祭り〜3
祭りの2日目はのんびりと過ごした。流石に連日は疲れるし飽きる。
その日は離宮にあった本を読んだり、手持ちの武器や魔導具の整備したりした。
そして祭り最終日の夜。
賑やかだった城下町は静かになり、街を淡い光が包み込んでいる。
人々の手には灯籠があり、それぞれが思い思いに夜空に向かって飛ばしている。その光景はまるで天の川の様だった。
「綺麗だねぇ…………」
「そうじゃなぁ……」
私たちはというと離宮の屋根に登り、景色を眺めていた。
日本の街の蛍光色が作り出す昼のような明るさよりもこの世界の優しい光の方が私は好きだ。夜空も空気が澄んでいて満天の星空が見える。幸い、今夜は新月みたいだから星の輝きが極まっている。
私たちの間に会話はない。
遠くから聞こえる街の喧騒と空を舞う灯籠をただ眺めている。この沈黙は苦痛ではない。むしろ心地いいぐらいだ。
互いの長い尾が離れてはくっついて、軽く巻き合えば解かれるをしていた。
「ねぇ、ルナちゃん。私とルナちゃんがはじめて会った時のこと、覚えてる?」
心地よい沈黙の中、リュウエンは静かに聞いてきた。
「もちろんじゃよ」
私はそう答えた。
私が姉の紹介で『nightmare memory』を始めて1年が経ったある日。その頃から私はPKをして楽しんでいた。
その日もいつもの狩場でPKを勤しんでいたら、私に恨みを持つプレイヤーが一致団結して襲いかかって来た。
1対多の攻防の末になんとか勝てた私は息も絶え絶えでその場を後にした。『nightmare memory』は変なところがリアルであり、激しい戦闘をすれば息苦しさが一定時間付き、動作が鈍くなる。
もちろんそれは休憩すれば治る為、私は目立たない場所で休んでいた。回復系アイテムは切らしており、転移系も持ってきていなかった。
人がほとんど来ない場所で油断していた時、私は声をかけられた。それがリュウエンだった。
彼女は私が怪我しているとだけで回復アイテムを譲ってくれた。私は自分がPKを主流にやっているプレイヤーだと脅しながら言ったが、彼女はそんなことを意に返さずに手当てしてくれた。
正直言って意味がわからなかった。
そして、何度かの交流の末にフレンド登録をして共に遊ぶ様になり、ナザールとギルドを立ち上げた際には最初に勧誘してメンバーの一員となり、オフでも交流ができ、今では結婚まで至った。
「ほんと、今思えばヌシはよく我を治療しようと思ったのぉ。あの時から随分と名は知られておったはずじゃぞ?」
「確かにね。でも、その時の私はルナちゃんの噂は聞いたことなかったし、何より怪我している人がいたらほっとけないでしょ?」
「……………お人好しじゃな。ヌシは」
私はそのままリュウエンを肩に抱き寄せた。
彼女の比較的高い体温が夜風で冷えた私の身体を少し暖かくした。リュウエンも私に身を任せて肩にもたれ掛かっている。
そんなふうに2人で景色を眺めていると、
「…ここにいたのかふたりとも」
下からナザールがジャンプしてやってきた。手には丸い饅頭みたいなものが大量に入った紙袋を持っていた。
「…食うか?」
ナザールは饅頭みたいなものをモチャモチャと咀嚼しながらそれの入った紙袋を手渡してきた。
「あぁ、貰おう」
私は1つ手に取り口に入れる。生地は饅頭そのものだが、中の餡は何かの肉だった。
そうして、夜景の見物にナザールが加わり、私たちの静かな1日が終わりを告げた。




