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私のイチニチ〜***

お久しぶりです。


そして、明けましておめでとう御座います

昼飯を食べ終えて仕事に戻る私。と言っても今日の仕事は午前中に終わらせた為、あとは自由な時間だ。



「さーて、何作るか」



武器を作ろうにも使い道がないし、かといって電化製品モドキを作れば後々面倒になる。さて、どうするか。



そうこれから何作るか考えていたその時。



「───お姉様。少しよろしいでしょうか?」



と後ろからティアムンクに声をかけられた。



「……なんじゃティア。なにか依頼かの?」



「えぇ……そうです。その……物の修理と補充を手伝ってもらいたく………」



そう申し訳なさそうに言うティアムンクにその依頼の物がなんなのか検討が付いた。



「………わかった。すぐ行く」



「ありがとうございます」



ティアムンクが去った後、私は必要な荷物を纏めて同僚に言伝を言ってティアムンクの後を追った。



理由としてはティアムンクの依頼の物をここで修理したりするのは色々まずいからだ。




***




ティアムンクの仕事は作物の品種改良や流行病の治療薬の研究などバイオテクノロジーに関する事だ。



バイオテクノロジーは使い方を誤れば大事故に繋がる為、非常に警備が厳重である。もしかすると魔王国の中で最も厳重かもしれない。



ティアムンクの研究室はそのバイオテクノロジー分野の棟の地下深い場所にあり、職員でも立ち入りが制限されている。つまりはそれだけ危険な場所であるのだ。



「ほんと申し訳ありませんお姉様」



「いや、こればかりは他のもんに頼む訳にはいかんじゃろ。少し特殊じゃし」



ティアムンクの依頼の物はメス類や鉤類といった手術用備品や注射器やらスポイトなどの実験器具である。



「まぁ…………そうですわね。あ、これ食べます?最近生産に成功した培養物の物ですわ」



そう言ってティアムンクが差し出したのは赤黒い何かだった。



「培養物って………まぁ、貰おうかの。……………なんじゃこれは?干し肉か?なんか豚みたいな味じゃな。兵站にでも使うのかの?」



「いえいえ、これは常人には毒ですわ。今のところ私とお姉様しか(・・・・・・・)食べれない代物です」



「………………あぁ。アレの肉か」



と私は部屋の培養槽の中にいる元の生物(・・・・)を見て納得した。



「アレはどこで手に入れたんじゃ?」



「アレは以前、(わたくし)が狩りに出かけた際に見つけた良質な個体です。魔力、味、肉付き、年齢など基準値を超している為、今後の為にも培養しております」



「なるほどのぉ………。───やはり、こっちに来ても病気はついて来たのか?」



私がそう聞くとティアムンクはそれまでその顔に浮かべていた微笑をストンッと落として能面の様になった。纏う気配も冷たい雪の様になった。



「─────やはり、お姉様には誤魔化せませんね」



ティアムンクはそう目隠しを取って、観念した様な口振りで言った。ティアムンクの瞳は紫を基にして角度で様々な色に変わる不思議な瞳をしている。



普通に見るなら非常に綺麗な目をしているが、彼女の眼は"呪眼"である。わかりやすい例としてはバジリスクの石化の目だろう。ティアムンクの場合、視認した者にあらゆる呪いを付与するタイプの呪眼で彼女の呪眼の効果は私たち『七大罪龍(セブンズドラゴン)』か神クラスの生物以外に有効であり、呪封じの眼帯をしていなければ生活に支障がでる。



……………もっとも、ティアムンクの場合、向こうの世界……つまりは私たちがいた元の世界でも極力目を見せない様にしていたが。



なにせ、彼女の元の目はかなり珍しい色だったから。



「………定期的に喰べないと意識が保てません。向こうよりかは幾分か猶予はありますが………」



「雨の日はきついのかの?」



「……………はい。やはり、バルザック様の肉体的性質と同じ様に切り離せないものになっている様です」



「……………そうか」



ティアムンクはとある精神的な病を患っている。



ある特定の環境と条件が満たされると突発的な衝動に襲われてるのだ。それは本人には制御不能であり、落ち着かせるにはその衝動を満たさなければならない。



これは彼女自身が自分の家系の者がよく患うと言っていたから遺伝的なものだろう。



「今のところ、定期的に狩りに出かければ良いですが、この世界のニンゲン(・・・・)は準絶滅危惧種ですから、そのうち牧場でも建てましょうか?……………あぁ、でもそれですと狩りの意味があまりありませんね。喰べることでは満たされますが」



……………………そう。ティアムンクが患っている病が原因で出る衝動とは食人による殺人衝動(・・・・・・・・・)である。



「それが良いのではないか?魔族に標的が移るよりはマシじゃ。………それとティア。ひとついいか?」



「はい、なにか?」



「この部屋には誰か入れたりしておらんか?しておったら少々厄介な事になるぞ?」



私はティアムンクの研究室に入ってから気になっていたことを聞いた。



私たちがいるこの部屋には壁や天井や床に張り付いた夥しい量の血痕、肉や骨や髪の毛の残骸かあり、いくつかある培養槽には人の形を保っていない人間が苦悶の表情を浮かべてぷかぷかと浮いている。



耐性がない者にはキツい光景だ。



「問題ありません。ここには(わたくし)が許可した者しか入ることが出来ませんし、もし無断で入ってしまったら処分(・・)しますから」



「……………そうか。しかし、あまり騒ぎは起こすでないぞ」



「………お姉様も変わりましたね。知らぬ誰かの心配などするなんて」



ティアムンクはそう言って私の前に移動してのしかかって来る。



「やはり、リュウエン様の影響でしょうか?(わたくし)と出会った時とは大違いですわね」



「生きていれば何事も変わるものじゃ」



「そうですわね。普通ならばそうですわ。………………しかし、(わたくし)は昔から変わっておりませんからね。お姉様(澪様)



ティアムンクはそう言って顔を歪めてワラった。



透き通った紫色の瞳は焦点が合っておらず、底が墨を落とし込んだ様に暗くなっており、口元はパックリと三日月の様に割れている。



笑っているのに目が笑っておらず、まるでヘドロの様にドロドロしていて、どこか壊れた様な歪さを持っている。



私が彼女と始めて出会ったあの夜と同じ笑みだった。



「───お姉様……あぁ、ミオ様……また、あの時の様に(わたくし)に」



「駄目じゃティア。それはできん」



ティアムンクが私に枝垂れかかり顔を近づけた時、私は無理矢理ティアムンクを引き剥がした。ティアムンクはそれには全く抵抗せずに素直に引き下がった。



「……………わかりました。本日はありがとうございましたお姉様」



ティアムンクはそう言って、眼帯を元の位置に戻した。ちょうど依頼のものが終わったところだったから良かったと私は密かに思った。


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