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取り敢えず、目の前の連中を蹴散らす。
そう決めた俺は、確かこんな感じだったかな?と術式を展開して行く。
ソレは、見る者が見れば、一目で理解出来たであろうモノ。
以前、妹の桜姫の要請により、彼女の仲間達と手合わせした時に目撃し、俺なりにアレンジして使える様にした、魔法術式だ。
以前も軽く触れたとは思うが、俺はこの手の汎用術式があまり得意では無い。
元々、この世界でそれらに触れられたタイミングで魔力を持たなかったが故に馴染みが無かったから、と言うのが最も大きな理由かも知れないが、魔力が覚醒した向こうの世界では、そんなモノは無かったから、と言うのも大きいかも知れない。
とは言え、別段その手の術式そのものが使えない、と言う訳では無いし、魔力を外に放出する事が出来ない、と言う訳でも無い。
ただ単に、向こうの世界では、統一規格で術式を用意する、と言う事が無く、やるとしても個人に合わせて自身が改造を施したモノを使用する、と言う傾向が強かった。
まぁ、何処かに大元となった術式が存在したのかも知れないが、少なくとも俺が召喚されたタイミングではそんなモノは何処にも残ってはおらず。
またそもそもの話として、個人個人が使い勝手が良い様に改造して使っている為に、誰かの術式や師匠筋から教わったモノを使おうとしても、そのままでは発動すらしなかった、なんて事もざらに在った為に、やはり見たものをそのまま使える、だなんて認識が元より無いのかも知れない。
だから、と言うべきなのだろうか?
先にも述べた通りに、俺はこちらの世界の汎用術式はあまり得意では無い。
が、代わりに汎用術式で無ければ、大概のモノは使えなくは無い、と言う特性を持っている。
より具体的に言えば、『実際に目の当たりにして改造した術式』であれば、大概は使える。
なので、汎用化は不可能、と断された魔法少女達の術式であれ、それが『能力』由来のモノであれ、術式さえ見れたのであれば、ソレを模倣し、改造し、そして記録して使用する事が出来るのだ。
まぁ、とは言え、それも万能の力、と言う訳では勿論無い。
得意な血統によって齎されるモノだとかは基本的に使えないし、個人の体質に由来する様なモノだとやはり扱いきれないだろう。
また、術式を介さず、直接的に事象に干渉する類いの『能力』は、そもそもが模倣する事も改造する事も出来ない為に、やはり使用する事が出来ない。
尤も、使える、と言うだけで、十全に扱える、と言う訳では無いのだけれど。
例えば、俺が木宮の術式を模倣して、汎用とは言え同じ様に植物の魔術を行使したとする。
そうした場合、ある程度は俺の保有魔力にてゴリ押しする事も可能だが、それでもやはり地力の差や練度の差は、どうしても出てしまう。
なので、単純な力比べをする、と言う様な事態では無く、よりスマートに、より素早く目標とする事を終えられるのはどちらか?と問われれば、間違い無く模倣元となった木宮の方だ、と言える事になるだろう。
まぁ、だとしても威力だとか速射性だとか、その辺に関しては申し分ないとは思うけどね?
向こうの世界で、見敵必殺な思考に浸っていた時間が長過ぎたからか、精密性だとか加減具合だとか、その辺に関してはかなり大雑把に纏めて、より強く、確実に殺す、って方向に伸ばす改造ばかりしていたから、その癖が抜けないんだよね。
そんな訳で、展開するのはあの時も使った模倣術式。
大口径、大火力のレーザーを照射する、汎用術式の属性で言えば光よりの無属性、となるであろうモノ。
更にソレを再度改造し、照射時間を削る代わりに同時展開数を増やす。
すると、どうなるか?
