ルナティアを慕うモノ
〜sideリュウエン〜
「そういえば………お姉様を王と慕う種族っているのでしょうか?」
とある休日。みんなでのんびりとリビングで寛いでいるとティアムンクがふと思い出したかの様にそう言った。
「どういう事?ティアムンクちゃん」
「いや、ほら。あのケモミミロリっ子神様曰く私達『七大罪龍』はこの世界に於いて一握りの上位者でありましょ?リュウエン様は精霊の女王、バルザック様は海の王、ナザール様は竜の女王、スルース様は神獣と幻獣の王、カグラ様は大地の女王、そして私は死霊系統の女王と呼ばれています。しかし、お姉様を慕う種族は今まで見たことないのですわ」
そういえば……とティアムンクの言葉に納得した。
確かに私たちは道行く度にそれぞれの種族に慕われている。この世界はそういった上下関係がはっきりしていて最近ではあの魔王軍で1番変わり者と言われているドワーフのガルムトさんがカグラを見てそれはもう周りが引くくらい畏まった。
上司で魔王であるアリシアさんにすら敬語を使わないのにカグラにだけ使って、周りの人の口をあんぐりとさせた。
そういった視点で見ると確かにルナちゃんに畏まっている種族は見た事ない。
「………で?どうなんやルナ。実際のところは」
とバルザックがルナちゃんにそう聞いた。本人に聞いた方が手っ取り早いからだ。
「ん?普通におるぞ。最初は驚きはしたが、もう慣れたのじゃ。ここ最近、毎日来るからのぉ」
「…毎日来る?どういう事だ?」
ルナちゃんのあっけからんとした言葉にナザールは訝しげに聞いた。
「そのままの意味じゃ。彼奴ら、ドアとか壁とか意味を成さんからな。普通に入ってきて、挨拶をしてくる。たまに手土産も持ってくるのじゃ。……ほれ、今もそこにおるじゃろ」
私たちはルナちゃんが示した方を見たけど、そこには誰もいなかった。
「る、るな姉。冗談はやめてよ」
幽霊や心霊が大の苦手なスルースが怯えた様子でそう言った。
「いや冗談ではない。現にそこで手を振っておるじゃろ」
そう言われてもやっぱりそこには誰もいない。少し光の加減で薄暗く見えるだけだった。ルナちゃんはこういった場面で冗談を言う様な性格ではない。つまりは…………本当にそこにいるのだろう『何か』が。
「ね、ねぇ、ルナちゃん。その子の種族ってなんでいうの?」
「む?種族?それは『蜉ゥ縺代※』じゃよ」
『『…………………………え?』』
「いやだから、『蜉ゥ縺代※』……………あぁ、なるほど。ヌシらはあっち側には来ておらんかったな。これはすまんすまん」
ルナちゃんは少し笑いながらそう言って流した。
なんでだろう。何故か種族名だけ聞き取れなかった。いや、聞こえてはいたけど本能が『聞いちゃダメだ』と拒絶したみたい。
私は少し怖くなった。
***
その日の深夜。私はふと目が覚めてしまった。
「………ぅん?…………るなちゃん?」
寝起きで頭が回らず、ぼんやりと隣を見るとルナちゃんはいなかった。居た痕跡はあるけど、布団は冷えていて随分と長い時間居なくなっていたみたいだった。
「…………どこにいったの?」
私はルナちゃんを探すべく部屋を出た。
部屋の外は薄暗く、灯りは消えていた。私は光の精霊を呼んで灯りにしようとしたけど……。
「あれ?どういうこと?」
精霊は私の呼びかけには応じず、姿を見せなかった。それどころか精霊の気配がまったく感じなかった。私は自分の身体を構築する魔力を薄く拡散されて離宮内を調べてみた。けれど、なにもいなかった。
「…………………」
私は《アイテムボックス》からメイン武器である『焔昇天・鉄火扇』を出して警戒しながら進む。
「………みんな、どこに行っちゃったの?」
おそらく、この離宮は人避けの結界で包まれているのだろう。
けど、一体誰が?
