いざ、海へ
2本投稿2回目。こちらが本編です
とある深夜の執務室にて、アリシアはバロメッツからの報告に難しい顔をした。
その知らせは海上保安庁本部からの通達だった。
「遂にこの時期が来たか…………」
「……………えぇ、スクアーロ本部長も出来る限り被害を食い止めてはいますが、やはり数が多く漁業産業が打撃を受けている様です」
「……………そうか」
アリシアは席を立ち、暗闇が広がる窓の外を眺めた。その先には海上都市があり、今も海上保安庁が現在起こっている海の悲劇に対処しているのだろう。
その悲劇の名はーーーー『赤き悪夢』
とある海の生き物が大量発生し魔王軍にとって最も被害をもたらす自然災害である。
***
「…………粉もん食いたい」
私が仕事をしているとバルザックがやってきてそう言った。
「小麦粉なら普通にあるじゃろ。お好み焼きでも何でも作ったらどうじゃ?」
「いや、そうやけど。そうなるとたこ焼きやイカ焼きも食いたくなるやろ?この世界、何故かタコやイカが売っておらんのや。小鈴に聞いても知らない様やったし」
バルザックはそう言って項垂れた。ちなみに今は騎士団の依頼により訓練用の剣を打ち直している。
「なら、たこ無したこ焼きでも作れ。材料はやるじゃろ」
「そんなもん、ただの小麦粉団子や!ウチはたこ焼き食いたいんや!というか酒のつまみにスルメも食いたい!」
そう言ってバルザックは駄々をこねた。
確かに私もたこ焼きが食べたい。更に言うと刺身が食いたい。けれど、この世界だとたこはおろか魚介類を生で食べるという風習はないそうだ。まぁ、衛生管理上仕方ないことだ。
「あぁ、バルザック様。こちらにいらっしゃいましたか」
とここでバロメッツさんが入ってきた。
「なんやバロさん、ウチに用があるんか?」
「えぇ、少し海に関して頼み事がありまして…………。この時期になると大量発生するレッドデビルの対処をしていただきたいのです」
バロメッツさんはバルザックに申し訳なさそうにそう言った。
「レッドデビル?赤い生き物が大量発生してるんか?」
「………はい。奴らの所為で我が国の漁業が大打撃を受けておりまして」
「その生き物の絵とかあるん?」
「えぇ、こちらに」
そう言ってバロメッツさんから1枚の絵を受け取って眺めたバルザックは目を見開いて立ち上がった。
「ルナッ!すぐに穴あき鉄板とパエリア用の鍋作れッ!!」
「な、なんじゃ急に……どうしッ」
私が理由を聞こうとするとバルザックは手に持っていた絵を私に突き出した。そこには丸みを帯びた8本足の軟体生物が描かれていた。というかこれって……………
「タコやっ!!やっぱこの世界にもタコおったんや!!踊り食いできんぞ!!タコパーティや!!」
「いやタコの踊り食いなんて気が進まんじゃよ………。せめて他の魚も欲しいんじゃ」
「…ルナティア」
バルザックが涎を垂らしながら目を輝かせて叫んでいるのを鬱陶しく思っていると新たな来客が来た。
「なんじゃ姉、上……………………………なにやってんじゃお前は」
私がナザールの方を見るとナザールは頭にねじり鉢巻をして厚手の上着にマリンサロペット、ゴム手袋に長靴といった誰がどう見ても漁師の格好をしていた。そして背にはモリと釣竿、タモなどをばっちり完備していた。
「…行くぞ」
「……………………どこに」
私は頭が痛くなりそうになりながらも聞いた。
「…海だ。タコ狩りの時間だ」
「いや我は行かんし、というかどこから情報得た?」
「…騎士団からだ。さぁ、行くぞ。茹でタコに刺身にタコ焼き、パエリアカルパッチョマリネ炊き込みご飯ッ」
「待て待て待てッ!怖いッ!怖いから無表情でそう連呼しながら来ないでくれッ!」
ナザールはズカズカと目を爛々と輝かせ、口から涎をダラダラ流しながら無表情で私に近づいてきた。
………………………というかコイツこんなだったけ?
「ルナちゃーん!!」
とここで私の救世主がやってきた。
「リュウエンっ!なんかあの2人がおかしくなったの、じゃ………」
やってきたリュウエンを見るとリュウエンはナザールと同じ様な格好をしていた。
「タコ狩り行こうッ!!」
パァっと輝く笑顔をしてそう私に言うリュウエン。もちろん私の回答は………
「よしわかった。すぐに鉄板と鍋作るから待っておれ」
リュウエンが行くなら私も行く。それは自然の摂理である。
そうして、私たち『七大罪龍』全員、魔王領の端っこの海上都市に向かった。




