早朝
「────ッ」
目を覚ますと最初に目に映ったのはあの時の地下ではなく豪華な天蓋でした。
そして身体は『鬼龍院 椿』ではなく『ティアムンク・ヴァルプルギスナハト』のものでした。
「………この身体になって久しぶりの夢でしたね」
私はひとり言をそう呟いてぼやけた頭を振ります。
あの日、あの場所で私は私の一部を代償にお姉様の秘密と力を得ました。もちろん、その辺りから痛みによる快楽を堪能し始めましたがそれは別の話に。
それからというもの色褪せていた日常が色づき、とても魅力的なものへと変化しました。
しかし……そう考えるとお姉様を殺した輩と女神には心底腹が立ちますね。
もし、あのままお姉様が殺されなければ、お姉様は私の専属の護衛としてずっと側にいれましたのに………
尚、殺したというよりお姉様を虐めていた輩にはもれなく全員私の触媒になってもらう予定でした。
きちんと『消息不明』という形で余す事なく全員を。だって、彼らは私のお姉様に手を出したのだから当然でしょう?
婚約はリュウエン様と決まっておりました。もし決まっていなかったら私が貰って差し上げましたが、そこはお姉様の幸せを優先にという事で。
しかし……あの様な夢を見たという事はやはり、昨日のアリシア様の無謀とも思える提案に乗ったせいでしょうね。
まったく……。この世界の者如きが私を支配できるわけがないではないですか………
元の世界ならいざ知らず、この世界の者は私に宿る霊力……こちら風に言い換えるなら魔力に対する耐性が皆無なのですから。
世界が違えば霊力の質も性質も変化する。肉体に合わない霊力を取り込めば魂魄が砕けて廃人になるというのは常識です。
それすらも理解できていないのでしょうかあの人は………
…………いや。呑まれたのは私ですね。
前世込みで久しぶりに見た私が大嫌いな目。自らをも犠牲にしてまで守り通そうとする決意の目。
─────ほんと、馬鹿馬鹿しい。
守り通すことなんて出来るわけないじゃないですか。どんなに力や財力があっても、守りたい時に守れない。それを成す力すらもないのでは守れないなど当たり前。
本当に、嫌になります……。まるで、昔の自分を見ているかの様に。
とここでノック音が聞こえて来ました。
『おはよう御座います先生、私です。メアリーです。入っても宜しいですか?』
「………フロイラインですか?いいですよ」
『では、失礼します』
一言断りをいれて入って来たメアリーはシャツにズボンとラフな格好をしていました。まぁ、毎日ドレスだのは大変ですからね。
「先生は本日の予定などはありますか?」
「特にはありませんね。街の散策も荒方終わってしまいましたし」
「そうですか。でしたら、本日は我が国の学園へ見学に行きませんか?我が国の学園では呪術を中心に学びが開かれていますので」
「それはいいですね。行きましょうか。……………ところでアリシア様は?」
「お姉様は昨夜から体調を崩していて今は寝込んでいます。おそらく、旅と日頃の業務の疲れが一気に来たせいでしょう」
「それは………確かにアリシア様はこのところ働き詰めでしたからね。仕方ありません」
実際には私の血を飲んだせいですが。
とにかく今日の予定は決まりました。




