式の準備〜7
「まず昔のルナティアは敵味方関係なく嬲り殺しては喰らっていくまさに化け物でしてね。非常に好戦的で当時では『鏖殺の喰人姫』なんて呼ばれておりました。姉であるナザール以外の言う事を一切聞かず、他人と関わるのを極端に嫌っていました」
「今のあの雰囲気では考えられないな………」
あのなにかと面倒見がよく、口では色々言うがきちんとやる事はやっているルナティアが昔はそんな風だったらしい。
「まぁ、そんな毎日をおくれば当然ルナティアを憎む者がでます。ある日、ルナティアはその恨みを持つ者達に結託されて重傷を負いました。当然返り討ちにはした様ですが、回復までに完全な無防備状態です。そんなルナティアにとって1番気が抜けない時にリュウエンに出会ったのです」
「りゅう姉はその頃はまだ精霊としての格が低くて自我も目覚め間もなかったから、るな姉のこと全然知らなくて重傷のるな姉を助ける為にポーションとか魔法とか色々やって助けたみたいだよ。なんでも理由はなんとなくほっとけなかっただってさ」
「リュウエンのお節介さは昔からですよ。まぁ、そんな事されたらいくら敵味方関係なく嬲り殺していたルナティアも流石に喰おうとは思えず、放置したそうです」
カグラとスルースによるとその後リュウエンはまるで雛鳥の様にルナティアについて行ったそうだ。最初はルナティアに無視されたり突っ撥ねられたりされたそうだが、そのうちルナティアの方が根負けして同行を許したそうだ。
それから長い月日を共に過ごして、それまでは気性の荒く惨虐だったルナティアは今の穏やかで家族思いな性格へと変わり、互いに思い合い結ばれたそうだ。
「…………まぁ、他にも色々ありますが、大筋はこんな感じです。あの2人は昔は見ていて飽きませんでしたからねぇ。意識したての頃なんてほんと初々しくてっ」
とカグラはまるで近所のお喋り好きな叔母さんみたいな口調でひたすら話した。
とその時、辺りに軽やかな鈴の音が響き渡った。
「……………ん、なぁ姉達が帰って来た」
スルースはその鈴の音を聞くと懐から筆を取り出して宙に扉を描いて息を吹きかけた。すると扉の絵はまるで紙の様にふわふわと落ちていき床に着くとそこから扉が迫り上がって来た。
「…帰ったぞ」
しばらくすると扉は開き、そこからナザールと巨大な鞄を背負って疲れた顔をしたバルザックとティアムンクが現れた。
「おかえり。今度はなに取って来たの?」
「…アイスエイジマンモス約300体だ。これでイスチーナ様からの依頼は完了だ」
「アイスエイジマンモスですか………、懐かしいですね。霜降り肉が非常に美味しくて、よく狩りに出かけていました。あっちの世界だと数が少なくなっていましたけど、こちらでは多かったのですか?」
「…わんさかいたぞ。上位種もいたが今回は見逃した」
……普通ならAランクパーティでも相手にする事が難しく狩猟の難易度が高いアイスエイジマンモスを3桁狩ることが当たり前の様に話している光景に私は何故か疑問に思わなくなっている。
「いやアリシア疑問に思ってください。あの極寒の地であの巨象を3桁狩ってくることを異常だと認識してくださいよ」
とまた心を読んだのか索冥はそう私にツッコミを入れた。
「まぁ、普通はできへんよ。ウチやティアもできへんしな。あ、茶菓子もらうなスルース」
「別にいいけど、せめて爪楊枝使えバル」
と帰ってきて早々スルースの高そうな茶菓子を手掴みで食べるバルザック。
そうして緩やかな時間が過ぎていくのであった。




