全てを消し去る概念の一撃
しつこい汚れには適切な処理を
私たちはスルースの洞天内の庵……名前は垂水庵だそうだ……で私たちは天津が入れた茶を飲みながらルナティア達が作ってくれた饅頭を食べている。
「うまうまうま………………」
スルースはハムスターみたいに饅頭を口いっぱいに頬張り、幸せそうな顔を浮かべている。
「これ、りゅう姉とるな姉が作ったのぉ?」
「…そうだぞ。ちなみにその餡はバルザックが作ったやつだ」
私がそう言うとスルースは嫌そうな顔を浮かべた。
「……何か入れてないよね?アイツ」
「…ルナティアとリュウエンが見張っていたから問題無い。それに、彼奴もお前のことが心配だから変なことをしない筈だ」
「………………饅頭に罪は無い」
そうしてスルースはまた食べ始めた。饅頭の減る量が少しばかり遅くなったが。
「…確かにな。………そういえば、いつからこの世界に来たのだ?」
「…………いつ?………………いつだか忘れちゃったよ。天津覚えてる?」
「私が召喚された時期から大体1か月と少しでしょうか。ここは時間の進みがあまり認識できませんからねぇ」
つまりはそれだけの時間、この神山に居座っていたという訳だ。
「…なるほど、ルナティアが怒ってラグナロクを打った辺りか」
「あ、やっぱりあの光、るな姉のラグナロク?一体何があったの?」
「…人間どもが精霊を奴隷扱いしていてな。その国と周辺諸国を丸ごと潰した。まぁ、それからは色々あったがな」
私は今まであった事をスルースに話した。もっとも、私がこの世界に転生して来てからの話だが。
「ーーーーうそぉ!?あの変態が結婚したのぉ!?しかも、一国の姫なんてッけほっけほ」
バルザックの婚約の話になった時、スルースは驚いて叫んだが咳き込んでしまった。スルースはあまり叫ぶのが得意ではないからな。
「…無理して叫ぶからだ。落ち着け」
側にいた天津が慌てて水を用意してスルースは一息で飲み干し落ち着いた。
「はぁ………ありがとう天津。………その姫様、騙されてない?」
「…問題ないだろ。むしろ、その姫からバルザックを襲ったくらいだからな」
「………………………うそぉ」
「…信じられないのも無理はない。………して、お前は何故こんな目立つ場所で洞天を開いたのだ?他にも候補はあっただろ?」
場所とか無頓着であるスルースだが、何故こんなにも厄介な場所に洞天を構えたのだろうか。私はそれが気になった。
「……むぅ?ここに居る理由?…………………見てもらった方が早いかなぁ。なぁ姉、こっち来てー」
スルースはそう言って立ち上がって私を奥の小窓に案内した。
その小窓に映っていたのは数十人の人間の男女が宙に浮く岩……要石に吊るされており、その要石の下には禍々しい色の火の玉が入った瓶が置いてあった。
「…………なんだあれは?」
「るな姉のクラスメイトと教師、あと瓶はナシアナのなれ果て。ここ、あの女神の復活する場所みたいで魂と身体があれば復活するみたい。それで身体っていうのはあそこに居る転生者みたい」
「…つまり、私たちがいくら潰しても復活するというわけか」
まるでがん細胞だな………。
「そうだよ。少し前にアレから神の気配が消えたんだけど、それでも復活しようと藻搔いているよ。……………ほんと気持ち悪い」
スルースは心底嫌そうな顔をしてそう呟いた。
「…アレを転生者もろとも破壊すればいいのか?」
私はスルースにそう聞いてみた。
私の『十神剣・邪悪の樹』を使えばあんなものこの世から魂の一片も残さず消滅させることができる。
「……そうだけど。………なぁ姉?お願いしてもいい?」
スルースは申し訳なさそうにそう聞いて来た。
……………優しい子だ。こんな私のことを心配してくれている。おそらく、やれるなら自分でやっていただろう。それが出来なかったから世界中に散らばる転生者とあの女のなれ果てを見つけ出して封じ込めていた。
私は心配そうにしているスルースの頭を撫でてからそこに向かう。
"人殺しをして心が痛まないのか"だって?
