箱の中身
「「ーーーーまだ帰ってない?」」
夕食も食べ終わり、寝るまでののんびりとしている時間帯。何故か全員私とリュウエンの客室に集まっている。
「あぁ、使用人にも聞いたが誰も見かけてないそうだ」
アリシアは面倒な事になったと言わんばかりにそう言った。
………ふむ、ここを右に引いて少し押し込んでから時計回りに90度回すと。
「確かに朝から変な感じはしていたけど、いつもの様な感じじゃなかったよね?」
リュウエンが今朝の記憶を探る様にそう言った。
む?ここでダイヤル式錠?えーと………聴診器どこやったけ?
「…なにもないといいのだが……………おい、ルナティア」
「なんじゃ?ちょっと静かにしてもらえんかの?あと一桁で解錠できそうなんじゃ」
「…お前は一体なにをやってるんだ」
「箱開け」
元々1メートル四方の箱だったが、解除するたびに展開して縦横が3倍くらいなっていったのだ。今はおそらく最終段階のダイヤル式錠である。
そして、ダイヤル錠の最後の一桁を当てるとからくり箱は『カチンッ』と音を鳴らして開いた。
「おぉ、開いた開いた。さてさて?中身はなんじゃ………………なんじゃこれ」
入っていたのは真っ黒な8つの木箱。紙で封をしてあり振ってみると中から粘着質な音がした。匂いを嗅ぐと濃縮された美味しそうな香りが………
ん?待て。美味しそうな香り?なんでこの箱から人の血の匂いなんかするんだ?
私は疑問に思い、《龍眼》を使って調べーーーーーーーーーー
『鑑定結果:コトリバコ・ハッカイ』
「ニ゛ャアアアア!?!?」
その箱を素早くからくり箱に納めて開けた時とは逆の手順で閉じていき、完全に閉じ切ったら《深淵魔法》の封印と前に作った封印用の魔導具を雁字搦めにした。
そしてすぐさま《眷属召喚》で1番の適任を呼び出す。
ミラの時とは違う金色の魔法陣が出現して出てきたのは金髪の狐耳の美少女である。
眩しいほどの腰まで伸びた金髪を赤いリボンで一纏めにして9つあるもふもふな尻尾に綿毛の狐耳。服装はビキニトップのような形状の白い胴衣からは胸元や肩が大胆に露出していて、分離された袖部分が申し訳程度にこれが着物である事を主張し、朱袴は前面だけ無く真っ白なビキニパンツがむき出しというなんとも際どいものだ。まぁ、何を言いたいかというと和風ビキニアーマというものだ。
「呼ばれて参上!我が名はイズモなり!さぁ、お館様?一体なんの様でしょッニギャアアアアアアアアアア!?!?」
イズモは私を見た途端、尻尾をこれでもかと膨らませて悲鳴をあげた。
「ちょッお館様!?何故にそんな即死級の呪いをべったりつけてるのですかぁ!?」
「説明は後じゃ!早く清めの儀をしておくれ!」
「合点招致!ほな行きまっせぇ!《天狐の息吹》!」
イズモが術を発動させると私の周りが清らかな空気に包まれて気分が良くなった。
イズモは回復支援型の九尾の契約獣であり、ソロプレイの頃からの付き合いだ。ちなみに服装はデフォルトである。
「ーーーーハァ、感謝するイズモ」
「別にいいですよ。それより、何があったんですか?もしかして、その異常に雁字搦めにされている箱が原因ですか?」
「まぁ、そうじゃ。それは市場で買ったからくり箱でな。中を確認したら、コトリバコが入っておった。それもハッカイの」
「はぁ!?ちょっとどうするんですかこれ!?」
私の説明にイズモと先の私の行動に呆気に取られていたリュウエン達が驚愕した。
「急にどうしたんだ?それにコトリバコとはなんだ?」
唯一コトリバコを知らないアリシアが聞いてきた。
「………コトリバコは女子供を呪い殺すことに特化した呪物です。見た目のよい木箱に、動物の雌の血を入れて満たして、水子……流産した赤子を入れて決して開けられないよう厳重な封をした後、殺したい人物に渡して、もっともらしい理由をつけて身近に置かせると呪われた者は血を吐き、内臓が少しずつ捻じれて千切れて、苦しみ悶えながら死にます」
「…水子の数だけ呪いの強さが上がる代物でな。特にハッカイ……8人ともなれば術師本人にも命を落とす危険があるものだ。………………お前、どうやってそんな危険物を手に入れた」
「え、えーと、昼にからくり市場で露店開いていた婆さんからこの狐の面と一緒に買ったんじゃよ。なんか、凄く気になっての?」
「「「……………はぁーーーーーー」」」
私が説明すると3人は凄まじいため息をついた。
その後、コトリバコの入ったからくり箱は遠い人間の国の宝物庫に転移させて、イズモから本格的なお祓いを受けてリュウエンから浄化の炎 (物理的な)を受けてまっさらな状態になった。
そして、リュウエンから彼女が編み出した《時空魔法》で時間が延長された空間で"お仕置き"を受けた。
次の日には腰砕けになり、1日中布団の住民となった。




