魔王城の賑やかな騒動〜7
ガゼルの突然の求婚によりその場にいる三者はそれぞれの反応を見せた。
まずは求婚を受けたナザール。
無表情ではあるが僅かに目を見開いて視線をガゼルに固定して固まっている。ルナティア達がこの場にいたならばナザールのこの状態はあまりの出来事に思考が処理落ちしている状態だとわかっただろう。
続いてアンダルソン。
骸骨である彼は表情などわかりづらいが、顎を限界まで開けて固まっているところから大層驚いているのがよくわかる。
最後にグラマリーヌ。
彼女はガゼルのナザールへの求婚を聞くや否やすぐさま兵士達が集う訓練所へと向かった。やる事は1つ、兵士達にガゼルのナザールへの求婚を報告することだ。
三者はそれぞれの反応を示すなか、早くも復帰したのはナザールだった。
「…………………………なんの冗談だ?」
ナザールは絶対零度の様な冷たさをはらんだ声色でガゼルに聞いた。心なしか周りの景色も色褪せてきている。
「冗談ではない。俺は本気だ」
そんなナザールの雰囲気にもたじろぐ事なくガゼルははっきりと告げる。その目は曇りなく嘘偽りのない事を告げていた。
「………………はぁ。まずは名乗りを上げろ」
とナザールはため息をついて1番肝心な事を聞いた。
「ん?………おぉ、そうだった。俺は竜王国アニスフィア15代目竜王、ガゼフ・ドラゴロードだ。イスチーナ様の眷属って事になっているな」
「なるほど………理解した。先程の求婚だが、断らせてもらう。私には不要なものだ。それに私は自分よりも強い者か同等の者としか望まない」
「自身よりも強い者か………まぁ、道理だな。そんじゃ、俺と決闘をしてくれ。勝てば俺はお前よりも強いってことになるからな」
「…いいだろう、受けて立つ。どうせ断っても付き纏うつもりだろうからな」
「おう。感謝するぜ」
そうして2人はそのまま訓練所へと並んで向かった。
『ーーーハッ!ま、待て!待つのだふたりとも!!』
と遅れて再起動したアンダルソンは慌ててナザール達の後を追いかけていった。
訓練所はグラマリーヌの余計な報告により随分と騒がしくなっていた。
本来ならここで騎士団の男衆に物理的に血祭りにあげられるがガゼルは"世界最強"と云われる男である。それが二の足を踏む結果となっている。
もっとも、並んで歩いているナザールが纏う雰囲気にも影響されているが。
訓練所に着くや否や2人はそのまま訓練所の中心に向かい、相対する形を取った。
「…さて、お前の獲物はなんだ?」
「俺は生まれてこのかた拳一筋だ。そっちこそ武器は問題ないか?」
「私の本来の武器はこういった決闘では使い勝手が悪い。だからこれを使う」
ガゼルの返しにナザールは腰から下げていた訓練用の長剣を抜いて見せた。
「了解………さて、いつでもいいぜ」
ガゼルはそう言って自身の拳を打ちつけて気合いを入れた。
「…わかった。では、始めよう」
こうして、最強と云われる2人の決闘が始まった。




