魔王城の賑やかな騒動〜6
〜〜セシリアがカグラと楽しく会話をしているその頃〜〜
魔王国エンフィエルの騎士団は精鋭揃いである。厳しい審査で入団した後も万が一に備えて日々訓練を続けている。
その訓練はここ最近ではかなり力が入っている。
当初の理由としては勢力拡大していた人類軍に対抗する為ではあったが、現在は少し違う。今の主な理由はナザールである。
ナザールはアリシアからの依頼により騎士団の育成を頼まれてほぼ毎日訓練所に通っては騎士団の兵士達をビシバシ扱いていた。
ナザールは誰かを指導した事は無かったが、元々の才能かはたまた加護や称号の影響かナザールの指導により騎士団の兵士は目に見えて実力が上がった。
おまけにナザールは誰もが羨む絶世の美女である為、男衆で構成された騎士団のやる気の上昇にも繋がっている。
…………ちなみにナザールは女性人気も高く、ナザールを見る為にわざわざ訓練所に足を運ぶ女性陣もいるというのは別の話。
そんな首都郊外にある野外訓練所に向かう人影が2つ。ガゼルとアンダルソンだ。
「ーーーんで?なんでアンダルソンの旦那がついて来てるんだ?」
と軽い足取りで訓練所に向かうガゼルは隣を歩くアンダルソンにそう聞いた。
『貴殿が兵士相手にやり過ぎぬよう見張るためである。ただでさえアリシアの心労が大きいのだ。そこに貴殿が暴れて騎士団の兵士が大勢使いものにならなくなったら更に加速するからな』
「いや、流石に手加減するぜ?」
『そう言ってすぐ熱くなるだろう?』
「……………………」
アンダルソンがそう言うとガゼルは気まずそうに目を逸らした。
とようやく柵で覆われた訓練所に着いた。訓練所には兵士達の人集りが出来ており、何やら試合が行われていた。
『見えてきたな。………随分と盛り上がっている様だ』
「そうみたいだな…………ん?なんか飛んで……ッ!?」
ガゼルがもうぼんやりと眺めているとその人集りの中から1つの人影がガゼル達に向かって飛んできて近くに勢いよく墜落した。
『な、何事だッ!?……………グラマリーヌ嬢!?』
「………ん?……常識人と戦闘狂が来た。どうした?」
その飛んできた人物はグラマリーヌだった。
「いやどうしたはこっちのセリフだ。なんで飛んできやがったんだ…………」
「先生と一騎打ちして手も足も出ずに負けたから」
「『…………は?負けた?』」
グラマリーヌの短い説明にガゼルとアンダルソンは言葉を失った。
グラマリーヌはこの世界最強のガゼルといい勝負する程の強者である。そんな彼女が手も足も出ずに負けるなど普通ではあり得ないのだ。
とその時、
「…やはり頑丈だな。加減したとはいえ、ほとんど無傷か」
女性としては低く、それでもある種の綺麗さのある声が響いて来た。
ガゼル達が声がした方を見るとそこには絶世の美女がいた。
足まで伸びた闇色の髪を頭の上にぞんざいに束ねており、無表情ながら非常に整った気怠そうな顔に目は十字の瞳の金眼、長身の体型は女性ならば誰でも羨む様な抜群のスタイルである。
服装はシャツにズボンといった非常にラフな格好をしているが纏う気配は歴戦の剣豪そのものである。
そして、頭には鎌の様な黒塗りの角と剣の様に鋭い鱗に覆われた長い尾が生えていた。
「あ、先生。私は頑丈が取り柄なので」
グラマリーヌはその美女………ナザールを"先生"と呼び、そう言った。
「…そうか。それで?そこの2人はお前の知り合いか?」
とようやくナザールはガゼル達に視線を合わせた。
「そうですよ。骨が常識人で竜面が戦闘狂」
『そんな紹介はするでないグラマリーヌ嬢………。我は地下に存在する死霊族の王国アンブレラスの王、アンダルソン・テンプレスであります』
「…そうか。私は『七大罪龍』第一席"憤怒龍"ナザール・テンペストだ。まぁ、個性豊かな彼女らのリーダーみたいな立場の者だ」
『そうですか。ほらガゼル殿も挨拶………ガゼル殿?』
やけに静かなガゼルを不審に思い、アンダルソンはガゼルの方を見ると目を見開き文字通り固まっているガゼルがいた。
『……………ガゼル殿?どうしたのだ?』
「腹下した?」
アンダルソンの呼びかけにもグラマリーヌの軽い腹パンによるちょっかいにも反応しないガゼル。
…………そして。
「ーーー美しき姫騎士よ。どうか、俺の妃になってくれないだろうか?」
ガゼルはナザールの前に膝立ちとなり、ナザールに向かって求婚した。