この身体になってからそんな感情は湧かなくなったし、はじめて人を殺した時も蚊を潰す様な感覚だった。
それに、彼奴らは私の妹をいじめて挙げ句の果てには殺した。教師も見て見ぬふりをしていたから同罪だ。
………………それを言ったら、私も同罪か。
私は何もできなかった。あの子がいじめられているのを知っていながら何もしなかった。他人の顔色を伺って遠回りしていたら、助けられてた筈のあの子を失ってしまった。
助けられる立場にいたのにも関わらずだ。
今は姿が変われどあの子が笑顔でいる。愛する者と過ごして、伸び伸びとしている。笑ったり、怒ったりと感情を露わにしている。
私達が生きていた世界であの子は感情を押し殺してとても生きづらく過ごしている様に見えた。
そんなあの子がようやく笑えるようになったのだ。家族の幸せを願うのは誰にでもあることだ。あの子を傷つけるのなら容赦はしない。不安要素の除去は早めにするのが鉄則だろう。
要石に着いてみるともう既に起きていたのか転生者達は藻搔いている。何か叫んでいるが、生憎とその声は私の心に響かない。
「…貴様らには私個人としての恨みはない。だが、貴様らがいると迷惑なのでな。ここでそこのなれ果てごと消えてもらう」
あの子の笑顔が曇る要因は排除する。例え、この手が血で塗れようとも。それが不器用で愚かな私ができるあの子を守ることが出来なかった罪への贖罪だ。
私は『覇者の威圧』を最大火力で発動し、私の愛刀であり世界に1つしか無い神剣『十神剣・邪悪の樹』を取り出す。
『覇者の威圧』は使い勝手は悪いが、相手の意識を取らずに精神狂わせずに拘束できる。このスキルを獲得しておいて良かったとしみじみ思う。
【起きろ、お前たち。仕事の時間だ】
私が邪悪の樹に呼びかけると私の背後に10本の剣が出現する。光すらも吸収する闇色の大小様々な10の剣にはそれぞれ邪悪の樹の様々な悪徳と悪魔の名が刻まれている。
【…《サタン・バチカル》、《ベルゼブブ・エーイーリー》、《ルキフグス・シェリダー》、《アスタロト・アディシェス》、《アスモデウス・アクゼリュス》、《ベルフェゴール・カイツール》、《バール・ツァーカブ》、《アドラメレク・ケムダー》、《リリス・アィーアツブス》、《ナヘマー・キムラヌート》。我が元に集結しその力を解放せよ】
10本の剣は銘を呼ばれるとその刀身に宿す魔力を解放し、形状を変化させる。ある剣は刀身を10メートル以上に変え、ある剣は両刃斧に変わり黒き煉獄の炎を宿し、ある剣は針の様に細くなり極氷の冷気を纏わせている。
あまりの魔力により洞天の結界が壊れていき、外部の世界が露わとなる。空は赤黒く染まり、太陽は月に隠れ日食を起こしている。世界が悲鳴をあげるかの様に地鳴りが続いている。
【…そこは三重のヴェールに包まれし三界の水に満たされし偽りの海なり。いと高き者どもの地獄の奈落に落ちし愚者達に告ぐ。我は死の土の破壊された墓穴から這い出た者を消し去る死の影なり。今こそ地獄の門は開きその身を地獄の底へと誘わん】
私は構わず詠唱をする。10本の剣は私の手にしていき、一振りの大剣となる。私が上段の構えを取ると闇色の光の柱を形成し、余波で周りを破壊していく。
【さぁ、破滅の時だ。その目に焼き付けるが良い。ーーーーーーーー《ラグナロク・ゼロ》】
私が剣を振り下ろせば、世界から色が消え、音が消え、概念も、摂理も法則もあらゆる全てが世界から消えた。
ルナティアのエクスマキナ艦隊の最高火力である神殺しの一撃 《ラグナロク》。その元となった世界すらも消し去る概念の一撃。
その力を一点に集中させて世界への影響を極力無くしていき、なれ果て達を平行世界の存在もろとも消し去った。斬撃の余波により山脈は塵となり消えて、底の見えない巨大な渓谷を形成し、延長線上にあった国々は自分の最後すら理解できずに滅んだ。
こうして、人類破滅への歩みは更に加速した。
『七大罪龍』内の強さ順列設定
総合戦闘力はダントツでナザール。次点でバルザック (海限定)。
魔法はリュウエンが1番で次点はスルース。
防御はカグラ (現時点で未登場)が1番で次点がルナティア。
殲滅力はルナティアが1番で次点はティアムンク (現時点で未登場)。
ただし、精神的な観点から上下する




