眷属集合、波乱の幕開け
〜sideアリシア〜
会合当日……
私は緊張した趣で城の入り口に立っている。後ろにはバロメッツが控えている。
イスチーナ様の眷属はルナティア達を除けば私を含めて8人である。昔はもっといたが、人間に殺されたり天寿を全うして今の人数となった。
そして………目の前の空間が歪み始めて、最初の1人がやってきた。
「来たか」
現れたのは灰色の髪をした1人の女性だ。
腰まで伸びた癖っ毛の灰色の髪を無造作に1つに纏めており、乱雑に切られた前髪からは深い海の底の様な青い瞳が覗いている。服装はロングのケープコートに頑丈そうな黒のパンツと肌をまったく露出しないかっちりとした格好をしている。更に服の上からでもわかる豊かな胸元と、腰から臀部へのグラスのような曲線はナザールとはまた違った美しさを醸し出していた。
そして、肩には半端へし折られた身の丈程の真っ黒な大剣を背負っていた。
「顔合わせとしては久しぶりだなグラマリーヌ。調子はどうだ?」
彼女はグラマリーヌ・スブマリーノ。イスチーナ様の眷属で海に棲まう狩人だ。種族は鮫の亜人と奈落の住民のハーフらしい。
「別に。私はただ海を揺蕩う者。静かに身を任せるのみ」
とグラマリーヌはそう言うとスタスタとどこかに向かった。
「お、おい!どこに行くんだ?」
「散策。全員揃ったら戻る」
グラマリーヌはそう言って早歩きで消えていった。彼女は基本的に自由奔放でチームワークなど食えるのか?というくらい協調性がないのだ。そのため、いつも1人で行動している。
「やぁ!アリシア!ちょっと老けた?」
続いてやって来たのは小柄な少女だ。
金髪が輝く勝気な顔をした少女で見える小麦色の肌には小さな傷を無数にこしらえており、瞳は光り輝く深緑色をしている。服装は動き易い皮で出来た地下潜りに適した探検家の様な者で、両手には無骨な籠手を嵌めて背には剣とツルハシが一体化となった不思議な形状の武器を背負っている。
彼女はドワーフの国である地底帝国アビスカナトリアスの王で我が国の魔導具工房の工房長であるガルムトの妹であるセシリア・アビスカナトリアスである。
「………………そんなに老けて見えるか?」
「うん。前見た時よりも。……………やっぱり、ウチの兄貴がやらかしてる?」
「それもあるが……………色々あってな。だが、心配するな。最近はよく効く胃薬を処方して貰っているからな」
「なんか、ごめん」
私は昔から親交のあるセシリアを心配させない為にそう言ったが、逆に謝られた。
「お?俺が2番目か?」
次にやって来たのは大柄の竜のような姿をした男だ。
身長は2メートル近くあり、突き出た2本の角に長い鼻面、鋭い牙と爪と堅牢な鋭い黒色の鱗を備えており、歴戦を思わせる非常に屈強な体付きをしている。服装はズボンとマントのみという非常にラフな格好であり、武器の類は何も装備していない。
彼はガゼフ・ドラゴロード。我が国、魔王国エンフィエルと友好関係である竜王国アニスフィアの15代目竜王であり、"世界最強"と言われる男だ。
「貴殿は3番目だ。最初にグラマリーヌがやって来てどこかに行ってしまった」
「なんだよ濁流の嬢ちゃんが先か。久しぶりに手合わせしてぇなぁ」
ガゼフはそう言ってその竜面を凶悪に歪めた。これは彼の笑顔である。彼は最強の名を欲しいままにしており、よく喧嘩をふっかけている。つまり、今回1番の悩みの種である。
…………………ナザールと会えば確実に決闘を始めるだろう。そして、我が国に被害が出る。
それだけはごめん被りたいッ!!
