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────ピチャン……ピチャン…………。
最初、『ソレ』は小さく赤いシミに過ぎなかった。
滴ったとしても、微かに水音を周囲へと響かせ、僅かに赤く染める範囲を広げるばかりで、特に影響も持たないモノであった。
当然意思等存在するハズも無く、また在ったとしても何も出来ない、そんな程度の存在でしか無かった。
────パタッ、パタタタタタッ…………!
いつしか『ソレ』は、小さく、本当に小さくではあったものの、1つの【場所】を赤く染め上げた。
時に黒く、時に朱くはなりにしても、基本的にやはり『ソレ』は赤であり、紅であり、赫であった。
以前は一滴ずつ滴り、少しずつシミを広げる事しか出来なかったが、今でもは間断なく連続して滴る事で、洗い流される事にもある程度耐える事が出来る様になっていた。
────ザッ、ザザッ、ザザザザザザザッ!!!
そして、『ソレ』は遂に、滴る水滴の域を脱し、最早『雨』と表現するに相応しい域に迄到達した。
赤く、朱く、紅く、赫く、時に流れを一つ染め上げ、時に【場所】を通り越し、最早【土地】と表現するしか無い規模に迄膨れ上がりながら、只管に赤く染め上げて行く。
その頃には、『ソレ』にも自意識に似たモノが現れ始めていた。
────ゴォォォオッ、ゴォォォォォォォオオオッ!!!
いつしか『ソレ』は、最早【大河】と評するに相応しいだけの規模を持つに至った。
周囲を赤く、紅く染め上げ、大地を削り、己が身の内に取り込みながら、その朱く赫い身体をより大きく、より多くして行く。
そうしている内に、『ソレ』には感情の様なモノが芽生え、同時に一つの欲望と衝動が生まれ落ちる事となった。
ズバリ、【飢餓】と【焦燥】だ。
幾ら喰らっても足りず、幾ら増えても足りず、幾ら染め上げてもなお足りない。
早く、もっと大きくならなくては、早く、もっと多くならなくては、早く、もっともっと染め上げなくては。
もっと
もっと
もっともっともっと
もっともっともっともっともっともっともっともっと
もっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっと、もっと!!!
最早強迫観念にも似たモノに突き動かされながら、『ソレ』は延々と蠢き続けた。
途中、抵抗を受けた事も何度かあったが、その度に考え、増え、そして取り込んだ事で、『ソレ』は1つの世界を丸ごと身の内に取り込む事に成功する。
そうして、『ソレ』は全てを呑み込んだ。
しかし、未だに衝動は止まる事を知らず、『ソレ』に対してより大きく、より多くなる事を絶えず命じ続けた。
…………だが、既に全ては『ソレ』に飲み込まれた後であり、最早大きくなる余地も、多くなる方法も残されてはいなかった。
『ソレ』に芽生えた自我は発狂し、崩壊し、しかして死滅に至る事無く、定期的に覚醒と発狂とを繰り返す事になる。
そして、その永劫に続くかと思われたサイクルの内のとあるタイミング。
『ソレ』は遂に、己の今いる世界とは別の、隣り合った世界が存在する、と言う真実に辿り着いてしまう。
『ソレ』は発狂したまま歓喜に踊り、覚醒してはその方法を探って蠕動した。
そして、その方法を、遂に『ソレ』は入手する事となる。
己の欠片しか送る事は出来ないが、それでも充分だろう。
何せ、己はそこから始まったのだから。
誰も居らず、何も無い、真っ暗であると認識すらも出来ない空間にて、『ソレ』は誰に向けるでも無い呟きを、何処に向けるとも無く零すのであった……。
と言う訳で第二章開始
果たして、何が何処に目を着けたのか?




