断罪と自覚
さて、朝から随分と騒がしい。
理由はただ1つ。あの馬鹿タレが遂にやらかした。あの野郎、小鈴さんを襲わないと誓いを立てたにも関わらずそれを破って挙げ句の果てにはそれを覚えてないときた。
「…被告バルザック・セレスト。貴様は自ら誓いを立てたにも関わらずそれを違え、あまつさえそれを記憶に無いと豪語した。……私の権限により貴様を有罪に処す」
「異議ありッ!!」
「…却下する。貴様には異議する権限はない」
ナザールの冷え切った声によりバルザックの異議はぶった斬られた。
ちなみに現在バルザックは簀巻きにされて吊し上げられている。そしてその下には煮えたぎる油が入った大鍋がある。
場所はきらきらと輝く白い浜辺である。
「…さて、バルザック。言い残すことはないな?それでは行くぞ」
「え、ちょッ待てや!話聞いて『ボジュンッ』アンギャアアアアアアアアア!?!?」
ナザールはバルザックの意思を真っ向から無視して鍋に入れる。バルザックの絶叫と油が焼ける音が響いていく。
「あ、あの!ば、バル様は大丈夫なのですか!?」
「心配ないんじゃよ。あれくらいでは我らは死にはせん。あれはまぁ、なんというか………我らの中でのケジメというやつじゃ」
現在進行形で唐揚げになっていくバルザック。なんだか焦げ臭い匂いがしてきた。
「おーい、姉上ー!そろそろいいんじゃないかのー?」
「…確かにな」
ナザールはそう言って煮えたぎる油に素手で突っ込み、バルザックを引き上げて雑に海に投げ入れる。
「ギャアアアアア!!!」
うん、いい悲鳴だ。………何故助けないのかって?そりゃあ、自業自得だし巻き込まれたくないし。
「こんな場所で何をしておられるのだ?皆の衆」
とここで銀鉄さんがやってきた。
「バルザックへの制裁である。彼奴が誓いを違えたからな」
「……誓いを?一体なんのことで………」
「ーーーーーーーー銀鉄殿ォォォ!!!」
ドパンッ!と海が爆ぜて完全復活したバルザックはすぐさま銀鉄さんの元に行き、スライディング土下座 (砂浜バージョン)をかましながらやって来た。
「ウチは銀鉄殿に立てた誓いである其方の娘に手を出してしまったんや!酒飲んでそれから記憶がすっぽり抜けてるからわからんがやってしまったのは確実やぁ!本当にすまへんッ!!其方が望むのであるなら、ウチは腹切る覚悟はしてはるでぇ!!」
そう言ってバルザックは懐から刀を取り出して、腹に突き立てようとして………ナザールに頭ぶん殴られて強制終了させられた。
「…………話の筋が見えんのだが」
「………私から説明しますお父様」
その奇行に少し引き気味な銀鉄さんに小鈴さんが事の経緯を説明した。
「ーーーーなるほど、事情はわかった。…………しかし、夫婦なら当然のことではないのか?」
「……………………はい?」
ん?"夫婦"?バルザックと小鈴さんが?
「えーと?銀鉄殿?それはどういうことや?」
バルザックも私と同じく疑問に思ったのか銀鉄さんにそう聞いた。
「あの式典は古くから海神龍の嫁を決めて婚約する催しである。あの時の海神龍はバルザック殿…貴女であり、龍の嫁は小鈴である」
「………………あ、なるほど。そういうことかいな。……いやでも誓いは!?あんた言ったよなぁ!小鈴ちゃんには手を出したりしないでくれって!」
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「私は貴女とはそんな約束をしていないぞ?私がその約束をしたのはあの日姿を見せなかった声の主であるからなぁ」
バルザックの抗議に銀鉄さんはいい笑顔で笑いながらそう言った。
「んな屁理屈なぁ………」
銀鉄さんのいい笑顔を見てバルザックは肩を落とした。というかいつの間にかバルザックと小鈴さん結婚していたんだ………
「バル様はどうやら忘れていた様でしたので、先日ナザール様にご相談したのですよ?」
とここで小鈴さんは落ち込むバルザックの肩に手を置いてそう言った。するとバルザックはギョッとした様子で海に向かって頑としているナザールを見た。
「ナザールゥ!お前、共犯やってんか!道理でおかしいと思ったんや!お前が酒を誘うなんてあり得へん話や!」
「…私は背中を押しただけだ。何も関係ない」
ナザールのその言葉に長いため息をついたバルザックは改めて小鈴さんと向き合った。
「なんか………すまなかったなぁ小鈴ちゃん。その、改めてよろしくな?」
「はい!末長くお願いします!」
こうしてバルザックは可愛い嫁さんを手に入れることができたのであった。
「なぁ、ナザール」
「…なんだ?」
「ウチと小鈴ちゃんのこと知っとったなら、なんで油風呂なんてさせたんや?」
「………………嫁を貰ったお前がムカついただけだ」
「なんやそれ!?酷くないそれ!?
次から新章です