「…………ガゼフ。どうか、今回は大人しくしていてくれ。頼む」
「お、おう?なんだかわからねぇが、わかった」
私がそう願うとガゼフはいまいちわかっていない様だった。
『随分と心労が絶えない様だな。アリシア』
「それはいつものことであろう」
次にやって来たのは豪華な法衣を纏った骸骨と悪魔の男だ。
骸骨は身長180センチほどで骨格は人間の物で色は闇の様な漆黒であり、眼窩には青白い炎が揺らめいている。服装は人間達の宗教で最も高い地位にいる法皇の様な豪華で非常に煌びやかな物を纏っている。そして、手には目が痛くなるくらい絢爛豪華な錫杖を手にしている。
一方で悪魔は神経質そうな長身痩躯で頭には捻れた山羊の角が生えており、漆黒の髪に紅と金のメッシュの隙間からのぞく鋭い眼差しは、威圧的ななかにもミステリアスな印象を宿している。服装は貴族風の服装であり、その者の風格を表していた。
骸骨の方は奈落の底に存在するアンデッドの王国アンブレラスの王アンダルソン・テンプレス。悪魔の方は悪魔族の頂点に君臨するディアボロだ。
「あ、久しぶりだねアンダルソンにディアボロ!最近調子どう?」
『我はアンデッドゆえに基本変わりない』
「私も同じ感じだ。最近は若い個体も大人しくしているから退屈している」
セシリアが今来た2人と会話しているのを眺めていると私の側で小さな落雷が発生した。その衝撃であわや吹き飛ばされそうになった。
「ーーーーおや失礼。大丈夫ですか?アリシア」
そう言って来たのは鹿の様な角を生やした少女だ。
背が160くらいの輝く様な銀髪を膝丈まで伸ばしており、顔立ちは神経質で刃物の様な鋭さがあり、青色の猫目をしている。体格は平凡そのもので目立った特徴はない。服装は黒地のキャミソールワンピースの上からクラシックロリータコートを肩にかけている。そして、頭には鹿に似た角と腰からは牛の様な尾を生やしていた。
彼女はこの世界の仙人、神獣"麒麟"の天鳳 索冥である。
「もう少し、静かに来れないのか?」
「こればかりは体質ゆえにすみません。………この辺りに仙力が感じますが、仙人でもいるのですか?」
「『七大罪龍』に1人、神狼の仙人が1人いる」
「なるほど、それでは後ほど挨拶に向かいましょう。そのおふたりはどの様な人で?」
「1人はタルザリアの姫君で常識人、もう1人は基本的に洞天というやらに引き篭もっている」
「洞天にですか………。なら、会うは難しいですね。…………………ん?」
と索冥と話していると前方に扉が現れ、そこから小柄な少女が出てきた。
背は150センチほどで金色の肩ぐらいの髪にワインレッド色の眠そうな瞳を備えた可愛らしい少女で、非常に保護欲を唆る見た目だ。服装は肩出しで開いた胸元のドレスにミニスカートと露出過多なゴシック調で、腰には薔薇が装飾された長剣を差しており、背には私と同じく蝙蝠の翼を生やしている。
彼女はメアリー・ブラッドエンフィ。吸血鬼の国カタキムルバスを支配する女王で先祖返りを果たした"真祖"であり、…………私の実の妹だ。
「久しぶりだなメアリー。元気だったか?」
「…………お姉ちゃんは疲れてるみたいだね」
私が声をかけるとメアリーは素っ気ない態度でそう言った。
「メアリーさん。貴女、いつも側にいるあの老害はどうしましたか?姿が見えないですけど」
と索冥に言われて初めて気づいた。
彼女が言う老害とはカタキムルバスの貴族であり、長老と呼ばれるタヌキだ。いつもメアリーに媚を売っていて私も嫌いな人物だ。
「彼なら死んだ。なんか泡吹いて発狂して自分の首をへし折ったみたい」
「………………は?なんでそんな」
「知らない。それより早く案内して」
こうして私たちイスチーナ様の眷属が揃い、波乱の日が幕を上げた。




