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妹と共にバスに揺られる事暫し。
兄貴の時と同じ様なやり取りと移動手段を挟み、今日の目的地へと到着する。
とは言え、そうして着いた場所は、前回の様な廃ビル、と言う訳では無く。
寧ろ、どこぞのオフィスビルか、もしくは大型の学習塾のどちらかな?と言った風な、最新式かつ華やかな造りのモノとなっていた。
…………流石に、極端から極端に飛びすぎでは?
そう、1人内心にてツッコミを入れてしまう俺だったが、こうなるのには幾つか理由がある。
先ず1つ、敵対している組織の性質の違い。
コレは、俺達が『侵略組織』として一括りに呼称しているせいで分かりにくいかも知れないが、連中は別段一枚岩では無い、どころかそもそも同じ組織ですら無い。
数多に存在する別の世界から、こちらへと向けて侵略して来る組織の総称である訳だ。
なので、当然性格にも違いが出る。
目的を達成する為には手段を選ばない連中は当然居るし、逆に正々堂々と目的を達成しようと仕掛けて来る連中も居る。
因みに、兄貴の所が敵対しているのは前者のタイプで、目の前にある妹の所属している組織と交戦しているのは、後者のタイプだ。
そして、考え方の違いは当然手段の違い、戦い方の違いに発展する。
簡単に言えば、前者は『基地?拠点?見付けたなら潰しておけ。そうした方が楽にこなせる』と考える口で、当たり前の様に拠点に奇襲を仕掛けてくる。
後者は余程追い詰められなければそうはならず、やったとしても先んじて予告状を出す、位の事はするので防衛も不可能では無い訳だ。
続いて、2つ。
組織の性質の違い。
前にも軽く触れたが、兄貴の組織は個人が立ち上げたモノだ。
今でこそ政府にも認められた『対侵略組織』ではあるが、それでも発足が発足故にスポンサーの類には恵まれず、結果的に資金力にも限りがあり、防衛設備万端の基地を建築する、と言う事が難しかったのだそうだ。
翻って、妹の所属する組織。
こちらは兄貴の所とは異なり、正式に別の世界がバックに付いている為に、資金は潤沢で設備も万端だ。
何故別の世界が後ろ盾なんかやっているのか?との疑問も出るだろうが、そこは単純にして切実な理由がある。
詳しくは俺も知らないのだが、なんでもこの世界は他の世界との中継地点として最適な位置?に在るのだとか。
例えで言えば、Aの世界から直接Bの世界へと行くのは大変だが、間にこの世界を挟めばかなり楽になる、みたいな事が出来るらしい。
なので、と言う訳では無いのだろうが、侵略組織がこの世界に橋頭堡としての拠点や勢力を作り出したがっている理由の大半は、この世界をハブとして利用し、他の世界に攻め入りたいから、なのだとか。
そこで、そうして攻め込まれる前にどうにかして食い止めたい、もしくは戦場が自分達の世界になるのは都合が悪い、と考える別の世界が、こちらの世界の組織に防衛を代替させる見返りに資金提供等をしている、と言う所がそれなりに在るのだ。
…………こうして見ると、かなり嫌な連中みたいに見えるな。
自分の世界が荒らされるのは困るから金は出してやるからお前らの世界でどうにかしろ、汚れるの嫌だからお前の所の便所使うわ、とか言われているのとほぼ同じだが、どうにもそう言った世界は世界でそれなりに事情があっての事だとは聞き及んでいる。
魔力の相性が悪くて入られただけでも環境が蝕まれるだとか、特有の細菌が圧倒的なまでの猛威を振るうから接触すらも不味い、とかのパターンも聞き及んではいる。
因みに、妹達に手を貸している世界も、その1つだそうだ。
最後に3つ目を挙げるとすれば、組織が市民権を得ているかどうか、と言ったところであろうか?
