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その日の授業を終えた俺は、1人帰路に着いていた。
あの日、俺が能力認定(仮)を受けた際に流れた約束は、数日前に再度集まってのバカ騒ぎにて果たされていた。
その為、と言う訳では無いが、それぞれで予定やら部活やらが在る4人とはこうして行動を別にしており、俺1人で道を歩いている、と言う訳だ。
尤も、最終的にはほぼ必然的にこうなる訳なのだが。
何せ、俺だけはあのメンバーの中で住んでいる方向が違う、と言うかほぼ真逆に近い位置取りをしている為に、何処かに集まって、となったとしても、大体がいざ解散!となれば必ずこうなる訳だ。
…………別段、ボッチだから、って訳じゃないぞ?
あの件以来、話し掛けられる事も増えたし、友人と呼べる様なヤツも増えたんだからな?
まぁ、それでもやっぱり一番仲の良い友人、と呼べるのはあの4人になるし、他の連中も、一緒に帰る、なんて仲にまではまだ発展していない。
だが、今後もそうだとは限らない。
幾ら切っ掛けが俺の能力だったとしても、その切っ掛けさえあれば後は相性の問題でしか無い。
良ければ仲は深まるし、悪ければそのまま消えるだけ、だ。
…………別に、調子が良い事、だとか思ってなんていないぞ?
幾ら、殆ど話す相手が居なかったとしても、向こうの世界では当たり前だったし??
寧ろ、命を常に狙われている状況で無い以上、こっちの方がより安心出来る、ってモノだし???
なら、別段最低限会話出来る友人が確保出来ているのだから、あんまり新しく掻き集める、とか焦らなくても良いよね!?!?!?
────なんて、内心では荒ぶりつつ、外見上は普段の通りに無表情を貫きながら、道を進んで行く。
そして、角を曲がる際にさり気なく、不自然にならない程度の短時間で、それまで通って来た道を確認する。
…………なんか、ずっと居るんだよなぁ……。
表情には出さないままに、内心にてそう嘆息する。
直ぐに視界を前方へと戻し、視線を向けていたのは最早ゼロコンマ何秒か、と言うレベルであった為に、向こうには気付かれていない、とは思うが、やはり同じ人物だったのだろうか?と記憶の中で照合する。
…………そう、ここまで語れば、最早説明の必要も無いかも知れないが、何故か俺の跡を追跡して来ている相手が居る、らしい。
まぁ、一応『らしい』と付けてはいるが、それもあくまで今は俺主観の出来事であり、別段実際に本人を分捕まえて吐かせた訳では無いから、と言うだけであり、俺個人の法廷では既に犯人として確定している、と言える。
…………何せ、俺が学校を出てから直ぐに尾行を開始しており、既に帰り途の半ばまで差し掛かった現在に於いても、一度たりとも途切れていないのだから、最早確定と言っても良いハズだ。
だが、そうだとすると、おかしな点も幾つか挙げられる。
先ず1つ目として、俺を尾行する、と言うには些か堂々と行動しすぎている所だ。
何せ、物陰に隠れたり変装をしたり、とあからさまに怪しく振る舞うのは論外にしても、ソレに準ずる行動を取る素振りが欠片も見えないのだ。
常に道の真ん中を進み、迷う素振りすらも見せずに真っ直ぐ進んで来る。
他の監視要員と交代したり、尾行を代わったり、と言った様子も見られない為に、偶々学校から一緒の道を進んでいる、と言う可能性も否定は出来ない。
まぁ、常に突き刺さる様な視線を向けられている以上、やはり俺狙いなのだろうけど。
そして、2つ目。
何故俺を尾行しているのか?
正直に言えば、向こうの世界の連中であれば、まだ俺の活躍等を知っている、と言う事であれば理解も出来た。
俺の功績が正しく知られているのであれば、少なくとも俺は向こうの世界で『英雄』と呼ばれるのに相応しいだけの活躍をしたのだから、俺の功績を知って、だとか、俺が今何処に居るのかを知りたくて、だとか、純粋に俺に話し掛けたくて、だとかの理由で追い掛けている、とか言われれば、まぁ納得は出来る。
出来るのだが……それは、あくまでも向こうの世界ならばの話。
正直、俺はこちらの世界では、そうして注目を集める様な事は一切していないのだから。
であれば、俺を追跡する理由が無い。
そして、人は理由がなければ行動しない。
ならば、何かしらの理由が在る、と言う事なのだろう。
だが、そうなりそうな情報の類いは、大概が遮断されているか、もしくは他人のモノとなっているハズなので、やはり俺に辿り着く事は出来ないハズ……?
うん、となると、やっぱり理由に思い当たる節が無い。
こうなってくると、最早俺が異世界帰りだと知られていて、その検体として狙われている、と言う方がまだ納得出来る。
異世界人であれば、それこそ侵略組織に沢山居るし、なんなら侵略組織そのものも大量に在るのだから、サンプルとして種類も量も沢山在る。
が、この世界の人間が、別の世界で過ごしたらどうなるのか?のサンプルとしては、多分俺しか居ないハズだ。
少なくとも、生きた検体としては、俺だけだろう。
そして、その変化ないし変異を解き明かし、こちらの世界の技術にて人々に施せれば、俺並みの戦闘能力を持つか、もしくは万民が能力を獲得出来る様になるか、と言った可能性を持つ事になる。
だから、何処かから俺の情報が漏れていた場合、俺の身体を調べようとしている、企業もしくは組織があっても不思議では無い。
何せ、ソレが実現出来た場合に得られる富は、この能力優先社会に於いて、考えられない程に莫大なモノとなるのは間違い無いのだから。
…………まぁ、とは言え、それも情報が漏れていた場合、の話。
そして、ついでに言えば、考えて分かる事かそうでないか、で言えば『分からない』類いの事例では在る為に、考えるだけ無駄だろう。
だから、面倒なので直接聞いてしまう事にしよう。
そろそろ、下手な尾行を受け続けるのにも、飽きてきたから、ね。
そう結論を出した俺は、何時もの道順から逸れて、細い路地へと足を踏み入れる。
これで、俺の事を前から尾行していたとしても、普段とは異なるパターンの行動に不審感を抱き、追い掛けて来る事だろう。
そうでは無く、今日初めて、と言う事でも、やはり俺の尾行が目的であれば、そのまま振り切られるのは避けたいだろうから、やはり追い掛けて来るハズだ。
コレで追い掛けて来なかったら、ただの偶然道行きが同じだった、と言う事になる。
もしくは、組織だった行動を取っている為に、現在追跡に付いている者がバレたと判断して、他の人員と交代するか、と言った所だろう。
なんて思いながら路地へと入り、特に急ぐ訳でも無い歩調で奥へと進んで行く。
そして、ある程度進んだ先でいきなり速度を上げ、追い掛けて来た追跡者の視界ギリギリの所で更に奥へと路地を曲がる。
走りつつ気配を探れば、素直に着いてきてくれていた為に、曲がった先が突き当たりであるのを確認した上で路地の中程で跳躍する。
魔力で強化した脚による三角跳び。
これにより、急いで駆け込んで来たらしい追跡者が、勢いのままに奥の方へと駆けて行きながら、追い掛けていた俺の姿を見失って立ち止まる姿を下に見つつ、路地の出口を塞ぐ形で着地する。
その際に出た着地音に反応してか、追跡者が振り返ると、薄暗い路地の中で唯一爛々と光る赤い瞳が、何故か強く印象に残される事になるのであった……。




