私と我の心の支え
久しぶりの主人公視点
…………………身体が非常に怠い。
あの鬼ごっこでリュウエンに捕まり、《時空魔法》で時間が延長された空間に閉じ込められた後、しっぽりと頂かれた。
しかも、私を動けない様に拘束して一方的に責め立てる超ハードプレイなものだった。
ちなみに私の可愛いリュウエンは現在、お腹と欲望が満たされて眠っている。
「………………べつに嫌じゃないんじゃが、するのとされるのは大違いじゃなぁ」
「お疲れ様です主様、紅茶かコーヒーに致しますか?」
と私が1人先程の情事について思い出しているとミラがそう聞いてきた。
「……………紅茶で頼む。少々、声を上げすぎて喉が痛い」
「かしこまりました」
そうして少し経つとミラは紅茶を持って来てくれた。
「ありがとうミラ」
「いえ、お気になさらずに」
ミラが淹れてくれた紅茶は美味しかった。
そうして静かに流れていく空気。私はこの空気が好きだ。なにも考えずにただぼんやりとできる私の居場所の1つだから。
元の世界では『nightmarememory』以外居場所がなかった様なものでそれ以外となると本当に片手で数えるくらいしかない。
その居場所の1つが雛の側だった。
彼女の側は心地良かった。彼女の側にいるといつも感じている虚な感覚が満たされていったから。
………………私は物心ついた時からどこか壊れていた。
父はアルコール中毒者で母は父からのDVで精神疾患を患っていて毎日の様に喧嘩していた。毎日それを見ていたおかげか私は他者に対して殆ど無関心になって感情が無くなっていた。
先に独り立ちしていた15歳年上の姉に引き取られてなければ今頃私は今以上に壊れて取り返しの付かない事になっていただろう。
姉との生活のおかげで今の私が形成されたがふとした拍子に壊れた私が出てくる。精神的に大きく乱れた時や気を抜いた時に無意識に自傷行為や破壊行為に陥るのだ。
特に危なかったのは高校に入学した年に自分の手にカッターを貫通するまで刺し続けて自傷行為に陥った時だ。あの時は幸いにも姉が慌てて止めてくれたからなんとかなった。
そんな私を心配してくれたのか姉は私に『nightmarememory』を勧めてきた。
ダークファンタジーの世界観で完全にアウトサイドのなんでもありのあのゲームに私はどっぷりハマり込んで思いっきり楽しんだ。
そんな時だ。雛に出会ったのは。
最初はなんでこんなお人好しなんだと思った。普通、見るからに危険そうな私を助けようとはしないだろう。
この頃から他人と関わる事が億劫になって来ていた私は最初は無視したり突っ撥ねたりしていた。
けれど、彼女は何故か私から離れようとはしなかった。
そうして私の方が根負けして一緒に遊ぶ様になり、今では最愛の人になっているものだから不思議なものだ。
雛はありのままの私を認めてくれた数少ない人だ。
ゲーム内でも慣れて、現実でも交流が始まり幾分か経ったある日、雛から好きだと告白された。
その時には既に雛には心を許していた私は自分のことを正直に話してそれでもいいのかと聞いた。
その結果が今の状態である。
とそうして今までの出来事を思い出していると後ろから誰かがのしかかって来て、桃の様な甘い香りがしてきた。
「おはよう、リュウエン」
私は後ろの人物にそう声をかけた。
「おはようルナちゃん。それとご馳走さま♪」
「我の魔力は美味しかったかの?」
「魔力も美味しかったよ〜」
リュウエンはそう言って私の隣に座った。
「………………なぁ、リュウエン」
「なぁに?ルナちゃん」
「ありがとうな。こんな我の側にいて、こんな我の事を好いてくれて。我はとても満たされておるのじゃ」
私はリュウエンにお礼が言いたくなりそう言った。
「な、なにルナちゃん?急に」
「いや、こうやって穏やか気分で過ごせる様に慣れたのもリュウエンが側にいて、我の精神への負担を小さくしてくれたからでもあるからの。おかげでまだ自傷行為などはしておらずに済んでおる。もし我がこの世界にただ1人であったならば、今頃全身傷だらけか世界がめちゃくちゃになっていたやもしれん」
「…………………そっか。確かにそうだもんね。ルナちゃん、寂しがりやだもん」
「……………寂しがりや?我がか?」
「そうだよ。誰かの側に居たい、誰かに見てもらいたい、誰かの温もりを感じていたい、そんな感情がルナちゃんから滲み出ているの。昔からね」
リュウエンに言われて私は不思議と納得できた。
そっか………、私は誰かと一緒に居たかったんだ。そして、その誰かはリュウエンなんだ。そう納得した。
またぼんやりとしていると今度はリュウエンは私を引き寄せて自身の膝の上に寝かせた。私はそれになんの抵抗をせずにただ身を任せた。
「ルナちゃんは知らず知らずのうちにストレスを溜め込むからね。私、知ってるよ?私たち『七大罪龍』と召喚した子達以外と会話したりするの無理してるでしょ?小鈴さんには慣れてきたみたいだけど、少しはね?」
「………………」
「もう大丈夫だよルナちゃん。ここには私たちしかいないよ。だから、安心していいよ」
リュウエンにそう言われると私の内側にある糸の様なものが切れて、身体の力が抜けていった。
「……………リュウエン」
「なぁに?ルナちゃん」
「我を……私をひとりしないで」
私はそのまま赤子の様に身体を丸めてリュウエンに身を寄せた。
身体の内側から寂しさを紛らわす為に自分を切り刻みたい、何かをめちゃくちゃに壊したいという欲みたいなものがじわじわと出てきている。
けれど、それはリュウエンの少し高くて心地いい体温と桃の様な甘い匂いと頭を撫でられる感触でさらさらと砂の山の様に崩れていく。
「わかっているよルナちゃん。寂しがりやの貴女を1人になんてしないよ。………ゆっくりでいいからね、ルナちゃんが落ち着くまではこうしていようね」
リュウエンは優しくそう言って私の頭を撫でていく。
「………………………うん」
私はリュウエンの声を聞きながら抗えにくい浅い眠りについた。
その時、視界がぼやけて見えたのはきっと眠かったに違いない。