コレは、実際に戦闘が起きた時の出来事であったりだとか、敵対する侵略組織の性質を人々が認知しているか、と言う話も関わって来る。
兄貴の組織の様に、元々大きなスポンサーを持っていない組織もそれなりに在る。
では、その様な組織がどうやって運営しているのか?と言えば、政府からの報酬と映像広告の2つだ。
前者はそのまま、後者に関しては自分達が怪人と戦っている様を動画で配信する、と言うモノ。
カッコイイヒーロー達が、街を破壊する怪人達と戦い、打倒して行く。
一昔前までは、特撮の形でしか現実に出来なかったソレを、台本や段取り無しにて行う事が出来る為に、リアルな映像には熱狂するファンも多く、特定の組織に対して個人的に支援する、と言った動きも決して少なくない。
そして、連中が破壊を目的として行動しており、自分達とは相容れない存在なのだ、と認識して貰う事で、彼らの活動にも正当性が芽生えてくる、と言う訳なのだ。
まぁ、とは言えヒーロー側も全戦全勝、とは行かない故に、時折敗北シーンもリアルタイムで流してしまう羽目になる事もあるのが欠点だろうか?
対して、妹の組織の場合。
コレは、また少し特殊な形となる。
確かに、彼女らも自分達の存在をアピールする為に、ある程度の動画配信や施設の一般公開等も定期的に行っている。
お陰で、可憐な魔法少女達が怪人を倒す様は小さな女の子達の憧れの的であり、また定期的に大きなお友達を産出する土壌となっている。
が、ここまでは普通の対侵略組織とそう変わりはしない。
話が変わってくるのは、ここからだ。
────そう、彼女らが対峙している侵略組織は、自分達の存在を公表するだけでなく、フロント企業を置いて、公的な活動すらしている、と言う点だ。
…………いや、言いたい事は理解出来る。
そんな、侵略組織が運営していると判っているのならば、政府の方で営業取り消しやら取り潰しやらしてしまえば良いだろう?となるのは、理解出来るんだ。
だが、法的には全ての条件をクリアし、下手な他企業よりもホワイトで高待遇な会社であり、経済的にもかなり勢いがある。
ただ、侵略組織の思想だとかを周囲に説明したり、関連グッズを販売したり、拠点が置かれた際のメリットだとか、後は本格的に世界間での交流が始まった際の技術的・経済的な利益に付いて周囲からクレームが付かない程度に広告し、啓蒙しているだけ、と言う話なのだ。
これでは、取り潰そうにも潰せない。
何せ、法的には痂皮は無く、ただ単に状況証拠的には繋がっている、と見なされているだけに過ぎないのだから。
また、それでも尚、となってしまっては、今度は無関係の企業が『そうだと疑われたから』と同じ様に潰される形になりかねないから、と周囲から超法規的措置の慣行も押し留められている状態になる、らしい。
前者は完全にテロリストであり、放置すれば危ない、と市民にも認知されている為に、組織の方もソレを打倒する者達だ!と言う事で、人気や市民権を得ている。
が、後者は完全に社会に溶け込んでしまっており、テロリストと言うよりはスパイが存在としては近く、より厄介で殴り飛ばして排除する、と言う手が使えないのが最も面倒臭いところだろう。
まぁ、とは言え、後者は余程上手く事を運ばないと自滅する、なんてオチが付くが。
何せ、過去に数件、水際を読み間違えた阿呆が、決定的な証拠やら言い逃れ出来ない技術やら組織の幹部の出入りやらを抑えられ、フロント企業が潰されるだけでなく、そこから侵略組織そのものの解体や壊滅に繋がってしまった、との例が幾つも存在している為に、やはり妹と敵対している所は頭が回るし中々に厄介な連中なのだろう。
なんて事を、外観を眺めながら考えていると、妹たる桜姫が近付いて来る。
どうやら、部外者を中に入れる為の手続きを代行してくれていたらしい。
出来る妹を持つと、兄としては誇らしいよ。
そんな風に1人納得し、先導する桜姫の背中に続いて建物の門を潜り抜けるのであった……。




