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徐に、兄貴が鉞の刃と柄との接合部の所を握り締める。
すると、どうやら何かしらの機構が組み込まれていたらしく、ガション!ともガシャン!とも取れない金属音と共に、一部がズレて内部が顕になる。
そこに嵌め込まれた結晶体と思わしきモノに、雷光が宿り、放たれる光が強くなって行く。
魔力、ともまた異なる理にて働く力であるらしく、俺では見ているだけではその全貌までは把握しきる事は出来ずにいた。
が、コレだけは断言出来る。
アレはまともに受けてはダメな一撃だ、と。
ならば、俺の方とて、必殺の一撃を用意するのみ。
どうせ互いに死にはしないのだから、と向こうの世界でも常用していた、空間収納の魔導具を起動し、その中にしまっていた俺の『装備』を取り出して装着し、構える。
…………ソレは、形状で言えば籠手が最も近いだろう。
肘から先を完全に覆いながらも、関節の駆動に支障を出さない装甲の位置を探り出す事に、どれだけの苦労があったかは、語るべき事では無いが。
しかし、コレはあくまで『武具』であり、『防具』では無い。
ソレは、腕の内側以外にズラリと並んだ、最早形容するのならばシリンジに詰められた『杭』としか表現のしようが無いモノが証明してくれている。
腕の外側、手の甲側に並んで2本。
側面側に、それぞれ1本ずつ。
計4本の杭が、筒に収められた状態で取り付けられている。
当然、コレは飾りでは無く、実践的かつ実用的な『兵器』だ。
その名も、多連装式射突型近接兵器。
複数有る中で、俺が『金剛』と名付けている、特に物理的な破壊力に優れる逸品だ。
向こうの世界の魔導金属の中でも、特に頑丈さに優れたモノを使用し、兎に角硬度を求めた杭。
ソレを、筒の底の部分に仕込んだ賢者の石を急速に燃焼、反応させる事で爆発的な加速を生み出しつつ、杭の先端部から特殊な振動を同時に発生させ、それぞれが目標へと着弾した瞬間に破壊力と振動とを内部へと叩き込み、物理的に内外から同時に破壊する、と言うコンセプトの元に作り出し、実用化させた俺専用の兵装だ。
勿論、コレが趣味の産物である、と言う事は否定しない。
アイデアも、昔やっていたゲームから貰った様なモノだし、名前だってそうだ。
が、実際に試作し、使用してみた結果として、割りと俺の戦闘スタイルには合致しているモノであった、と言う事が判明し、次いで様々な場面で使い易い様に、とバリエーションを増やして行った結果、こうなった訳なのだ。
だから、この4本パイル『金剛』だけでなく、3本パイル『仁王』だとか、2本パイル『修羅』、単独パイル『羅刹』等も有る。
因みに、コイツらは杭が少なくなればなる程にヤバいブツとなるので、幾ら相手が死なずに済む、とは言え手合わせで使えるのは『仁王』までだろう。
まぁ、ヤバさ加減で言えばその順、と言うだけであり、それぞれで使用場面に合わせて製作したのだから、威力やら被害やらまで、その順になっているとは限らないのだけれど。
と、そうこうしている内に、兄貴の方の準備が終わったらしく、こちらに向かってゆっくりと歩いて来始めた。
今は肩に担いでいる鉞は、先程まで放っていた激しい雷光こそ収まっている様子だが、ソレでも強烈な光を放っており、寧ろ今の方がヤバい雰囲気がプンプンして来る様な気すらする。
それと相対する形で、俺も前へと歩み出る。
既に『金剛』の起動は済んでおり、後は拳を叩き込むのみ。
後、3メートル。
……2メートル。
1メートル。
残す所数歩分、となった時点で、先に兄貴の方から仕掛けて来た。
当然の様に、最大威力の攻撃をチャージしている鉞、と言う訳でなく、ソレを担いでいない左拳による拳撃。
最大の必殺技は、当たりこそすれば必殺技たりえるが、仮に外そうものならば相手の方の必殺技をその身に受ける羽目になる。
だから、先ず最初にブッパするのでは無く、確実に当てられる状況を先に作ってから、と言う事だろう。
