式の準備〜1
「ーーーなるほどのぉ、この世界の婚約か。…………やってみるのもありじゃな」
私はアリシアから私が来る前の経緯を聞いてやってみようとと思った。
リュウエンに対して不埒なことをする輩は前からいたが、何故私とリュウエンが婚約しているのにしつこく迫ってくるかは分からなかった。ちなみにそういう輩は発見次第私がきっちり処理している。
「んで式は街で見かける教会ので良いのかの?」
『あれは魔族や亜人のやり方だから君たちには適応されないよ。こっちの世界だと種族毎にやり方が決まってるからね〜』
「なんじゃそれ。随分面倒じゃな………」
『確かに面倒だけど、最初の頃に創った概念ってのは変えられないんだよ。ごめんね☆』
「そのノリはムカつくから辞めろ。…………んで?我とリュウエンに適応するやり方はなんじゃ?」
『それはねぇ、万竜の祝宴っていうやつだよ』
イスチーナ様曰く、『万竜の祝宴』というのは文字通り万単位の竜が世界中から一ヶ所に集結し、神に選ばれた一組の竜の番を祝福するというなんとも壮大な物。
『君たちには充分資格あるし問題ないけど、その宴を執り行う場所が人間に占領されちゃって国になっちゃったんだよ………。その国は昔、その宴で集まった竜達を自身の武勇伝目当てで殺しまくった異世界人が創った国で非常に戦力があるから非常に粘ってるんだ。それにその場所は龍脈の合流地点で世界の維持に必要な場所だからその国撤去してもらえると嬉しいなぁ〜〜?』
「……つまりはその国潰した報酬として、その万竜の祝宴とやらの資格を与えるというわけじゃな?」
『そーゆーこと!ね?悪い話じゃないでしょ?』
と声だけ軽く言うイスチーナ様。
「…………我としてはいいんじゃが、この世界の神としてイスチーナ様は人間は滅んで良いと思っておるのか?」
私のスキルは物騒な物だが、私は別に快楽殺人者では無い。邪魔する奴には容赦無いが干渉してこなければ私は放置してもいいと思っている。
『…………実のとこ、僕は人間は滅んでいいと思っているよ。なんの利益を生み出さないし、それどころか害しか齎さない。……己の種が最も正しく高貴だという妄想に囚われ、他の種を見下し、滅しようとすらする種族なんてゴミ以下で僕の管轄する世界にはいらないから。一応、この世界で最初に生まれた種として大目に見て全ての人間に厳重注意とかしたけど、無駄だったし』
と私の質問にイスチーナ様は心底呆れた様子で答えた。あんな反吐が出る様な害獣どもに厳重注意するというのはイスチーナ様は優しい。私だったら文言無用で根絶させる。
「つまりは人間は見つけ次第滅ぼせと?」
『できればね?でも気が向いたらでいいよ。君たち『七大罪龍』にはそれを容易く行える力があるでしょ?』
「……………………わかったのじゃ」
イスチーナ様がそう言うならば私に異論はない。
そうして私は行動に移そうとしたとその時、
「ーーーーーー話は聞かせてもらいましたよ」
執務室の入り口から声が聞こえてきて、見てみると全身黒尽くめのコートを着た不敵に微笑むカグラがいた。
「……………カグラ、お前隠さなくなってきたの」
「………?なんの事でしょうか?私は依頼の都市の地盤調査の結果を伝えに来ただけですよ」
「そのついでに少年たちの観察をしておったじゃろ」
「なにを当たり前のことを言っているのですか?当然じゃないですか」
カグラは面倒見が良く、私たちのお姉さん的な常識人ではあるが、リアルな職業は同人作家でありショタコンである。出版しているイラスト集や漫画はほとんど歳半端いかない少年で満たされており、ちょっとあれな本も描いている。
物陰から少年たちを鼻息荒く見つめてノールックで少年の半裸絵を描いている光景は変態そのものである
バルザックがロリコンならばカグラはショタコンである。
「それでその龍脈の合流地点にある国を潰せば良いのですか?でしたら私が行きましょう。何故なら暇ですから」
とやけにやる気を出しているカグラ。
「暇だからと言ってなぁ………。本当の狙いはなんなんじゃ?」
「…………そりゃあ、ちゃんと2人を祝いたいからですよ。向こうでは色々バタバタしててようやく落ち着いた時にルナティアがこちらに連れてかれてしまったじゃないですか。だから、ちゃんとした場所を確保する為に私は動きます」
「………………カグラ」
「それに新しい同人誌のネタにもなりますからね」
「そっちが本音じゃろ。……………まぁ、ありがとうなカグラ」
私はカグラの言葉に嬉しくなった。
「それでは私はそこに向かいます。アリシアさん、こちらが地盤調査の結果でこちらが例のブツです。例のブツを開ける際は出来るだけ1人でお願いしますね」
カグラはそう言って、書類の束と茶封筒をアリシアに手渡して執務室を出て行った。
「…………………アリシア」
「なんだルナティア」
「その茶封筒はなんじゃ」
「…………………………………………………本だが?」
私が茶封筒について聞くとアリシアは長い間の後にそう答えた。
私はそこからなにも聞かなかった。