1番怪しいルナちゃんは人避けの結界を作れない。作れるのは人喰いの結界など非常に物騒なものだ。この離宮にはその結界の気配はしない。
『ーーーー、ーーーーー?』
『ーーーーー、ーーーーーーーー』
とリビングから2人ほどの話し声が聞こえてきた。片方はルナちゃんの声だ。もう片方は幼い少女のものだ。
リビングの入り口に着くと入り口の扉が少し開いていた。そこから声が漏れ出ている様だ。
『ーーーー。ーーーーーーーー』
『ーーーーーーーー、ーーーー』
私は入り口の側まで来て違和感に気づいた。だって、2人ともまったく知らない言語で話していたから。
私たちには《翻訳》というスキルがこの世界に来た時に付与されている。効果は名前の通り、あらゆる言語や文字を理解出来る様にするというものだ。その翻訳は言葉であるならば例外は無い。
………………だというのに、2人の言っていることがわからなかった。
私はルナちゃんに気づかれない様に入り口からそっと覗いた。
そこにはソファに座ったルナちゃんとルナちゃんの前に立つナニカがいた。
見た目は茶髪の長身で病的なまでに色白でやせ細った肉体、後ろ姿そのものは白人の少女にしか見えない。けれど、私にはソレは少女には見えなかった。もっと別のおぞましいナニカだった。
「ルナちゃんッ!!」
私はたまらず部屋に入った。
「なっ!?リュウエン!?お前、なんでこっち側に来ておる!?」
ルナちゃんは酷く驚いた様子で立ち上がり、ルナちゃんの目の前に立つナニカは依然私から見て後ろを向いたままだ。
「今すぐルナちゃんから離れてッ!!」
私はそのナニカに向かって最大火力の《爆炎魔法》を叩き込むために詠唱した。
「待てリュウエンッ!!攻撃をするなッ!ソイツを直視するなッ!!」
「ーーーーーーーーえ?」
ルナちゃんの叫びで私は詠唱を止めてしまった。
そして、私の方にソレが振り返った。そして、見てしまった。
その顔には鼻と目が無くテびっしりと歯だけがあっテ、テ、テt諤i匁悶縺弱k蜉ゥ縺蜷梧悄逕溘ーーー
………………。……………………………。
ブツンッ
***
「ーーーーうぇっ?あ、あれ?」
気づくと私はベッドの中にいた。私……………あれ?
「お、起きたかリュウエン」
私が混乱していると備え付けのシャワー室からルナちゃんが出てきた。
「昨日は随分うなされておったが、大丈夫かの?」
「え、だ、大丈夫だよ。それよりルナちゃん、昨日の夜なんだけど………。誰かと話してた?」
「昨日?誰とも話しておらんし、ずっとお前の隣で寝ておったぞ?」
私は昨日の夜のことをルナちゃんに聞いたけど、ルナちゃんはなんでもないかのようにそう言った。
「え?じゃあ………夢?」
あれが夢だとしたら、あんなにも鮮明になるものだろうか。あのナニカは…………あれ?そもそも私、何を見たんだっけ?
「お、おい、ほんとに大丈夫かの?顔が真っ青じゃし、身体も震えておる。どこか具合が悪いのか?」
私が昨日のナニカを思い出そうとした時、ルナちゃんは心配そうに私の側に駆け寄った。ルナちゃんに言われて私は自分の身体が異様なくらい冷たくなって、汗をダラダラとかいて震えていることに気づいた。
「………………ちょっとシャワー浴びてくる」
私は気持ちを落ち着かせる為にシャワー室に向かった。
………………………アレは思い出しちゃ駄目なやつだ。
「ーーーーやはり後遺症が出たか…………。いくら直視した記憶を抹消したとしても肉体が覚えていては駄目じゃったか。ーーーーなんじゃ?別にお前さんの所為ではない。あまり気にするでない。アレは我が結界を甘く敷いた所為じゃ。お前さんの責任ではない。…………………しかし、まさかリュウエンがあっち側に行ってしまうとは誤算じゃったなぁ。ーーーーなるほど、それもあるか。ならば、結界を強めるか。ーーーーあぁ、わかっておる。…………………………はぁ、どうケヤするか」




