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転生した鏖殺姫は今日も仲間と共に楽しく暮らします  作者: 骸崎 ミウ
平和?な日常
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幕間〜銀狼の姫君のとある夜に〜

私は獣王国タルザリアの現当主を務めている天狼 銀鉄の娘、天狼 小鈴です。



此度は3大武家の1つである釜成家(かまなりけ)の長男と婚約することになりました。本来なら喜ばしいことでしょうが、私はこの婚約が嫌で堪りません。



釜成家(かまなりけ)には色々と黒い噂があり、釜成家(かまなりけ)の長男はその黒い噂の筆頭にいます。事実、釜成家(かまなりけ)の長男は精霊から見放されています。



精霊は人の内側を見通す力を持っており、その力を使って綺麗な内面を持つ者を選び、相性が良く気に入れば契約をします。



そんな精霊から見放されている程今までに後ろ暗いことをしてきたという者との婚約は始めのうちは私もお父様に嫌だと抗議しました。



しかし、この婚約は国を維持する為に必要な婚約であり、お父様も釜成家(かまなりけ)の黒い噂を知った上で私の婚約を決めていました。



出来ることなら婚約を破棄したいが他の2つの武家は何故か没落寸前で婚約には不向きということでした。



………お父様は終始私に謝っていました。



拳を強く握り歯を食いしばっている様子を見てから私の心に諦めが宿りました。



それから婚約が決まってからは夜に部屋から抜け出しては庭園の離れで池を眺める毎日。



屋敷を出ようにも元々身体が弱くて少し走った程度で息切れしてしまう私では行ける範囲が限られています。



「ーーーーはぁ……」



ここ最近、憂鬱な気持ちの為かため息が多くなっています。そういえば今日お父様から最近貿易を始めた魔王軍の方々がやって来たと言っておりました。



人数は5名で魔王様と『七大罪龍(セブンズドラゴン)』という異界からやってきた龍の皆様です。



遠目から拝見しましたが、あれほど精霊に好かれている方々は見たこともありませんでした。何と言いますか、生命としての格が違うとそう思いました。



「ーーーーーーーはぁ……」



あの方々を思い出して自分の惨めさを実感してまた憂鬱な気分になってしまいました。



そして、何度目かわからない叶うはずのない願いが思い浮かびます。



……………誰かと恋をしてその方と婚約をしたいと。



「ため息ばかりついておると幸せは逃げてくで?銀狼の姫君」



「ーーーーえ?」



すぐ隣から声が聞こえてきて振り返るとそこには色気漂う美女がいました。



肩まで伸びた髪は深い青色で先が触手の様になっており、何処か猫を思わせる顔に縦に割れた翡翠色の瞳。背は私より少し高いくらいで体型ははっきりとしたふくよかなものです。



服装は男物の着物に派手な色の羽織を着ていました。まるでならず者の様な格好ですが、不思議とこの方には似合っていました。



そして、頭からは玉の枝の様な煌びやかな角が2本生えており、耳に当たる部分は魚類の様なヒレが腰からは光沢のある艶やかな尾が生えていました。



「え、えっと、貴女様は?」



「ウチはバルザック。今日ここに来た魔王様御一行の1人や」



魔王様御一行?この様な方がいたでしょうか?…………………あ。



「もしかして………水の精霊様に大変好かれていた方ですか?」



「あのマリモ状態が好かれておるならそうやな。というかあれ、動きづらくてなぁ。にゃははは!………ところでお嬢ちゃんは?」



「わ、私は獣王国タルザリアの現当主を務めている天狼 銀鉄の娘、天狼 小鈴です」



なんだか捉え所のない様に感じるバルザック様に少し怯えながら私は答えました。



「小鈴ちゃんかぁ、よろしゅうな。………それにしても月光に照らされた銀色で儚くも美しい月下美人の様に綺麗やなぁ」



バルザック様は優しげに微笑むと私の髪を一房手に取りそう言いました。その耳に届いた声はいつまでも聞いていたい心地よい響きでした。



「え、えっと……」



「むぅ?反応が薄いなぁ…まぁ、ええか。それより、小鈴ちゃんはどうして1人でこんな場所におるんや?この国の姫様が1人でこんな開けた場所に居ったら色々とあるやろ」



「……………………1人になりたかったからです」



「それは先のため息の原因か?」



「……………………」



バルザック様の質問に私は無言で返しました。



すると彼女はどこからか器と徳利を取り出すと徳利の中のものを注いで手渡して来ました。



「これは甘酒や。酒精を抜いた甘味水の様なやつで酒が飲めん奴も飲むことができる。………何か嫌なことがあればウチに話してみ?誰かに話すと幾分か楽になるで?」



私はバルザック様から白くとろみがかった甘酒が入った器を受け取って、彼女に言われた事を考えて………今まで自分の胸に溜め込んでいたものを話しました。



不思議な事にバルザック様に対しては自分の胸の内を曝け出すのに抵抗がありませんでした。おそらく、彼女が纏う海の様に広く穏やかな雰囲気に当てられたのでしょう。



バルザック様は私の話に静かに耳を傾けてくれました。



「ーーーーそうか…………なら、決まりやな」



私が話し終えるとバルザック様はそう言って立ち上がりました。そして、私の目の前に移動すると膝立ちになり、私の手を取りました。それだけで何故か身体が火照ってきました。



あ、あれ?あの甘酒からはお酒の匂いがしなかったのに……。



「小鈴ちゃん。よう耐えたなぁ。こんな事、部外者でなんも知らんウチが言うのもアレやけど、よう頑張った」



「ーーーーーー、ぁ」



慈しむように優しく微笑むバルザック様にそう言われて、なんだか、今までの行いが全て報われた……そんな気がしました。



「その式典で海神龍様とやらが出ればええんやろ?なら、ウチに任しとき。大丈夫、悪い様にはならへんよ。ウチは可愛い子の味方やからな!」



その後、もう夜が遅いということからバルザック様は私を部屋まで送り届けてくれました。



水の精霊様を呼び出してまるで海の中を泳ぐ様に夜空を進む光景は夢心地の気分でした。




また、お会いすることができるでしょうか………。


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