った覚えは無いんだけど!?
と言うより、この世界で知り合った相手なんて、それこそ、昨日、の………………ねぇ、ご主人様?
どっちがどっち?」
「答えは性別。
と言うよりも、ちゃんと『少女』って言ってるんだから、どっちがそうなのか?なんて質問してやるなよ。
それとも、アレか?
盛り上がっているハズの一部が平坦過ぎて、性別が認識出来なかった、とか抜かすつもりか?」
「いや、そこは見れば分かるからね!?
ただ単に、聞き覚えのない単語に混乱しただけなのだけど!?
言い掛かりは辞めて貰えますか!?」
「いや、その辺は割りとどうでも良いから」
「どうでも良い、て……」
「それよりも、俺からの質問に答えてくれよ。
なんで、中間層を通り抜けて俺の方に直で来たのか、をな」
「うーん、そうねぇ…………」
それまでの驚愕を押し殺し、ラストが腕を組んで黙り込む。
胸の下で組んでおり、元々巨大な双丘の膨らみが、より強調される形で押し上げられ、時間帯も相まって増えて来た人気の内、片方の性別からの視線が急速に集まって来る。
一応、一般人にも見える様に、種族的な特徴に関しては隠してある。
特に目立つ角は変化の応用で引っ込めてある為に、今の彼女はやや露出過多で、周囲へのサービス精神旺盛な、やや痴女気質な女性、にしか見えていないだろう。
…………いや、それだとただ単にまだ服を着ているだけの露出狂にしか見えないな。
最悪、隣を歩いている俺ごと、通報されるかもしくは巡回していたお巡りさんに職務質問されかねないな、と思えば、あまりマシになっているとは言えない様な気がして来た。
そんな中、考え込んでいたラストが、組んでいた腕を外す。
無意識にでも放っていたのであろうフェロモンに気付いて、慌てずに放出を止め、頬に添えていた指も外して口を開く。
「…………取り敢えず、こっちの世界でそう言う情報が出ていた、って訳じゃないから確実に、とは言えないけど、私から挙げられる可能性は2つ、かな?
1つは、何かしらの理由で莫大な魔力を必要としていた。
連中、1つの個体が得られた魔力は、同じ群れであれば伝播させられるみたいだから、群れとして魔力が欠乏していたんじゃないかしら?
だから、本来ならば手を出せないご主人様にまで手を伸ばす羽目になった、とか?」
「その割りには、前にも言った通りに連中から魔力を感じ取った事が無いんだがな。
連中の動力源と言うのなら、少なくとも活動の際に消費される分位は感じ取れて然るべきじゃないか?」
「そこなのだけど、例の共喰いによる強化個体に血液が戻った、のと原因は同じだったハズ。
連中は、常に魔力を消費して、自分達が活動するのに必要な血液を身体に作らせている。
で、作った端から消費しているから、身体を傷付けても出血しない、って訳ね。
でも、共喰いをする事で、群れの中で魔力を割り振られる枠を複数手に入れる事になるの。
そうすると、それまでよりもより多くの血液を生産出来て、かつ燃料を多く注ぎ込める以上能力もそれまでよりも遥かに高くなる、って事なのよ」
「つまり、連中から魔力を感じ取れないのは、基本的にスッカラカンの状態で活動しているから、ってのと、魔力そのものを発するのは魔力を生産している身体の方であり、連中の本体の方はそもそも魔力を持っていないから、って処か?」
「まぁ、そんな感じかしら?
あと、強化個体が出血する様になるのは、身体の魔力量と消費量が釣り合わなくなるから、なのだけど、ソレは消費の際の燃費が上がるから、であってやっぱり魔力が余る訳じゃ無い。
でも、血液を全て消費しないと、って訳でも無いから、いざという時の備えとしてある程度は常に確保しておける様になる、みたいよ?
でも、話を聞く限りだと、随分と攻撃的に使っていたみたいだから、もしかするとこちらの世界に適応した結果獲得した能力なのかも知れないし、その個体特有の考えと運用方法だったのかも知れないわね」
「ふぅむ。
多少こじ付ける臭くはあるが、まぁ否定は出来ん程度には筋は通っているな。
で、考えられる理由の2つ目は?」
「あぁ、それは簡単よ。
ご主人様の魔力、その性質か魔力量かもしくはそれ以外かは置いておくとして、ご主人様でないとダメな、求めて止まない理由が在った、と見るべきじゃないかしら?
だから、ここまで実力が隔絶し、本来ならば手を伸ばす事すらも時期尚早だったハズなのにも関わらず、こうして手を伸ばしてしまう様な、ね?」
「…………なんじゃそら。
流石に、理由としては弱すぎんか?」
「いや、分からないわよ?
連中、基本的に常に飢えていて、常時群れの誰かしらは捕食行動を取っている、みたいな所があるからね。
そんな彼らの目の前に、暫くの間は群れ全体が飢えに苦しむ心配をしなくても済む上に、しかもとびきり美味で大好物なモノが現れた、とかなったら、流石に段階的にはまだ早い、となっていても、確実に仕留めるべく慎重になるだろうし、夢中になって取りにくるんじゃないかしら?」
「いや、流石に…………とも言えない、か?
餓死寸前、とまでは行かなくとも、それに準ずる様な状態になってる人間は、その身体の何処にそんな力が残ってた?ってなる様な事をするとも聞くし。
それに、魔力を麻薬とかに置き換えてみれば、説得力も上がる、かも?」
そう言って俺は、納得した様なしていない様な、との思いを抱えたままではあったが、一旦それらを呑み込んで道を進んで行くのであった……。