勿論、俺も狙いはそう。
なので、『金剛』を装着している右拳では無く、右膝によって兄貴の左拳をガードし、ついでにそのまま蹴り上げに移行する。
だが、流石にそのまま蹴り飛ばされ、脳震盪を起こして成されるがまま、とはなってくれないらしく、今度は右の肘にてこちらの脛を叩く形で迎撃されてしまう。
流石に、人体急所の1つを金属の塊にて叩かれる形になった為に、正直かなり痛い。
…………痛いが、別段死ぬような怪我では無いし、賢者の石があってもなお行動不能にされる様な類いのダメージでも無い為に、無視して今度は此方が拳を繰り出して見せる。
すると今度は、此方が蹴り足を引いていた事もあり、左の肘で此方の拳を迎撃して来た。
流石に、何度も同じ様になるつもりは無い為に、今度は拳が当たると同時に錬金術による物質の分解を発動させ、肘の部分の装甲を破壊する。
瞬時に、拳を引いてもう一発。
しかし、昨晩の説明で、俺がソレを出来る可能性が有る、と認識していたのか、兄貴は特に動揺する素振りも見せず、即座に位置をずらして装甲が残っている部分で再度受け止められてしまう。
が、そちらはそちらで構わない、との心構えもあったし、何より今度の拳撃に同じ効果を乗せていない、同じ術式は連続して使えない、だなんて俺は一言も言っていない。
ので、容赦無く、再度装甲を破壊し、より深く肉体の方も傷付けてやる。
周囲に散らばる、紅い雨。
左の上腕、その半ばまでもが抉り取られる様にして分解された兄貴は、損傷箇所から大量に出血し、辺りを真っ赤に染め上げる。
…………こうして決まれば、ほぼ必殺に近しい結果を出せるのだが、直接触れないと使えないんだよなぁ、コレ。
早い話が、薄くでも魔力で結界を張られていたりすると、触れられないから発動すら出来ずに不発に終わる、なんて事もザラだし。
後、高速再生の類いが出来る様な輩相手にも効果が薄いし、便利で強力そうに見えたとしても、結構扱い難いんだよなぁ。
まぁ、コレで流石に兄貴の方もダメージが嵩んで来た事だろう。
ほぼ片腕もぎ取ってやった様なモノだし、身体のバランスも崩れる事は必至だ。
なら、体勢も崩れて確実に当てられる様になっているハズ…………ッ!?!?
ドンッ!!!!
床を揺るがし、轟音が響き渡る。
周囲で観客と化していた兄貴の同僚達が、突然の振動に足を取られてよろける中、俺は信じられないモノを見た。
視線の先、振動の中心地には、当然兄貴の姿が。
幾ら手合わせとは言え、相対している相手から視線を逸らす様な真似はしないし、していない。
が、一瞬とは言え、兄貴が何をしたのか、何故そんな事が出来たのか?が理解出来ず、意識に空白を生み出されてしまう。
雷斧が何をしたのか?に関しては、一言で言えば『震脚』の類い、となるだろう。
俺に腕をもぎ取られかけ、姿勢を崩した先で思い切り床を踏み締め、その振動を周囲へとばら撒いて見せたのだ。
だが、ココは地下で床も基盤が確りしている。
床が緩い建物の中や、直下が空洞となっている岩盤の上、だなんて振動の伝わりやすい条件とは合致しないハズなのにも関わらず、思わず俺の追撃の足が止まり、思考に空白を差し込まれる程に強烈な振動を発して見せたと言う訳だ。
…………そして、当然ソレを狙って行ったと言う事は、向こうには思考のラグが発生する訳も無く、当然の様にこの隙を見逃さない。
震脚によって踏み締めた力強さのそのままに、左腕はダラリと垂らしつつ、右腕だけとは思えない程に豪快に、雷光を放つ得物を俺へと目掛けて振り被る。
正しく、必殺のタイミング。
足を取られた此方がその一撃を回避出来る余地は無く、周囲の観客達も試合のフィナーレの予感と、自分達の仲間の勝利を目前にして、否応無しに盛り上がって行く。
そんな周囲の様子を、何処か他人事の様に眺めながら俺は、振り被られ、今にも俺の身体を両断しようと迫る鉞の巨大な刃に対して、こちらも用意していた右の拳を、かち上げる形で叩き込むのであった……。




