魔王城の賑やかな騒動〜4
バルザックとスルースが乱闘を始めて、小鈴と索冥が交流している食堂の別の場所ではアリシアとメアリーの姉妹揃って昼食をとっていた。
「……お姉ちゃん、大丈夫?」
「…………あぁ、大丈夫だ。問題ないさ」
「いや、真っ白に燃え尽きてて大丈夫に見えないけど………」
魔王城の食事は一部例外を除いて身分関係なくともに食事をする。これは魔王であるアリシアにも適応されることだ。そもそもこれはアリシアが魔王軍設立時に多種族に渡る部下との連携を取る為に行ったことがそのまま根付いたものである。
「なぁ、メアリー。聞いてくれよ。最近な、食が細くなるわ白髪が増えてくるわで大変なんだ………。仕事量はそんなにない筈なのに睡眠もあまり取れなくてなぁ………」
「それまずいよ。休暇取ったら?」
「そうするとなにが起こるかわからないんだ。少し目を離すと確実に何かしでかすからなぁ………あははっ」
力なく笑うアリシアになんとも言えない気持ちになるメアリー。
とそこへ…………
「お隣よろしくて?」
メアリーが声をかけられて見上げるとそこには真っ白で豪華な装飾がある軍服ドレスを着た真っ黒な目隠しをした片翼の天使……ティアムンクがいた。
「え、ど、どうぞ」
「ありがとうございます」
メアリーが了承するとティアムンクはお礼を言ってメアリーの隣に座った。ちなみに2人の昼食はアリシアはサラダとサンドイッチ、メアリーはオムライスである。
そしてティアムンクはというと目が痛くなる様な真っ赤な坦々麺に小山ができるほど一味唐辛子を盛っており、更にそこにラー油をドバドバとかけていた。
「……………なぁ、ティアムンク。ルナティアとリュウエンはどうしたんだ?」
アリシアはその真っ赤な坦々麺に胸焼けを起こしながらティアムンクにそう聞いた。
「お姉様ならリュウエン様に捕まって美味しく頂かれておりますわ。リュウエン様は肉食獣の様にお姉様へ飛び付いておりましたからかなり激しいプレイになっている筈ですわ」
「…………………………あぁ、そうか」
ティアムンクの回答にアリシアは痛む頭を押さえる様に机に突っ伏した。
「あらあら、お疲れですの?睡眠はちゃんと取れておりますの?取れていませんでしたら私の能力で良い夢を見せますけれど?」
「いや、遠慮する。なにを見せられるかわからんからな」
「あらあら、そうですか………。気が変わりましたらぜひ一度お試しを。……………それより、あれから調子の方はどうですか"フロイライン"?」
とティアムンクはメアリーの方を向き、そう聞いた。するとメアリーは目を見開いてティアムンクを見た。
「……………………もしかして、天使様?で、でも、あれは夢で………」
メアリーがそう聞くとティアムンクはニッコリと笑い、《アイテムボックス》から花冠を出してメアリーに被せた。
「……………ティアムンク。お前、メアリーになにをした」
妹の只ならぬ様子にアリシアは目に殺気を込めてティアムンクに聞いた。その目には場合によっては制裁を加えるという念が込められていた。
「私は現世と常世の狭間に存在する胡蝶の夢を体現した龍であり、現世の存在でも幻夢の存在でもあります。故に私は他者の夢に現れて干渉することも容易いことですわ」
「前置きはいい。さっさと話せ」
「………先日、いつもの様に夢の探索をしておりましたらこの可愛らしいフロイラインが精神干渉を受けて悪夢を見ておりましたの。その精神干渉は自我を崩壊させ操り人形にする類の物でしてね。親しい気配を彼女から感じましたので、助けに入っただけですわ」
「…………………本当かメアリー?」
ティアムンクの説明を受けてアリシアがメアリーに確認を取るとメアリーは申し訳なさそうに小さく頷いた。
「………………はあぁぁぁぁぁぁぁ」
アリシアはそう長いため息を吐いて頭を抱えた。
「ため息を吐き過ぎますと幸せが逃げてしまいますわよ?」
「ため息も吐きたくなる案件だ………。メアリー、なんで言ってくれなかったんだ」
「え、えっと、それは………」
「まぁまぁ、アリシア様。既に解決したことですし、良いではありませんか」
「いい事じゃない。まだそのメアリーに精神干渉をした輩がわかってないだろ。もしまたしてきたら」
「それについては問題ないかと」
「は?何言っているんだ」
「助けに入った際、そのお相手様方にちょっとしたプレゼントを贈りましたの。具体的にはその精神干渉に直接関わった人物全ての精神を崩壊させて発狂して踊り狂う様に自決するものですわ。そして、間接的に関わった人物全てに対しては死に至る程の強い悪夢を1週間程見てもらうことにしました」
くすくすと笑うティアムンクにアリシアは血の気が引く様な思いをして、今朝いつもメアリーに媚びを売っていた長老が泡吹いて発狂して自らの首をへし折って死んだ事を思い出した。
「………………まさか」
「………………どうやら御心当たりがある様ですわね。しかし、あの程度の呪詛返しでコロッと逝ってしまうなんて対策とかしてなかったのでしょうか?」
「いや、お前の呪詛が規格外だったのだろう。異界の呪詛ならば対策のしようが無い」
ティアムンクの疑問にアリシアは当然の事を言った。
この世界の呪詛系の魔法に比べて七大罪龍が持つ呪詛系の魔法の方が断然強い。しかもそれが呪詛系に特化したティアムンクのものであるならば尚更である。
「……………もっと強いのあるの?」
とメアリーが何を思ったのかティアムンクに聞いてきた。
「ありますわよ?あの時かけた呪詛は中の下で私がいた世界では非常にポピュラーなものですわ。故に対策のしようが山ほどあります」
「今度教えて?」
「私は構いませんが…………、よろしいですか?アリシア様」
「まぁ、自衛の為ならいいが、大丈夫なのかそれは」
「一概に問題ないとは言えませんね。呪詛とは返されたら最悪死にますから。まぁ、知っていて損はありませんから今度教材を持っていきますわね」
…………こうして、後日メアリーの夢の中でティアムンク監修の呪詛系魔法講座が始まった。