答えは、単純。
たったの1人で、防御不可能なレベルの火力を用いた面制圧が可能となる、と言う訳だ。
勿論、手加減して死傷者の出ない様な出力での攻撃…………なんて事はしない。
先にも述べた通りに、俺はその手の手加減が苦手であり、故に大火力で当て所を選ばなくては確実に殺傷してしまうとしても、選べばまぁまぁ手加減が出来なくは無い、直接的な攻撃手段を常用していたのだ。
なので、当然の様に肉壁となった被害者連中は、直撃して身体の大半を蒸発させたり、手足や肉片をその辺りにばら撒く事になる。
当然、中身として肉体を支配していた膿の様なナニカも、肉体同様に高熱に耐える事が出来ずに蒸発して行く。
中には、何らかの手段で防御策を講じたのか、それとも偶々運が良かったのか、致命傷を受ける事も、身体の大半を消し飛ばされることも無いままに残る者達もいた。
が、そんなラッキーボーイ&ラッキーガール達としても、無傷でいる事は当然不可能として、五体満足で居られた者もそこにはおらず、確実に何処かしらは欠損するか、もしくは『どうにか生きてはいる』程度にはダメージを受けている様子であった。
そんな連中の残骸を、時に蹴り飛ばし、時に踏み付けながら進んで行く。
中には、まだ生きて(?)いて、その上で動ける者も中には居たらしく、時折足止めしようとしたり、爪を突き立てて来ようとしたりする個体もいた。
が、最早『残骸』としか形容の出来ない連中の、最後の悪足掻き。
早々に、そんなモノに構ってやる必要性も感じられないし、適当に回避したり他の残骸を蹴り飛ばして重しとして乗せてやったりと、適当にあしらって奥へと進む。
すると、当然の様にそこには例の真っ赤なアイツが。
未だに手足は折れ曲がり、俺が開けてやった風穴もそのままである以上、やはりある程度までしか修復する事は出来ない様子だ。
これが、大昔からのオカルトとして語られてる連中みたいに、首を落とされないと死なない、だとか、心臓を抉らないと死なない、とかだったら面倒だな、とは思っていたが、耐久力はソレに近いレベルで持ち合わせている様子だ。
だが、そこに回復力まで相乗りしている訳では無く、一般人に毛が生えた程度のモノであるのならば、怖くも何とも無い。
端から潰して、致命部位を壊してやればそこで御仕舞だ。
…………とは言え、それはそれで違和感が残る。
幾ら不死身に近い化け物とは言え、ただそれだけで七魔極に近い圧を感じるモノだろうか?
例の重圧は、確かに例の膿が受信機の働きをして、半ば洗脳に近い方法にて植え付けられていたモノであり、こうして解いた今では欠片も感じてはいない。
そう言う意味では、幾ら怪力と増殖の能力が在るとは言え、単体で一軍を相手にする事すらも可能としていた化け物共と、同じ様な存在圧を感じる要素なんて在っただろうか……?
まぁ、とは言え俺とは既に敵対している。
それに、能力的にも確実に害獣として駆除しなくてはならない類いのモノとなるのだから、気にするだけ無駄、と言うモノだろう。
内心で1人首を傾げていた俺だったが、気にしても仕方が無い、と結論を付けて前へと出る。
すると、それまでただ真っ赤なアイツを支えていただけの追跡者(2号)が、それまで無表情だった顔に、何やら覚悟を決めた様な表情を浮かべる。
苦しそうにしながらも、見た目だけは『美女』と表現してもおかしくは無いアイツ。
逆追跡している間も、無表情から顔面筋が動く事は無かったが、顔立ちは彫りが深く整っている追跡者(2号)。
そんな2人が、スポットライトで照らされている中で見つめ合っていると、まぁエラく絵になる光景ではあったのだが、既に被害を受けている身からすれば『ナニイチャついてんねん?』と殺意が更に湧き出て来る光景にしか見えていない。
…………そこまでしてくっついていたいなら、纏めてあの世に送ってやろうじゃねぇか!?と妬み嫉み僻みもマシマシに込めた拳を握り締め、冷却期間の終わった『金剛』を手に歩み寄ろうとする。
が、その直前、支えられていた真っ赤なアイツが、唐突にその唇を追跡者の喉元へと這わせると。
いきなり、大きく口を開いて、その首元に長く鋭い牙を突き立てたのであった……。




