祝会
「…それでは『七大罪龍』の再集結を記念して、乾杯」
『乾杯ッ!!』
カグラについての色々な後処理を終えた後、私たちは街の酒場にて再集結を祝う宴を開いた。目の前のテーブルには所狭しと料理が並び、酒の方はバルザックの事業により豊富な品揃えとなっている。
天人族の子供達に関してはカグラは元々、子供好きであるという事で喜んで引き受けてくれた。今回は彼女の契約獣であるケットシー達と小鈴さんが子供達の世話を引き受けてくれている。
「それにしても、この世界は過ごしやすいですわね。これも空気中のマナというものの影響でありましょうか?」
樽ジョッキを丸々ひと息で飲み干したティアムンクがそう言った。
「それもあるかもね。でもやっぱり、束縛がないからじゃないかな?『nightmare memory』だとやっぱりゲームシステムとかあったし、無意識のうちに束縛を感じていたと思うよ」
そうスルースが口いっぱいに肉を頬張って言った。
まぁ、確かにそうかもしれない。
『nightmare memory』というゲームのプレイヤーであった私たちの今の身体が覚えている感覚からしてあの世界は退屈極まりなかった様だ。しかし、今は満ち足りた感じがする。
「そうやな〜。ほんまこの世界に来て向こうよりも満ち足りた感じがするわ〜。にゃはは!」
「…お前は可愛い嫁が出来たからな」
既に樽を2つ開けた酒豪の2人は顔を少し赤くしてそう言った。
「ほんとそれですよね。まさかあのバルザックにあの様な可愛らしい嫁さんが出来ているなんて…………一体どんな風の吹き回しですか?」
カグラは樽ジョッキに満たした果実酒をちびちび飲みながらバルザックにそう聞いた。
「なんでみんなしてウチの結婚に驚くんや………。ウチだって結婚くらいするわ」
「だって小さい子供にしか興味無くて自由を愛する海賊女帝である貴女ですよ?そんな貴女がうら若き美しい姫を娶るなんて……向こうではあり得ない話ですよ」
カグラがもっともな事を言うとバルザックは膨れっ面になり、気を紛らわせる為か継ぎ足した酒を呷った
「それよりバルザック様。貴女、後継はどうするのでありますの?小鈴様は一国の姫君でしょう?一族の血を絶やさぬ為にも夜伽は必要ではありませんか。貴女生えていますし、出来るではありませんか」
ティアムンクはそうバルザックに爆弾を投下した。そして、バルザックはティアムンクの言葉に驚いて咳き込み、その拍子で椅子ごと倒れた。
「おまッ!なに言ってるんや!!こんな場所で話すことじゃないやろがッ!!」
バルザックは顔を真っ赤にさせてティアムンクに叫んだ。顔が赤い理由は酒ではない………筈だ。
バルザックはリアルの方では両性具有者である。ソレ以外は完全に女性であり、昔から随分と苦労してきた様だ。この世界に来た時も付いてきたように生えたそうだ。まぁ、バルザックの今の種族自体が両性だから無くしたりも出来るそうだから、普段は消しているそうだ。
「…で?実際のところはどうなんだ?」
とナザールが無遠慮にそう聞いた。
「いや、それは…………その………」
全員が注目する中バルザックはどんどんと萎んでいった。そして、語り始めた。
「…………………そりゃあ、ウチだって子供は欲しいとは思っとるよ。けどなぁ、小鈴は体が弱いからウチのに耐えられるかわからんのや。それで小鈴がいなくなったりしたら………ウチは嫌なんや」
『………………』
バルザックの言葉に私たちは納得した。確かに大切な人が居なくなるのは………嫌だな。
とその時、
「それなら問題ないよ。小鈴さん、仙人になってるし」
バルザック製日本酒を瓶ごとラッパ飲みしていたスルースがそう言った。
「ーーーーーーーーは?」
バルザックは『何言ってんだこいつ』という顔でスルースを見た。
「バル、いつも小鈴さんといるでしょ?バルから漏れ出ている龍の気と小鈴さんが元々持っていた仙力が混ざって仙人紛いになっていたんだよ。小鈴さんが体が弱かった理由は体の中の仙力が器に合ってなかったわけ。そこにバルの龍の気が入って安定してね。それをボクの仙薬で調整して仙人になったというわけ」
「つまりそれは、小鈴さんはスルースに近い存在となってバルザックのを受け止めるのも問題無くなったわけかの?」
「正確にいうと小鈴さんは神狼の仙人、つまりはフェンリルの仙人になったんだよ。小鈴さんの血筋の原点はフェンリルの獣人みたいだったみたいだからね〜、ほんと偶然だよ」
私の問いにスルースはそう補足して肯定した。すると、バルザックは机に頭を打ちつけた。
「そういうことやったか………………。道理で最近やたら迫ってくるわけや…………」
「…精力剤を飲まされそうになったり、意図的に誘い込もうとしてきたりか?」
「そうやけど…………なんで知っとるんやナザール」
「…私が助言をしたからだ」
「お前かぁーーーー!!なに人妻に吹き込んでるんやぁ!?」
珍しく酒に酔ってバルザックを揶揄っているナザールを見ているとふと袖を引かれた。隣を見ると顔を赤くしたリュウエンがいた。
「な、なんじゃ?リュウエン」
「ルナちゃん……私、子供欲しい」
「いや、欲しいもなにも、我もお前もバルザックの様にないじゃろ」
本音を言えば私もリュウエンとの子供が欲しい。子供というのは愛し合う2人の結晶であり、宝物である。しかし、残念ながら現実的に私たちの間に子供はできない。
「………………欲しいの。ルナちゃんとの子供欲しいのぉ」
「え、ちょっと待てリュウエン、お前酒に酔ってぇッ!?」
私はそのままリュウエンに押し倒されて、リュウエンは私の上に馬乗りとなった。
「ねぇ、いいでしょルナちゃん。いいよね?だって私たちは愛し合っているんだからぁ」
焦点が合わないリュウエンはそう息を荒くして言うと上着を脱ぎ始めた。私はそれをステータスにものを言わせて起き上がり慌てて止めた。
「ちょっと待てッ!?ここで脱ぐなッ!周りの目があるじゃろが!?」
どうやらリュウエンは酔うとこうなるみたいだ。
「ルナちゃん………私のこと嫌いなの?」
私が止めるとリュウエンは紅玉の様に輝く瞳に涙を浮かべてほろほろと泣き始めてしまった。
「そんなわけないじゃろ。我がお前を嫌いになる理由などどこにも無い。我が愛するのはリュウエン、お前だけだ。子供については我々の性別上、無理がある。だが、その分我はお前を大切にするのじゃ。………わかってくれたか?」
私は泣いているリュウエンを膝に乗せて宥めながらそう言った。
「そうだよね………。無理だよね………。なら、それを証明する為に1発ヤろうよ!」
泣き止んだリュウエンはそう言うと笑顔に戻りまた脱ぎだす。
「待て待て待てッ!だからなんでここで脱ぐぅ!?そういったことは帰ってからじゃ!」
「お姉ぇ様ぁ!!ティアともしっぽりねっとりやりましょうっ!!アッハハハハハ!!!」
と顔を真っ赤にして口から涎を垂らす変態が前をはだけさせて迫って来た。
「テメェはお呼びではないッ!!去れッ!!」
こいつも酔っ払っていやがる………。いや、いつも通りか?
そうして私は迫り来る愛する妻と変態を彼女達が眠るまで理性と精神をすり減らしながら対処した。
その間、残りのメンバーは私達の攻防を肴にして楽しんでいた。




